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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百九十一


―――メイウェイは優れた軍人だから、自分の言葉もすべて戦術として用いる。

『包囲は、完璧なんだ』。

それを告げることで、帝国兵どもがどんな心理になるかも知り尽くしている。

絶望を、与えるということさ……。




「……学生兵諸君。君らも軍事教練で習っているだろうが、敵をこのように包囲したとき、最も恐ろしいのは『絶望』だ。絶望した敵は、死に物狂いで我々に抗おうとする。だからこそ、『隙間』をあえて残しておくべきだ」




―――メイウェイの言葉を待っていたかのように、レイ・ロッドマン大尉は動く。

指を動かして指示を飛ばし、包囲の陣形を操作したのさ。

敵が南西へと逃れる道の守りを、あえて弱くしている。

こうすれば何が起きるのか、学生兵たちの前で帝国兵どもが実演してくれた……。




「正面から、戦うべきだ。こ、殺されるぐらいなら、大勢を道連れだ!!」

「い、いや。投降するのも……」

「亜人種どもに、屈するのかよ!!」

「死にたくはない。敵に屈するのも、嫌だ。となれば……」




「包囲された敵は、逃げ道を必死に探すものだよ。そこを突き破り、逃げ延びれば死なずに済むからだ。連中に、私と大尉は逃げ道をあたえた。こうすることで、連中は選択肢に幻惑される。全面衝突か、あるいは逃亡か。戦争において、戦術の成否を決めるものは、純度である。彼らは、今、その純度を失おうとしているのだ。正確には、我々が、失わせている」




―――現場での教訓には、敵や味方の血が通っているものさ。

だからこその重みというものがあって、教育に適したものではある。

若い学生兵たちは、実戦と勝利と実績に飢えつつも。

ソルジェとは異なり、恐怖という概念もちゃんと有しているからね……。




「効率的に戦うべきだ。心理や感情というものは、戦場という極限状況では、極めて単調な集約を見せるものだよ。帝国軍より、『自由同盟』は数が少ない。練度のある兵の数も、少ないのだ。だからこそ、若者たちよ。生き延び、賢さを磨いてほしい。若いからといって、君らには老獪さを使いこなせないとは限らないのだ。使える兵士に、いち早く育ち、戦力全体を底上げせねばならない」




―――メイウェイの理性と、『大学半島』の学生兵たちには親和性があった。

経験値というものは、いつでも才能を言語化してくれるものでね。

メイウェイの軍才あふれる言葉に、学生兵たちは理解を示せる。

包囲しすぎれば『圧』が高まるから、抜ける道を用意しておけ……。




「た、戦うべきではないのか!?」

「逃げるべきだろ、犬死には……」

「投降した方がいい。逃げても追いつかれるに決まっているじゃないか」

「落ち着け。これも、敵の策なんだ……ッ」




「戦術というものは不思議でね。罠だと理解していたとしても、ハマってくれるものだ。ヒトは知識だけを信じ切れるものではない。自分の経験も、自分の判断も、極限状態ではいともたやすく疑えるのだ。戦場で注意すべき教訓を、もうひとつ。怯えるべきではない。あらゆる美徳のなかで、戦場で求められる要素がいつでも『勇気』なのは、理性をより良く使うためである」




―――まるで教師だったよ、その態度は学生兵たちにはとてつもなく馴染んだ。

メイウェイは教師を演じたつもりはない、彼本来の資質の結果に過ぎない。

優れた戦士は年を取ると、指導者然としてくるものさ。

剣を抜いたメイウェイは、若者たちに今度は大声で伝える……。




「突撃隊の志願を募ろう!!あのかたくなな帝国兵どもを殺し、捕虜とする勇気のある者があれば、私にその意志を示せ!!陣形を崩さず、前に出て、手に持った武器を掲げるのだ!!」




―――血気盛んな若者たちが、メイウェイの募集に応えてくれる。

剣を抜き放ち、槍を掲げて。

弓を見せつける者もいれば、戦斧を振り回す者もいた。

さまざまな武術と種族の混成部隊、カオスに見せかけた実際は違う……。




―――腕っぷしに自信のある、武術歴のある者たちだよ。

『大学半島』の学生たちの多くが、名家の生まれだからね。

生き延びるために、幼い頃から武術を叩き込まれた者たちも多いのさ。

ひと際鍛えられた者たちだけが、一歩前に踏み出したんだ……。




「こうすることで、強者のみを目立たせる。敵からすれば、軍隊のすべてが強兵ぞろいのように見えるというわけだ。勇気の使い方のひとつとして、この威圧の力も諸君らは学ぶといい。敵軍には絶望をあたえるのだ。過度ではなく、制御された絶望を。連中は逃げ腰になった。仕上げをかけよう。突撃する。私に続いてくれ。敵の全員を、捕縛して情報源、そして人質交換用の捕虜とするぞ」




―――メイウェイは走った、剣を抜き放ったまま。

猟兵並みとまでは言わないが、十二分に達人の動作だったよ。

道場剣術とは異なる、戦場のための動きだ。

駆け回りながら敵を襲う術も、逃げ回る脚も戦場にはいるのさ……。




「と、突撃がくる……っ。む、迎え撃つんだ!?」

「お、オレは逃げるぞ!!付き合ってられない!!」

「……くそ、こ、降伏しようと言っているんだ……っ」

「……やられた。こうまで、連携が乱れていれば、ろくに動けない……メイウェイめ」





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