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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三十六


 『蝶』の歌に操られて、帝国兵どもは互いを襲った。突き刺し、斬り裂き、噛みついていく。血があふれて、吹き上がり、周りを残酷な赤さで染めていくのだ。血しぶきのなかで暴れる連中は、嬉しそうだということは伝わる。


 こちらはね。


 考えていた。


 感情的にはなれない。この状況を、戦術的に計算すべきだと判断している。あいつらが殺し合うことで、『聖餐』は進んでしまうが……エルフたちを襲う脅威は減るのだ。『蝶/器』を倒せば、『不滅の薔薇の世界』に取り込まれている『オルテガ』は助かるようだが、エルフたちを襲う帝国兵どもは、減らないかもしれない。


 だが。互いが数を減らしてくれるというのであれば……南のエルフたちは、かなり安全に避難を完了できるはずだろう。


 戦場で、考えてしまうなど。ガルフが生きてここにいれば、怒鳴られてしまったかもしれないが。考えてしまう。『ゴーレム』に追いついた速度を見てしまったあとでは、エルフたちの避難が完了するための時間的な余裕を作ってやりたいし、こいつらの数も減らしたい。


 願望が。


 欲張りが。


 戦場では、多くの過ちをもたらして来たことを、ガルフからも……ロロカ先生やガンダラがオススメしてくれて、ほとんど強制的に読まされた歴史書にも書かれていたというのにな。


 見続けていた。一分か、それ以上も。殺し合う虫けら混じりの帝国兵どもを、期待しながら見つめてしまっていたのだ。反省すべき、時間だったぜ。


「『蝶』を、狩るぞ!!」


「……っ!!そう、だ!!あいつを、倒して……終わらせるんだ!!」


「行こう、ゼファー!!上空に逃げてくれている!!地上からの狙撃は、届きにくい!!」


『だい、ちゃーんす、だああああああああッッッ!!!』


 翼で空を打ちつけて、上昇する。


 『蝶』は、乙女に育った顔でこちらを見下ろしていた。美しい銀色の羽を揺らしながら、鱗粉……を撒いていた―――。


「―――ダメです。あの粉は、嫌な予感がします!!」


 オレも、ミアも、ゼファーも。おそらく、ルチアも。レイチェルの指摘に即座の同意を得てしまっていた。


 本能が大事だよ。『守備』のときは、とくにそうだ。


 ストラウス兄妹の体が、同時に左へと傾き。ゼファーは左へと鋭く飛んだ。空に散っていた銀色の鱗粉に、紫電が奔ったのはその瞬間だったぜ。レイチェルの指摘がなければ、この広範囲で……しかも、三大属性の魔力でもない、読み切れない『権能の紫電』に焼かれていた。


 紫電の熱が、夜風を焦がす臭いを流す。威力の高さが、理解できたよ。紫電が奔り抜け、去ったはずの空間にさえも、電流がビシビシと残存する。ギンドウの『雷』と、遜色のない威力だろうさ。


 ギンドウの必殺技である『雷槍ジゲルフィン』よりも、厄介かもしれん。あれは、三大属性の対策がまだ有効だが、これは『ゼルアガ』の権能であり、この世界の法則の外側にある力なのだから。


「……『ギルガレア』め。彼女を、愛し過ぎているぞ」


「やさしい神さまなのです」


「でも、仲間を、助けるためには……神さまの選んだ子だって、私は倒すんだ!!」


 ルチアが矢を放つ。


 しかし、『蝶』は幻惑するように、自在な飛翔で回避してしまった。


「速いっ。というか、嫌な動きだ!!」


「あれは、招く舞い。誘っていますね。緩急をつけて、速度差で躱します。遠距離での撃ち合いは、不毛となるでしょう」


「私の矢、意味が、なかった」


「いいえ。射撃が効きそうにないと知れましたので」


「前向きね」


「当然。そうでなければ、大きな脅威には勝てません」


「……ええ!」


「ゼファー、接近戦だ!!『蝶』に近づき、強打の一撃で仕留めればいい!!」


『らじゃー!!』


 勇敢さで、挑もうじゃないか。鱗粉には、注意しながらね。魔眼には、よく映っているぞ。あの小さいが、星のように自らかがやく銀の罠が。


 幼き者よ。


 ……全ての力にはね。大きいほど、不自由も伴うものだ。ギンドウの全力にも等しい力を、そう何度も自在に放てはしないということが言いたい。


「鱗粉が、ない場所までは……あれだけの術を撃てんだろう」


「それに……あの鱗粉は、小さいですから」


「夜風にも、流されているね!だから、読みやすいし……『風』も、効くかもね!」


「なるほど!」


 ミアとルチアが、天に向けて腕を伸ばした。『風』の魔術を放ち、鱗粉を掃いて散らすのだよ。


 空の高みで、鱗粉が左右に分断された。幼き『蝶』は、再び紫電を放ったが……鱗粉を伝う動きしかやれず、オレたちに降り注ぐことはなかった。


『だいだい、ちゃーんすッッッ!!!』


 ゼファーの首が、力を帯びた。太く膨らみ、破壊の力を組み上げる。一撃で、倒す。それは、戦場では慈悲深さでもあるじゃないか。ゼファーも、やさしいんだよ。『マージェ』に愛されている誰かを、いじめたいはずがないのさ。


 空のなか。


 術の威力のせいで、彼女は不自由だった。『蝶』の変幻自在の飛び方を、ゼファーは確実に読解し、その中心を貫くように牙を使う。当たるはずの軌道だった。


 ガギイイイイイイイイイイイイイイイイインンンッッッ!!!


 牙の列が衝突し合って、鋼の砕けるような音を立てた。


 しかし、牙は空気だけを噛み潰しているに過ぎない。空振りだ。


 『蝶』が消えていた。融けるように、空のいずこかへと。


 こんな現象は、非常識だからね。どうしたのかは分からんが、それでも、どうなったのかは見当がつけられる。


「……『ギルガレア』め。あの子を、『オルテガ』に吸い込んで、守ったのか!!」




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