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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三十九


 『呪い追い/トラッカー』は、さらに組み上がっていく。


 ジャンの記憶と経験が、痛みと共に真実を見せてくれた。どれだけ、未熟の死産児を薬品や『寄生虫』の力で保存しようとしても、ヒトのにおいを完全に消し去ることはやれなかったようだ。


 『狼男』の嗅覚からは、逃れられない。


 『死』という現実からも、逃げられてはいない。


 どんなに神さまの権能を使おうが、薬品を使おうが、ヒトの呪いを使おうが……無数の祈りに似た叫びで、力を与えてみたところで。あの子は、死んでいる。


「炊き出しをするぞおおおおお!!みんな、飯を食うんだ!!たらふく、食うぞ!!ストラウス卿たちが、この状況を解決したときに備えて、準備しておくんだ!!」


「おおおおお!!」


「腹が減っては、戦も出来ねえってのは、本当だもんなあ!!」


「休むぜ。退路がないなら、進むべき道がやって来るのを、待てばいい!!」


「そうだ!!怯える必要なんて、どこにもねえよ!!こっちには、最強の『パンジャール猟兵団』がいるんだからな!!」


 『ルファード』軍は、周りの市民たちも鼓舞してくれている。まあ、演技ではない。彼らの本音でもあった。


「信じてくれていますな」


「ああ。応えるとしよう……『呪い追い/トラッカー』は、組めているぜ」


 『呪いの赤い糸』が、空の高みへと向かって伸びる。


 そこにあるのは、うごめきかがやく赤い薔薇の花畑。


「『蝶』の棲みかとするには、それらしくてお似合いかもしれん」


『は、はい。お、女の子なんですよね?……『蝶』は、似合っていると思います。花も、似合いますよね。お、女の子は、そういうの好きですから……た、手向けにしましょう。死者は、こっちの世界に、い、いつまでもいちゃいけないと思うんです』


「その通り。ガンダラ」


「ええ。地上は、お任せください。統率を確かなものとして、さらに……『次』の戦に備えておきますので。団長は、必ずや、この状況の完全な解決を」


「成し遂げよう。ジャン、ついて来い。上空に向かうぞ」


『は、はい!!……じゃ、じゃあ。ヒトの姿に……も、戻りますねっ!!」


 いつもの、ぽひゅん!という音がして、ジャンはヒトへと戻る。いつもの通りだが、それでも、表情はいつになく力強さが宿っていた。


 上空を見上げるジャンは、自分の罪とも対面している。


「こ、子供たちを、犠牲にし過ぎた戦いがありました……『ルファード』でも、そうです。ぎ、『ギルガレア』にまつわる力は、多くを、失わせ過ぎているから……倒しましょう。か、神さまを……殺して、しまうことは……初めてじゃ、ありません」


 『アリアンロッド』も殺した。


 『アリアンロッド』にそそのかされて、同じ孤児院の子供たちも殺した。


 多くの命を牙にかけて、苦しみながらも……ジャンは勇敢だ。この戦いを、自分の使命だと考えているかのように、まっすぐに赤くかがやく薔薇を見上げて、ゼファーの背へと飛び乗った。


 良い態度だよ。


 ジャンは、いつだって、誰よりも勇敢だ。


 ……矢の補給を受けて、オレたちは空へと戻る。『呪い追い/トラッカー』は、そのころには完成していた。『蝶/器』につながら、へその緒みたいに赤い糸が。夏のくせに冷えている夜空に、真っ直ぐな色彩を走らせる。


 異常な空でも


 異常な力でも。


 異常な運命でも、『死』は確かなものとして、我々をつないでいた。


 夜空の天井として広がっている薔薇の花畑の、『上』。イバラと花が咲いて並んだいびつなそこに……『蝶』がいる。


 疲れているのかもしれん。


 薔薇のツタの一つに、背中を預けるように眠っていた。あまりにも、無防備が過ぎもする。


「いつでも、撃てるから」


「ねえ、ルチア。落ち着いてね。あれ、『罠』だから」


「……罠?……そうか。わざと目立って、おびき寄せているのね、『ギルガレア』さまが」


「あ、あの子を、守ろうとしている。大切なんですよ。で、でも、それを『囮』に使うっていうことは……ぼ、ボクたちへの、殺意が高いってことでもあります」


「裏切っている。私たちの神さまなのに……」


「冷静にねー」


「……ムリかもね」


「素直さがあるなら、こっちも連携しやすいかな。ルチアは、ガンガン撃てばいいよ。私たちの攻めよりも、『ギルガレア』のおっちゃんの心には届くはずだから」


「心だけじゃなく……体にも、届かせたいのだけれどね……撃たせて、もらうわ!!」


 ルチアがゼファーの背で立ち上がり……。


 風の流れを読み解き、長い矢を放った。


 命中コースだ。だからこそ、当たることはない。『ギルガレア』の姿は、見れなかったが。『蝶』の周りにある刺々しいイバラのツタが動く。ルチアの完璧で素直が過ぎる矢は、そのツタの守りに、あっさりと弾き飛ばされていた。


 その『裏』で、ルチアの矢を『囮』にして、ミアは小石の弾丸を放っていたが―――これも、『蝶』の動かした右手に掴み取られていた。疲れているのかもしれないが、なかなかの強さだよ。


「いい反応だよね。あの子、お父さんにもお母さんにも似ているのかも。強い子に生まれたかもしれない。でも、ありえなかった。『ギルガレア』のおっちゃんは、このありえなかったことが、悲しいんだね。でも。それでもね、おっちゃん。私たち、帝国に勝つためにも、その子を殺さないといけないの。さあ、始めよう」




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