第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三十三
魔眼がつながって、視界に躍動する敵が映った。二百の敵の群れの、中央か。虫けらのせいで、歪みながら膨らんだ巨体。それに異常な敏捷性を発揮させて、木々の間を跳躍させる軍勢ども。そいつらに守られながら、『抱えている者』がいた。
背中から新たに生やした腕が、抱きしめるように組み合わされている。守っているのだろうよ、『器』を……ゼベダイ・ジスと、エスリン・リヒトホーフェンの間に生まれるはずだった命の、成れの果てを……。
「……フェイクである可能性も考慮すべきです。虫けらどもは、戦術も保存していた」
「ゼベダイ・ジスが鍛えた部隊の戦い方を、真似るかもしれんということか」
「ええ」
「中心にいるのも、あからさまではある……」
「キーヴィーに追いつくまで、時間はない。けれど……混戦になるのは避けたいわね。数が、多い……確実な判断のもとで、狙うべきだと思う。こちらの作戦が読まれたら、逃げられかねない」
『……でも。あいつ、だとおもうの。においが……ううん。けはいがね、『あいつら』に、にている、きがするの!……『どーじぇ』、てつだって!』
「任せろ!」
ゼファーが魔眼越しに伝えてくれる知覚が、オレの知覚と融け合う……魔法の目玉を三つ動員して、洞察の力を増すんだよ。オットーたち『サージャー』のように、三つの視線を使いこなすことで、より立体的に把握が叶う。
組み合わされた腕は、虫けらの影響で歪んだ形となっているが……。
……左右が違った。
「……左が、大きい」
『……みぎは、ちいさい……』
歪んだ肌の奥を駆け巡っている魔力を読解していく。うごめく魔力の脈が、深い場所で組み合わさって形を成している。表層とは、違う。変異の前の……素体となった形か?……兵士の背中から、新しく生えた腕は……。
「左は、筋肉質な男の腕だ……」
『みぎは……『まーじぇ』を、かんじるの!』
『マージェ』……ゼファーにとってはリエル……つまりは、『母親』だ。
「左腕は、ゼベダイ・ジスで……右腕は、エスリン・リヒトホーフェン!!」
「決まりですわね。両親の腕が、決して離すまいと……守り抜こうとしているというのなら、間違いはありません!」
「……うん。ママと、パパが、あの子を守ろうとしている!!」
愛は、偉大だな。死んじまっているのに。虫けらに呑まれて面影という残骸に成り果てて、それすらも消滅してしいるというのに。いまだに、守るか。
確信は得られたぜ。何とも、お前たちらしいぞ。ゼベダイ・ジス、エスリン・リヒトホーフェン。守ろうとするに決まっていたな、お前たちならば。
「ストラウス卿!!……ゼファー……う、うう。ぁあっ!!あれを、撃つのっ!?」
「泣くな!!気高さには、気高さで応えるのが戦士だ!!」
「う、うん……っ!!倒そう!!私たちにも、退けない理由ならあるんだ!!」
『ターゲティング』の金色の呪印を、あの腕に刻む。ゼファーが魔力を昂らせながら、ターゲットへと突っ込むように飛んだ。敵どもが、こちらに気づく。一瞬、遅れたのは、おそらく戦術を理解しているからだった。
こちらの動きに、反応することで……読まれることを嫌ったのだよ。
……即座に、反応してしまったのは……あの左腕と、あの右腕だけ。ぎゅっと、強く。守るために抱きしめた。戦術などという計算ではなく、本能じみた願いのゆえに。
戦場らしいぜ。
『正義』と『正義』が、衝突するのだ。お前たちは、正しいことをするがいい。オレたちも、正しいことをする。
「ゼファー!!歌えええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAAOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
歌と共に、『火球』を放つ!!
暴れる黄金の爆炎が、夜空を金色に裂きながら駆け抜けた!!
逃げることなど、許さなかったのだ。翼で作った加速と、『ターゲティング』で得た加速が融け合いながら、『火球』は回避不可能の速さと威力となっている。
……黄金が炸裂した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
森の木々を揺らしながら、黄金の爆熱はそれを吞み込んでいく。消し飛んでいくのだ。ゼベダイ・ジスの腕と、エスリン・リヒトホーフェンの腕と……その奥にいた、とても小さくて、誰よりも無罪な命であったはずの者が―――!?
―――黄金の爆炎が。
オレとゼファーの力が融け合った、劫火の輝きが……『内側』から切り裂かれていた。
夜空を、紫色の『裂け目』が奔る。
……こちら目掛けて、飛んで来ていやがった!!
反応する。左に身を倒していた。ミアも反応し、同じ角度に身を倒してくれる。おかげで、『火球』を放ったばかりのゼファーの回避も間に合った。
夜を、紫色の飛ぶ斬撃が裂く。ゼファーの翼が、もう少しで断ち斬られていたかもしれん。
「リングマスター、今の攻撃は!!」
「『器』だ。あの子は、あれだけの火力でも、死ぬことはないらしい」
「そんなことって、あるの!?」
「『ギルガレア』という『神さま』が関わっているのなら、あり得る力ですわね」
「……っ!!そう、か。『ギルガレア』さまも……力を注いでいる……っ。私たちだけに、力を貸しては、いただけないのですね……ッ」




