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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四十


 『ギルガレア』には、ミアの声が聞こえていたのだろうよ。言葉の終わりを合図にしたかのように、『蝶』が得体の知れない力を帯びた。


 魔力ではない。


 『ゼルアガ』どもの権能の力だ。


 電流にも似た紫色の光が、『蝶』の全身にまとわりつき―――背中から生えた羽が、力強く広いた。


「羽が、巨大化しましたわね」


「……来るよ!」


『けっちゃくを、つけるんだ!!』


 『蝶』が羽ばたきを使い、矢のような速さへと加速する。ぶあつい夏の雲のなかで叫ぶ、雷鳴にも似た音を響かせながら、一瞬でゼファーとの間を詰めて来やがった。


 もちろん。


 空での戦いに、ガルーナの竜騎士と竜が、遅れを取るなどということはない。『蝶』の突撃に、ゼファーも羽ばたきで応じる。


 真っ直ぐに襲い掛かった『蝶』の頭上を取るように、こちらはなめらかな飛翔で舞ったのだ。


 ミアと、ルチアが射撃を放つ。『蝶』の巨大な羽に命中していたよ。


 しかし、羽の表面を走る紫電が、刺さった矢を弾くように怖して、弾丸が開けた傷口はまたたく間に鱗粉の集まりによって閉じてしまう。


「き、傷が、な、治ってしまってますけどっ!?」


「そういう敵だ!!ジャン、オレたちは、探るぞ!!『呪い追い/トラッカー』で、観察し、見抜きにかかる!!」


「は、はいっ!!」


 『蝶』は、紫電を帯びたまま……旋回を始める。突撃だけが戦い方ではない。空中に広がる薔薇の花畑から、刺々しいツタの群れが立ち上がる。これらの全てが、『ギルガレア』か『蟲の教団』か、ゼベダイ・ジスたちの感情で動くのだろうがね。


 どいつであれ、『蝶』を守るに決まっていた。


「守るように、動いている。あの子も、守られるように、飛び始めているね」


「初手に突撃してみせたのは、戦術の内かもしれません。つまり、入れ知恵をされているのかも」


「薔薇どもに?」


「地下にいた植物のカタマリは、『蟲の教団』の神官たちそのものが融合していましたね」


「じゃ、じゃあ。この、薔薇にも……ひ、ヒトが……?」


「ジャン。どんな臭いだ?」


「ば、薔薇の……臭いと……か、カビたような、土の臭い……っ。それに、そ、それに。ヒトの……死体の、臭いも……っ。あ、あの『蝶』よりも、古くて、ふ、古過ぎて、嗅ぎ取れるのは、わずかですが!!」


「ヒトの死体が融合して作られたツタか」


「仮初の命を与えられているとすれば、コミュニケーションが取れるかもしれませんわね」


「ククク!……さすがは、レイチェル。面白い発想をしてくれる」


「サーカスの芸人は、普通とは異なる発想をした方が良いのですよ」


「助かるぜ。このツタどもを、ヒトだと認識すれば……より、戦術が読み解けもする」


「なるほどね。『蟲の教団』のおじいちゃんたちだと思えばいいんだね。そうすれば、確かに、考えも見抜けそうだよ」


「……猟兵は、高度なことをするわ。私は、そういう複雑なのは、まだ無理!!」


 ルチアは自分の戦い方を貫くことを決めていた。


 感情的になり、矢を撃つんだよ。『蝶』を守ろうとして動いたツタが、その矢を浴びる。


 矢を浴びたツタが、痛みを訴えるかのように暴れた。


「やっぱり、『ブランガ』が有効なのね」


「ほ、他のツタが、は、反撃してきます!!」


「まっかせてー、ゼファー!回避だー!!」


『らじゃー!!』


 ツタの群れが左右から、オレたちを追いかけて空を駆ける。どのツタにも速さがあるし、鋭さもある動きだが……完全に一致した動きではない。


 『蝶』を守りたいツタがいた。


 そのツタは、オレたちを狙い過ぎない。すぐにこちらをあきらめると、『蝶』のもとへと戻っていく。


 オレたちを攻めたがるツタもいた。


 こいつらはしつこく伸びて、あえて離れ過ぎないように飛ぶゼファーの誘いに、どこまでも食らいつこうと追いかけて来やがる。


 レイチェルが教えてくれた視点のおかげで、薔薇畑どもを『ヒト』として見ることがやれているんだよ。どのツタも、軍勢を構成する戦士のように、似てはいるが、性格の差というものがある。


 完全な統制は、ここにない。


 ……というよりも、軍隊とは言えないほどの不一致が感じられた。


 ……あまりにも、不一致で、それぞれ感情的だ。


 これは、兵士でもない。戦士とも……言い難い。これでは、まるで―――。


「―――子供」


 ただの直感だったが、言い終わりながら確信が強まっていく。


 個性的かつ感情的に見えたのは、組織戦を行うための一致に乏しいだけじゃない。このツタどもには、そもそもムダな動きも多いからだよ。風に揺らぐのを楽しむように、不意な動きを帯びているのだ。


 空は、楽しいところだからね。


 遊びたくもなる。


「『ギルガレア』は、祈りを聞き届けたがる神さまか……ゼベダイ・ジスの祈りを、聞いているのか。あいつら自身の娘だけでなく……」


「『蟲の教団』の信徒たちの子供たちも、ここにいるのかもしれませんわね。親である信徒たちも、『ギルガレア』が優先して、蘇生させようとするのも……大人よりは、子供たちでしょう」


「ちょ……ッ。そんな……これも、子供たちの成れの果てなら……ッ」


「こ、攻撃しにくいですよね」


「そう……よっ」


「そ、それで、いいんですよ。そんな罪深い行いを、へ、平気なままでやれたら、いけませんから。悲しみながら……苦しみながら、すべき戦いもあります」




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