第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千十七
『ねえ、『どーじぇ』!なにか、あるよ!』
「あ。ほんとうだ!古い遺跡っぽいのがある!」
「……おう。『呪いの赤い糸』も、あそこに集中してはいるようだが……」
「罠かもしれないであります。向こうが、逃げ出していないならなおのこと」
「傭兵コルテス。そいつらもいるのか。楽しみだな。ジャン!」
「は、はい。鋼のニオイが、あ、あちこちからしています。おかげで、ちょ、ちょっと人数の把握が……二十から、百以下……」
「伏兵がいるというわけであります。団長、無理な突撃は避けるべきであります」
「二十なら楽だが。百近くになれば、攻略に時間がかかるからな」
「無理じゃないってか。まあ、そうか。オレがいた拠点だって、手練れ揃いじゃないとはいえ、百人以上はいたはずなのに……」
「手練れの傭兵部隊というのは、なかなかシビアな敵だからな。楽しみではある。しかし、暴走しかねんからな。傭兵の多くは、統率や忠誠心の面で、あまりにも信用できん」
「たしかに、いい加減な傭兵も多いって、キュレネイさんとの敗残兵狩りで思い知ったところがある」
「腕がいいのに、指揮系統に反する悪癖を持つ傭兵は、やたらと多い印象です」
「腕がいいから、一つの国以外にも雇ってもらえるって分かっているの。それはそれで、傭兵らしさじゃある」
「イエス。そちらの方が、一般的な傭兵であります。『パンジャール猟兵団』ほど、職業倫理を持っている連中ばかりがいるとは限らない」
「つ、つまり。あまりに一方的に攻撃してしまうと、ぼ、暴走するかもしれませんね」
「暴走っていうのは、もしかしてだけど。少尉に危険が及ぶようなこととか!?」
「まあ、オレたちを危険な目に陥れるには、たったの百人の手練れでは足りんところはある。だが、シドニア・ジャンパーを殺して、彼女から財産を奪って逃げるという選択肢なら、百人はあまりにも多すぎる。十人の裏切り者がいれば、事は足りるだろうよ」
「傭兵コルテスは、そこそこ信用できるはずなんだけどな……っ」
「そこそこ、大切な女の命をあずけるにしては、頼りがないとは思わんか」
「……っ。傭兵は、少尉に忠実だった。少尉も、連中の反乱対策ぐらいはしていると思うけれど」
「だいたいの傭兵が、追い詰めると職務放棄したりする。あと、雇い主を襲っちゃう場合も数多いよ」
「やめろよ、演技でもない。ちくしょう。真実ってのは……」
「逃げ場は用意しておくべきであります。百だろうが二十だろうが、シドニア・ジャンパーに最後まで付き合おうとする傭兵は、いたとしてもほんのわずかなはず。大半が、この戦場から遠ざかって逃げたがるはず。分が悪いと判断させればいい」
「となれば、呪術師として手を貸せるかもしれませんな」
「プレイガスト、いい攻撃方法があるのか?」
「呪術で。私だけの魔力では、とても足りはしませんが。そこに、ヒトとは比べ物にならないほどの魔力が、おられますので」
『もしかしなくても、ぼくのことかな!』
「ええ。竜。貴方の魔力を借りて、私が傭兵たちに呪術を刻み付ける」
「どこまで、傭兵から力を奪えるんだ?」
「やってみなくては、分かりません。しかし、竜の魔力を借りられるなら、隠れている者さえも、呪い殺せるかもしれません。もちろん、それは禁じ手になりますね」
「当然だ。シドニア・ジャンパーは、生かして捕まえねばならん。無差別な攻撃で殺すつもりはないんだ」
「と、当然だよな。少尉は、アンタにとってとてつもなく大きな利用価値があるんだ。絶対に、殺しちゃいけない。そうすれば、『自由同盟』が帝国に勝てなくなるかもしれないぞ!少尉がいれば、きっと、帝国にだって勝てるんだ!!」
「会計将校だからな。その知識量は、ノドから手が出るほどに欲しいのは事実。それは『自由同盟』のすべての幹部、王家も貴族も同意見になるだろう。彼女は、殺すにはあまりにも惜しい敵なんだ。可能な限り、生きたまま捕らえなくてはならん」
「そうだ。その認識を、みんなで共有しよう。とくに、女子チームだ。アンタらは感情的に殺しちまうかもしれないからな」
「ノー。殺すとすれば、慎重な判断があっての結果であります」
「そういう暗殺者的な発言は、謹んでくれないかい、キュレネイ・ザトーさん」
「名前を憶えているのはアタマのいい子の証でありますな。戦況というものが、どれだけ流動的で、悲劇の温床であるのかも、分かっているはずであります」
「分かっているさ。オレだって、一応は従軍している。戦争だって、見ちまったんだ。猟兵、ソルジェ・ストラウスに殺された死体の山だってな」
「オレは女性を殺さない主義だ。オレに斬り殺された死体なんて、なかっただろう」
「安心させる発言か?もっと、確実性が欲しいよ……」
「ノヴァーク、無理を言っちゃダメだよ。これぐらいが現実的な言葉。可能な限りがんばる」
「ううっ。プレイガスト。アンタの呪術のデキ次第のような気がしてきた。頼っていいのか?オレに、同情的なんだろう?」
「手足の動きを若干、遅くする。その種の呪術ですが、戦力の低下を理解すれば、この状況では離反を惹起するのには役に立つのではないでしょうか?」
「ああ。実に丁度良い呪術だな。それをゼファーに覚えさせられる機会になるってのも、気に入ってやれるぜ」




