第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その九百八十六
―――レイ・ロッドマン大尉は、こうして釘を刺してくれた。
ソルジェはメイウェイを信用しているものの、多少は脇の甘さがある。
ボクがそこにいれば、同じように面談していただろう。
メイウェイの望みを、確認しておくために……。
「国が得られるなら、『自由同盟』側にいると」
「そうだ。やはり、焦がれるよ。一国一城の主というものには」
「その権利はある。誰にもある。とくにオレたちに」
「……都市国家たちをまとめ、王となりたい」
「『王なき土地』の『王』かよ。何とも、刺激的なフレーズだ」
「リスクは承知の上だ。諸都市を攻略し、当面の管理者として、彼らを導く。王権を確立していくのは、こっそりとやろう」
「……協力者は、誰を考えている?」
「いちばんの協力者でいて欲しいのは、君だよ。表でも裏でも、支えて欲しい。満足してくれる地位を、君と……君の妻にも子供たちにも与えられる」
「魅力的だな。お前は、オレとの約束を破らないし……亜人種に対しても、寛容さがある」
「……文句はないと思うけれど。何か、問題があるのかな?」
「いいや。文句はない。ビジネスとしては、戦略としては……保守的で間違いが少なそうだ。そこらは、戦のときの弱点にもなるだろう。お前はいつも……やさしさで負けた」
「精神分析を仕掛けるつもりかな、レイ」
「そこまで大したモンをやるつもりはないが、第六師団流の教えによれば、そうなる」
「君はもう、帝国軍じゃないんだぞ」
「分かっているさ。だが、メイウェイ。第六師団の考えは、戦場では通じるものだ。ここは、戦場の片隅でしかない。試してみるのも一興だろうよ」
「……まあ、やってみるといい」
「お前の弱点は、ただひとつ。やさしいことだ」
「美徳ではあるだとうけど、戦場ではかなり評価が変わってしまうものだね」
「亜人種への理解もあるし、紳士的な態度だ。感情的になるのは、他人を庇うときだけ」
「狭い人間関係でね。親しい方々も、ずい分と亡くなられてしまっている。だからこそ、私は不安になるのだ。何も成せずに、このまま死んでしまうのではないかと」
「不安を解消するために、裏切る可能性はあるのか?」
「……もちろん。ゼロじゃない。そして、不安を消すための最良の方法は、帝国軍に舞い戻ることではある」
「手土産がいるな。お前は、どこまでなら『自由同盟』を帝国に売れる?」
「君が思うサイアクよりは、かなりマシだ。そして、君が思う最高よりはかなり悪い」
「裏切るとすれば、いつを考えた?」
「戦場の終わりに仕掛けたい。近隣勢力のすべてが疲れ果てたあとにね」
「正面からの戦いを、恐れるようになってしまったらしい」
「悪いかな。私とて、過度に作戦を頼りたいわけじゃない。シンプルな状況の方が、間違いなく強くて有能な組織運用を指揮できる……シンプルな作戦のほうが、強い」
「そのとき、オレをどうしたいと考える?」
「仲間に抱き込む。その可能性が絶望的に低ければ、距離を取りたい。君は自分が想像している以上に強く、ぼくの人生に関わりつつある。ストッパー役、あるいは監視人を自覚するのは、とても正しいよ」
「殺してまで、国盗りに走るか?」
「状況次第では、あり得る。今は、それが得策ではないからやらないが……」
「ゲリラ戦は、やめとけよ。市民と戦士の境目がなくなる。とくに、『プレイレス』では、その傾向が強い」
「市民の被害を出したいわけじゃない。でも、出てしまっている」
「過去のハナシを、しているか」
「連想ゲームだ。私には、後悔すべき過去がそれなりに多くなっている」
「過去に囚われ始めているぞ。そいつは、あまり良くない傾向だ」
「分かっているさ。その考えが、私の行動力や判断力を削ぐことはな。だから、戦場では隠しておく」
「合理的に、振る舞う。すべては、国盗りを成し遂げるためにか」
「ああ。焦がれている。こんな感情を土地に抱けるのは、戦士の特権だと思うぞ。私はな、イルカルラを失ってしまった。気に入っていたのに、全身全霊を尽くした対象なのに。あっという間に、奪われてしまった。これは、あれだ。親を殺されたときの痛みよりも、ずっと強いかもしれん」




