第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千十二
「呪いなんて、返せるかよ。オレは、少尉を傷つけたくないんだ」
「ああ、そうだったね」
「恋する男なんだ。愛だ。人生で初めての愛のためになら……」
「分かるよ。死ねるんだ」
―――ハーフ・エルフとしての才能は、やはり生まれつきの魔術師の才だ。
ノヴァークもその点について、やはり素質がある。
呪術による死に対して、あらがう力も高いものさ。
だが反撃までは望まない、それもまた解決策なんだけれどね……。
―――そこまで、シドニア・ジャンパーに惚れる理由は彼にしか分からない。
ボクたちのような他人が、まして大人であるのなら。
向こう見ずなほどの若さにきらめく、ノヴァークの刹那的な愛なんてもの。
どう転んでも、なかなか全てを見抜けはしないだろう……。
―――この場で一番、ノヴァークの心を理解できる者は誰なのか。
それは誰よりも年が離れた、プレイガストなのかもしれない。
プレイガストほど、ハーフ・エルフについて考え続けた男はいないから。
ソルジェよりも、年上であり実際にハーフ・エルフの父だったのだからね……。
―――生まれる前から、ハーフ・エルフについて考えていた。
愛する妻のお腹が膨らみ始めたときから、ずっとだよ。
ネガティブな考えだって、当然のこと考える。
ハーフ・エルフ、『狭間』はこの世界に居場所を持っていないから……。
―――堕胎のことだって、アタマをかすめてしまう。
どんなに愛があったとしても、どんなに夫婦ががんばったとしても。
生まれてくる子供たちが、幸せに生きられる保証はどこにもなかった。
どれだけの悩みだったのか、どれだけの苦しみだったのか……。
「愛があれば、幸せなんていらない。私も、かつてそんな考えに至った男の一人だ。ハーフ・エルフの子供を抱える。それは、なかなかにシビアな現実との衝突を意味する選択だったから。実際、妻と私は追い出されるようにあの漁村から立ち去らなければならなかったんだ。妻も、私も……選んだ。愛をね。愛があれば、幸せなんていらないと、私たちはあの日、手を取り合いながら運命と戦う道を選んだのだ」
「悲観的過ぎるな。でも、分かる。そいつは、ただただ現実的ってハナシなんだ」
「ああ。おそらくは、私は君のご両親の苦しみも理解できるよ」
「アンタは子供たちの耳に、呪いをかけたのか?」
「考えた。長く、深く。そして、私たちはその選択を回避したんだ。子供たちの魔力が、良くも悪くも強すぎたからね。そういう子供たちに、肉体変異の呪術をかけ続けることは、私たちにとっても、そして、あの子たちにとってもリスクが高くなるんだ」
「呪術に対しての防御が、生まれもって高いから……」
「そう。より強い呪術にさらさなければならない。そうなれば、私はともかく妻が死ぬかもしれない。あの子たちだって、死んでしまうかもしれない。それは、耐えられない選択肢だったのさ」
「結果として、アンタらは……」
「不幸になったね。でも、断言できることがある」
「ああ、そうだろう。たしかに、アンタたちは愛があったんだ。そのせいで、不幸になったのかもしれないけれど……どうせ、苦ではないんだろう?」
「そうだよ。とても幸せな日々だった。長くはなかったが、幸せもあった。それは、愛が見せるひとつの真実だね」
「なるほど。その言葉は、ちょっとだけ救いがあるよ」




