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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四十三


 『ギルガレア』に容赦ない攻めを行う。こちらも必死だからな。この一秒一秒ずつ、帝国軍が『オルテガ』に近づいているかもしれん。


 負けることは、オレたちには許されてはいないのだ。


「オレは、ガルーナの悲劇を繰り返すことは許せん!!必ずや、勝利し続けるのだと、心に決めている!!」


『……戦いだけで、全てを取り戻せるはずもなかろう』


「その通りだ!!戦士は、神さまじゃない!!だが、『仲間』と故郷を守るには、鋼を振るう腕が要る!!」


『それだけでは、悲しいからこそ。神々に、ヒトは祈るのだな。この世界に、やって来た意味を、見つけられたぞ』


 燃える翼が羽ばたいて、『蝶』を抱いたまま『ギルガレア』が上昇を始める。


『死者たちのための世界を、創る!!』


「決別のときですね、『ギルガレア』さま!!」


『そうだ!!この『ギルガレア』にしか、やれぬことを成し遂げる!!そのためならば、そなたたちも……倒そう!!』


 神さまは覚悟を決めた。神さまだけにやれることを、成し遂げるのだと。


 『蝶』が微笑んでいた。噛み潰されかけていたはずなのに、もう修復しているのか。彼女は微笑みながら、その腕で『ギルガレア』を抱き締める。


『……力を、貸してくれるか。ありがとう。一人だけでは、成し遂げられないからな』


 権能の焔が、『ギルガレア』と『蝶』を包んでいき……。


 二つの気配が、一つに融け合っていく。


 猟兵としての本能が、『まずい』と訴えるのだがね。それでも、対策の方法がない。上昇する速度が、あいつらの方が上だからだ。風に頼ることが難しい空だから、というわけではない。おそらく、もっと理不尽な力があいつらを守り、オレたちを邪魔していた。


『はなされないのが……やっと!!』


「んーっ。踊るような、羽ばたきのせいで……っ」


「狙いにくいったら、この上ない!!」


 権能の焔のせいで、視界が揺らぎやがる。というよりも、矢の軌道が乱されてしまうところを見ると、視界だけが揺らいでいるだけでなく……空間そのものさえも揺さぶられているのかもしれない。


 あいかわらず。神さまと戦うのは、なかなか難儀なことだ!!


「か、彼らは……ど、どこまで上昇するというのでしょうか!?」


「決まっていますわね」


「ああ。決まっているな。上空にある、もう一つの『オルテガ』に向かっている」


「あそこに、何があるの?」


「彼らが真に望む『不滅の薔薇の世界』でしょう」


「レイチェル、どういうコト?」


「地上は、本物の『オルテガ』を使っている街並みには、『蟲の教団』たちが望んだ理想の世界はありませんでしたからね。理想を創り上げたのは、あちらなのでしょう」


「それって、勘なのよね?」


「もちろん。でも、芸術家の感性は、解き明かすべき真実に喰らいつくものです。あまり外れたりはしませんよ」


「すごい自信だわ」


「そもそも、素直に感じ取れば、貴方にもそう思えるのではなくて?」


「……そう、ね。『ギルガレア』さまが、あの子たちに与えたい世界は……『オルテガ』ではないもの……あの子たちも、『蟲の教団』も……世界から、逃げたがっていた」


「に、『逃げ場』を……与えてもらうなんて。ゆ、勇敢じゃありませんけど……でも、い、居場所をもらえると……ヒトは、安らいでしまう……」


「彼らも正しい。私たちも正しい。リングマスターの言う通り。押し通すべき正義を、貫くのみでいいのです」


『うん!!おいつく……おいついてやるんだ!!』


「ゼファーをサポートするよ!!みんな、私たちの動きに、合わせて!!」


 竜騎士は竜の荷物になど、なりはしない。翼を羽ばたかせる筋肉の動きを読み、それと同時に身を揺さぶる。全員で一致して、上昇するためだけの力を組み上げていった。


 攻撃することは、考えていない。


 この上昇レースの軌道においては、攻める余裕はないのだから。


 思考を捨てて。


 竜騎士らしく、笑うのだ。


「速いな!!『ギルガレア』!!」


「うん!!おっちゃん、速い!!」


『でも、ま・け・な・いッッッ!!!』


 夢中になって競争するという行いは、楽しいものだよ。我々は空の生き物だから。今は、飛ぶこと以外を考えてなどいない。この純度が、心を満たす。葛藤などなく、ただひたすらに、より速くを、より高くを求める。これほど、飛ぶことの喜びを与えてくれるものはない。


 燃えながら広がって行く巨大な翼に、追いすがり……徐々に、速度は逆転していった。


 空で竜に勝てる者など、いないのだから。


「追いつくぞ!!」


『かみついて、やる……ッ!!』


『……『逆さ』になるぞ』


 こちらの闘志を浴びながら、『ギルガレア』は教えてくれやがった。どこか『仲間』らしいつながりが、まだ残っているかのように。


 戦士としては、屈辱にも感じることだが。


 状況に応じなくてはならん。


 鉄靴と重心の動きで、伝えた。


『らじゃー……っ!!』


 重力が、逆転する。


 落ちるべき方向が、地上から天空へと変わった。


 いや。天空にある、もう一つの地上に向けて。


「『上に落ちるな』よ!!ゼファーのウロコに捕まっていろ!!」


 全員が優れた戦士たちだから、というのもあるが―――『ギルガレア』が教えてくれたおかげも大きい。


 ゼファーがくるりと宙返りしながら身をひねる。


「う、うわうっ。め、めが……っ」


 ジャンが酔っぱらいそうになっていたが、大丈夫さ。一瞬で、この複雑な回転運動の時間は終わりを告げている。


 天地が逆転し、もう一つの街並みが重力を持った。


『……『不滅の薔薇の世界』にようこそ、『パンジャール猟兵団』よ』


 『蝶』と融け合った者がいる。


 もう一つの『オルテガ』の街並みを背負うように、オレたちをにらみつける者が。


 その半身は獣であり、もう半身は蟲の形に似ていた。


 融け合うことで、あいつは……『元に戻った』のかもしれん。




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