第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十九
―――傭兵どもへの攻撃と警戒、そして警告は同時に続いたよ。
プレイガストも可能な限り、武装解除と傭兵どもの退避を勧めつつ。
過度にそれを期待しないのも、彼らしい特徴だった。
きちんと殺しもした、妻に習った弓術の勘を取り戻している……。
「意外と、いい腕ですよね」
「瘦せ細った身の割りには、そうだと思う」
「呪術による、補強。思っていた以上に、有益かもしれません」
「戦闘のためでもあるが、医療にも使える」
―――呪術の医療利用について語りながらも、反抗的な傭兵の背中に矢を命中させる。
プレイガストという男の価値観が、集約された態度かもしれない。
合理的であり、やはりちょっとは壊れているのさ。
乱世に生きる呪術師らしく、純粋なだけでは生きてはいられないのだよ……。
「傭兵諸君!!ずい分と数が減ってしまっているぞ!!私たちは逃げる者は追わないという明瞭な方針がある!!諸君もそれを理解して、安心して逃げているな!!帝国軍からの永遠の離別となってくれることを期待しているぞ!!シドニア・ジャンパー少尉による帝国軍兵士からの横領は、とっくに露呈している!!諸君は、彼女と『同罪』の立場なのだ!!帝国軍に合流すれば、その時点で拘束、簡易な裁判か、あるいは現地指揮官の裁量のもとに処刑。もしくは、リンチで殺されるだろう!!」
―――冷徹な現実を、傭兵どもに教え込むのも大切だよ。
シドニア・ジャンパーの罪深い詐欺と、我々が喧伝したおかげで。
彼女の私兵である傭兵部隊は、窮地にあるのさ。
このまま帝国軍と合流すれば、リスクが大きいのさ……。
「『自由同盟』はシドニア・ジャンパーの罪を利用する!!帝国軍兵士から、詐欺に満ちあふれた競馬や、軍郵便の不正利用などなど!!数多の詐欺行為を、数学的、統計的に見破ってやれる!!諸君は帝国軍に、再び雇用されるなどと思わない方がいい!!雇用ではなく、逮捕のために諸君は帝国軍に傭兵担当窓口から呼ばわれるのだ!!」
「……そういう組織が、あるんだね」
「傭兵担当の窓口。帝国軍に、長く囚われていたおかげでしょうか。詳しいんですね」
「……怪我の功名、というのもあるのさ」
―――心理戦の最強カードは、実在するリスクを敵に突き付けることだ。
プレイガストは帝国軍への理解が強い、長く共にいた結果じゃあるね。
囚われ拷問を受けながらも、多くの兵士と会話を重ねた結果。
帝国軍の理解と、帝国兵が敵にさえこぼしたくなる不可避の苦悩に詳しい……。
「諸君は帝国軍の金融システムを、少しは理解しているだろう!!傭兵の裏切りを制限するために、軍郵便、軍と懇意な帝国系銀行にも口座を作らされたのではないだろうか!!それをした者は、帝国がある限りマークされる!!不用意に銀行に近づけば、追手から命を狙われる日々の始まりにもなるだろう!!」
「ふ、ふざけんな」
「オレたちは、シドニア・ジャンパーに騙されただけだ」
「あの男は敵なんだぞ!?敵の言葉に、踊らされるな!!」
「し、しかし。ヤツの言葉を、全て嘘だとは思えないのだが……っ」
「私の言葉は、真実である!!諸君の居場所は、『自由同盟』側に絞られつつあるのだよ!!『自由同盟』が勝利したそのとき、諸君は帝国軍という巨大な暴力組織に追いかけられるリスクが消えるのだ!!」
「……なるほど。そう言えば、敵の寝返りも期待できるんだね」
「……『外』の戦術は、とても興味深いものがあります」
「君らほど、純粋ではない。それは明らかな弱点であるときも多いわけだ。さて、あそこの連中は強情だね」
『ころしに、いこー!!』
「うん。十人ぐらい集まっているから、注意はしないとね!!」
『うん!いらないきずは、おうつもりはないもん!!』
「ククリ、『デリバリー』を使いましょう。腕に覚えがあるみたい。遠距離の矢は、叩き落とされるかもしれないし。でも、ゼファーちゃんの魔力を使う相手でもない」
―――体力と魔力を温存させるのは、戦場において最も意識すべき点だった。
ククリとククルは、このあたりの管理が上手だったよ。
自分たちの能力を、決して過信することはない。
命を捨てる戦術だって、冷静に選べてしまうのが『メルカ・コルン』だ……。
―――自分の価値を、高くも低くも見積もることはない。
それは当然ながら、敵に対しても変わらないよ。
眼下に集まっている反逆的な傭兵どもの腕も、正しく評価している。
マトモな遠距離射撃で倒すよりも、ここは魔術に頼った方が早いのさ……。
「こいつらを殺して、敵を黙らせる」
「私たちが、戦場を制圧するんです」




