第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その九百九十二
―――メイウェイの剣さばきは、かなりのものだった。
殺すつもりなら、その四人を一瞬で斬り捨てただろうね。
だが、それよりも難しい行動を選んでいる。
鋼だけを打ち落として、武装解除を目指すというものさ……。
―――若い大学兵たちからすれば、まるで神業そのものだったろう。
メイウェイの剣は十分に強いものだし、何より相手が混乱していたから。
戦場では『名誉』というものが、大きな力に化けるものだよ。
最強の将軍ならば、その剣術までまるで最強であるかのように敵は思い込む……。
―――追い詰められた帝国兵は、それなりの手練れだったのだから。
四人がかりでメイウェイに挑めば、刺し違える程度の力はあったかもしれない。
メイウェイはそれをさせなかった、その背中に続いた大勢の若い兵士たちのおかげで。
敵を混乱に叩き落としながら、連携させずに各個撃破だ……。
―――とても現実的な戦術だろう、猟兵のような規格外の強さに頼るわけじゃない。
ソルジェやシアンならば、メイウェイの三倍近い速さと四倍近い威力は出すからね。
だが、メイウェイは常人に誓いだけに。
学生兵たちからすれば、ちょうどいい手本になっただろう……。
―――ソルジェやシアンも、単独で百人の敵兵の陣形を崩せはしないんだ。
せいぜい三十人程度だろうが、それでも命懸けになってしまう。
戦場は数千人や数万人で戦うのだから、組織戦に頼る方が正しくもあった。
まあ、三十人破壊できる貫通能力があれば戦場は引っくり返せもするけれどね……。
―――『崩されるはずのない防壁』が、瞬時に破壊されてしまう。
そこから戦略そのものの前提を、大きく変える力が生まれるのさ。
そこから数千人だろうが数万人だろうが、『引き裂かれていく発端』になる。
英雄の力が恐ろしいのは、その点にあってね……。
―――メイウェイには出せない力だから、本人は敵を圧倒しつつも悩んでいた。
『伝説的な王』が最強の戦士であることは珍しくない、その能力は彼にはない。
ないからこそ、別の道を堂々と選べもする。
覇王の戦い方ではなく、あくまでも天才将軍の戦い方だった……。
「く、くそ……ッ」
「動くんじゃない。君たちの苦労ぐらい、分かってやれるんだ。私だって、帝国軍だったのだからね」
「……アンタ、意外と、武術は最強じゃなかったな」
「その通り。君より、少しぐらい強い程度のものだ」
―――圧倒した敵のなかで、いちばん強い男からすれば。
剣術の腕だけなら、メイウェイと大差はなかったよ。
それだけに悔しい、剣と打ち落とされた理由は明白だ。
戦術に飲まれて、心理で負けてしまっただけのこと……。
「これで、殺されるとすれば……心残りは多い」
「殺すつもりはない。捕虜にするのさ。私の捕虜として、帝国軍から身代金と譲歩を引き出すための駒になる」
「……サイアクだ。十大師団ならともかく、オレたちが身代金を引き出す駒になれるものか」
「なれるさ。あまり、自分の命を安く思わないことだ。そして、我々、『自由同盟』の交渉能力と、大義を過小評価すべきじゃない。帝国軍に『引き出させる』んだ。帝国軍に対して、兵士への忠誠を強いる。その力は、十分にあるのさ」
「なんだよ、急いで来てやったのに。もう終わっちまったのか」
「アーベル。わざわざ、来てくれるとは」
「副官もどきだからな。アンタの。それで、そいつらが火付けの悪人どもか」
「……ハーフ・エルフごときに、悪人呼ばわりとは」
「気を付けることだな。オレは短気で、ガラが悪い。メイウェイや大尉たちより、残酷だぞ。死にたいなら、殺してやってもいい。さっき、いい技を得た。いい得物も。試し切りをしたい気持ちになっている」
「脅してやるな、アーベル」
「……脅しているつもりもない。ただ、選択肢を与えてやったつもりだ。捕虜になる気がないなら、生きていられる道はない。戦い、死ぬのも、悪くはない道だろう」
「アーベル、私の捕虜だ」
「分かってる。おい、学生兵たち。この捕虜どもを縛り上げろ。ナイフや暗器に気を付けるんだ。剣でも槍でも、もちろんそのどちらも使った方がいいが……敵の肌に突き立てるようにしながら、縛るんだ。抵抗すれば、殺せ。逃げようとしても、同じだ。同情は厳禁だ。戦場でいちばん人が死ぬのは、撤退戦の最中だが……その次は、油断で死ぬ」
「その通りだぜ。いい教訓だったぞ、アーベル。若手に響く」
「レイオーン家の教えだ。オレだけの教訓じゃないからこそ、響くんだろう」
「……レイオーン家だと?ハーフ・エルフなどに、家名があるのか。まして、それは、帝国貴族の……」
「そうだ。バハル・レイオーンさまの養子として、オレは背負う」
「……笑えるぜ。ハーフ・エルフが、よりにもよって……帝国貴族だと?」
「自分でもどれだけの皮肉なのか、分かっているさ。だが、決めちまったんだから、しょうがねえ。傭兵もいいもんだぞ。この政治と軍事と金で縛られた大陸の土地の上で、やたらと自由に自分を貫ける。お前らも、次に所属を選ぶときは、候補に入れるといい」
「我々は、帝国軍だ」
「エリート軍でなくても、か」
「その通り。お前たちのように、裏切りはしない」
「裏切らなくても、帝国そのものが消える日だって来るぞ。オレの剣が届く範囲に、一瞬でもユアンダートが入れば、必ず殺す。そんな気概を持った戦士は、いくらでもいるんだからな」




