第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四十一
戦うことは、尊いものだよ。戦士にとって、これほど神聖なことはない。背負うべき痛みというものも、確かにある。
「そ、それでも。た、倒しましょう。攻撃を、するんです。そ、そうすれば……お母さんと同じように……か、彼も、やって来るでしょう。守るべきを、守るために」
「ああ。容赦は必要ない」
「うん。ここから、みんなを助け出してあげなくちゃ。死んでいるヒトたちよりも、今も生きているヒトたちの方が優先なんだ!」
「そ、そうね。生きている者を、助けるために。倒す!!」
『いくよ!!』
翼で空を叩き、群れ成す敵へと襲い掛かる。ツタはうごめき、あわてていた。こちらの急な動きに考えが一致せず、統率が乱れる。
勇敢なツタもいた。
怖がりなツタもいた。
どちらも、無垢でね。考えよりも、感情や性格がそのまま反映された動きをしている。読みやすいこと、この上ない。
「うあああああああああああああああああああああッッッ!!!」
迷いを吹っ切るための叫びを上げて、ルチアが矢を撃った。オレも弓を使い、ミアは弾丸を放ち……レイチェルも戦輪を投げる。
戦場にある数少ない慈悲の一つに、容赦なく仕留めるというものがあった。怖くて痛い時間を長引かせはしない。
威力を存分に使って、ツタと……それに宿った旧い時代を生きて死んだ、子供たちの面影を倒していった。
これは、死と呼ぶべきなのか。それとも別の呼び方があるものなのかは、よく分からないのだがね。
仕事としては楽になる。攻めるツタと、守ろうとするツタは、明確に異なる動きをしてしまい、集団を形成することはない。出過ぎるツタは、孤立しているのだよ。孤立したツタから、仕留めていけばいいだけのことだ。
ゼファーは空を広く使いながら、ツタを引きつけてくれるからね。射撃で牽制をすることで、攻め込むツタの群れの足並みも簡単に崩せた。一本ずつならば、もはや見慣れつつある動きでしかない。ゼファーは、蹴爪で斬り裂き、牙で噛みちぎっていく。
『パンジャール猟兵団』の戦いらしく、圧倒的なものだよ。
実力を明確に示して、『蝶』の周りにいるツタを片っ端から排除していくと……『蝶』が、怒った。
『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!』
前に出て来てくれた。
この子は、勇敢だ。
『仲間』想いに生まれついたらしい。尊敬してやれる性格だな。
「ヒトでなかったとしても、行いが尊さを示す。『蝶』よ、相手をしてやるぞ!!」
『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!』
『蝶』は上空に舞い上がると、巨大な羽を振り回した。
鱗粉が大量に放出される。まるで、吹雪きのようだ。視界の全てを埋め尽くすような勢いで広がっていく。
「お兄ちゃん、この攻撃は、広い!!」
「回避はやれんな!!」
「どうするの、ストラウス卿!?」
「簡単なことだよ!!」
『GHAAOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
竜の歌が夜空を震わせて、燃えて暴れるブレスを吹き付ける。『火球』では、この鱗粉の吹雪に衝突した瞬間に爆破してしまいそうだからな。そうなれば、手数で負けるかもしれん。
なればこそ。
ブレスで広範囲に焼き払ってしまえばいい。広さには、広さで応じるというのも、竜の火焔の使い方の一つだった。
『蝶』の放った鱗粉は、よく燃えたよ。風に混じった、小さな物体だ。火付きが悪いはずもない。ゼファーの放ってくれた猛火が、鱗粉の吹雪を焼き尽くしていく。
空が赤く燃えているようで、とても美しかった。
もちろん。竜騎士だからね、ストラウス兄妹は。空を見上げているのは、この美しく暴れる炎に心を奪わているだけじゃなく―――ちゃんと、突破口を探してもいるのだよ。
猫耳が動き。
ガルーナの野蛮人の唇が、ニヤリと歪む。
「発見!!あそこだよ!!」
「おう!!」
鱗粉の吹雪は、人外の力だが……穴もある。竜のブレスを撃ち抜く威力はなかった。包み込むような攻め方なのだろうよ。
囲んで閉じ込めれば強いのかもしれん。しかし、燃やされてしまえば。あっさりと『穴』が開いてしまっていた。
そこを目掛けて、ゼファーは急上昇をする。
『蝶』は、燃やされる吹雪が放つ紅い光のせいで、反応が遅れた。ゼファーに上空を取られて、ようやく反応しようとする。
しかし。
遅い。
『がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!?』
噛み潰すために降り注いだゼファーの牙を、『蝶』の腕と脚が止めようとした。
『んんっ。ぐううううっ!!』
『き、ききいい……ッッッ!!!
閉じていく竜のあごの力に、拮抗しようとするが。それは、いくら何でも無理がある行いだよ。
『き、いいう!?』
腕の一本がへし折れて、ゼファーが勝利の確信を得る。
……もちろん。油断しちゃいないよ。『ギルガレア』は、やさしい神さまだということを、十分に知っているのだから。
魔眼に。力を入れている。あらゆる包囲を見るためだ。ミアもレイチェルも、周囲を見張ってくれている。『蝶』ではない。倒すべき目標ではあるが―――本命の敵は、この戦場に残った、最大の脅威は……。
『―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
「う、上から、来ますっ!?」
「もう一つの、『オルテガ』からか!!」
『火烏』のそれにも似た燃える翼を左右に生やして、『ギルガレア』が天空より来たる。相変わらず、常識を超えた速度だったが―――速く飛ぶほどに、その軌道は単調にもなるのだよ。
オレとミアが、同時に身を右に大きく傾けて。ゼファーは空中で大きく横に一回転だ。『蝶』を噛み潰していきながら……ゼファーはストラウス兄妹の動きで、敵の位置を理解している。回転しながらも尾の一撃を振り抜いて、真上からの襲撃者を叩きつけた!!




