第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四十五
街を盾にする戦い方も使える。『ギルガレア』は、やさしいヤツだからだ。そこにつけ込むのみ。こちらも回避や守ることだけに体力も時間も使いたいわけではない。攻めて、倒さねばならんのだからな。
体力を有効に管理する必要もあるのだよ。
鉄靴でゼファーに指示を与えて、街並みを低く飛ぶ。『ギルガレア』より低い位置でな。そうすれば、あいつは紫電の奔流を使うことを控えてしまう。
誘いにも乗ったよ。
高度を下げて、間違っても街並みを撃たないような角度を取ろうとする。
そう。
こちらの思惑の通りだ。
『ギルガレア』の機動力も、大したものだからな。空中戦では、時間がかかって仕方がない。選ぶべきは、地上戦に、引きずり込んで白兵戦で倒してやればいい。
「ジャン、用意しておけ」
「は、はい!」
以心伝心だ。細かな指示までは不要だった。ジャンも理解している。自分の力の使いどころをな。
「『ギルガレア』さま!!」
ルチアは我々の気配から何かを察してくれたらしい。『ギルガレア』の気を引くために声を使いながら、弓も引いた。
矢を放つ。
蟲と融合した腕を使い、『ギルガレア』はルチアの矢を叩き落とした。
『こんなことをしても、ムダだ!!こちらは、お前たちの背後を取った!!逃げるだけでは、時間稼ぎにもならない!!撃ち落としてやるぞ!!』
やさしい『ギルガレア』は、ちゃんと答えてくれるのだ。それが、あいつの『ゼルアガ』として本能かもしれんからな。ルチアの叫びと、矢を、無視することがないのは、こちらにとって大いにありがたいことだぜ。
誘導する。
もう一つの『オルテガ』の街並みを、右に左に飛んで回るのさ。パターンを、隠すためであり、紫電による射撃を回避するためでもある。
容赦をしないのと、あちらも決めたのだ。
権能を振るい続ける。紫電の攻めが、次から次に、空を焼き焦がし、我々の影を貫いた。
危うく命中しそうな攻めもあるにはあったものの、回避は成功する。猟兵に、何度も同じ技巧を見せつけるから、癖を読まれてしまうのだよ。
蟲の腕は守りに使い……。
獣の腕を攻めに使う。
紫電を放つときは、獣の半身をよく選んでいるからね。構えと、互いの位置関係、力をみなぎらせたときの肉体の動き。
背後を見ることだって可能な魔法の目玉が、こっちには三つあるのだ。オレの左眼と、ゼファーの両目がね。
癖させ読めれば、誘うことも可能だ。
『当たらんとは……』
「ククク!……ただの偶然だよ!今度は、当たるかもしれんぞ!」
言葉も戦術のうちだ。
あまり、ガルーナ人の気質に合ったものではないがね。
印象操作には、有効なんだよ。
『……ならば!!』
そう。オレたちを知ってくれているから。過小評価をしてくれない。紫電についての攻略法を、オレたちが見つけているのだと、『ギルガレア』は信じてくれた。
一緒に戦ったからね。
あの時間だけでも、オレたち適切に評価してるようになった。『仲間』だった時間は、忘れんよ。
『ギルガレア』は、紫電を選ぶのではなく―――接近戦を選んでくれた。オレたちに追いつくため、飛ぶことへ力を注ぐ。
『切り裂くのみッッッ!!!』
加速して、距離を縮めていた。想定以上に速かったが、こちらにも想定以上の動きがある。
ルチアが矢ではなく……槍を投げていた。
『当たらんと―――!?』
『風』を込めていた。槍の『内側』に対してね。おかげで、槍は『ギルガレア』に打ち払われる前に爆発して飛び散っていた。『炎』の魔力は込めていないから、強い威力にはならないが、空中に鋼の木片が飛び散ってくれたからね。
それらを高速で突き抜ければ、身に当たるのだ。
空は不安定なものでね。木っ端の群れに当たっただけでも、飛ぶことは妨害されてしまう。動きが鈍った。ルチアは、オレたちの意図を理解してはいなかったが、問題はない。彼女なら、『実にやりそうなこと』だからこそ、突発的に戦術へと組み込める。
長くつるむことは、尊いものだ。
知的な一致でなく、感覚で一致できる。
勝利を確信して、ニヤリと笑った。
鉄靴で、ゼファーのウロコを強くこする。漆黒の翼が大きく、力強く、空を叩いて加速を深めた。
離されることを、今の『ギルガレア』は望まない。接近戦を試みると決めていたからこそ、あいつも加速したのだ。離されることを、望まない。追いすがり、追い詰めようと肉薄する。
こいつも必死なんだよ。
叶えたい願いがある。
神さまも、大変なお仕事だ。
それでも、勝たなければならないのは、オレたちも同じ。
『猟兵いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!』
ギリギリまで引き付けながら。
左へと身を倒す。
ゼファーが大きく、鋭く、旋回し、真っ直ぐな『ギルガレア』の視界から左へと逃れ……物見の塔の裏側へと飛び込んだ。
『また、同じことをするか―――!?』
もちろん。
そんなに単純じゃない。塔に身を隠したと同時に、ゼファーは左の蹴爪を使いこなす。塔に爪をわずかばかり引っかけて、筋力任せに上空へと跳躍した。荒々しい野生の動きだよ。
『ギルガレア』は、予想外の動きを見せられ、確実に戸惑ってもいた。しかし、それでも反応したよ。宙返りの最中にある我々へと近づこうと、上へと飛んだ。
ミアの弾丸が、『ギルガレア』に放たれていたが、それを、やはり蟲の腕で弾いた。
「今だ!!行け、ジャン!!」
ミアの射撃に隠れるようにして、ジャンが『巨狼』に変身しながら宙へと舞う。
言葉もまた。
戦術だ。
『聞こえて、いたぞ!!』
『わ、わあああ!?』
回避されてしまったよ。『巨狼』のダイブから、素晴らしい反射神経を使って、『ギルガレア』は避けてしまう。
ああ。ジャンのダイブが命中すれば、それで良かったのだがね。それでも。『攻撃』とは、連携するものだ。
美しい『人魚』は判断が早く、その跳躍は速さにあふれる。
宙へと舞ったレイチェル・ミルラ。彼女の強烈な蹴りが、『ギルガレア』の顔面に炸裂していた。




