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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三十二


『……んー。『どーじぇ』、ほうこくっ!ていこくへいども、かたちがかわっていくよ!』


「虫けらどもに、『変異』をさせたか」


「想定内だけど、どれだけ速く走れるようになるのかは心配だわ」


『……うまよりは、おそいぐらい。ちょっとだけ!』


「ちょっとだけなのね。ほとんど、馬と同じ速度か……」


「良く考えましょう。それだけ、余力を使わせているわけです」


「……そう、ね。こちらの避難が間に合うのなら、敵の体力を減らせる方がいいに決まっている。キーヴィー……」


「心配してあげるより、応援」


 ミアの言葉はいつだって猟兵として正しいものだった。


 お兄ちゃんの脚のあいだにいるミアを、なでなでする。ニンマリ顔となるミアは、相変わらず世界で一番可愛かったよ。


「応援ね。そうだ。応援してあげよう。すー……っ。がんばりなさい!キーヴィー!!敵が、もうすぐそっちに着いてしまうわ!!余力が、残っているのなら、がんばって、速度を上げなさい!!」


 『ゴーレム』の肩にいる男は、目つきを悪くしながら叫び返した。


「こちとら死にかけなんだぞ!!生贄仕事してるだけで、十分だろうが!!」


「うるさい!!ちょっとでも、貢献するの!!敵を分散するためにも、走れ!!戦うための力を、残しておく必要はないのよ!!」


「……ッ!!た、戦いてえ!!」


「知ってる!!それでも、アンタ一人に二百の敵が喰らいついてくれている!!走らせて、疲れさせることは、有効なの!!『器』を狩るための戦いが、楽になるから!!」


「それでも、戦いてえんだよ!!」


「作戦、遵守!!」


「……ッ!!く、くそ……ッ」


 戦場に出れば、ドサクサに紛れて本音を実行してしまえると信じている者は少なくない。キーヴィーも、間違いなく、そういったグループの一員だった。


 だが。上空から見張られている今では、『反乱』をすることは許されない。歯ぎしりの音が聞こえてくるようだが……同情は控えておこう。


「……走れ!!『ゴーレム』!!オレの命を、喰い尽くせ!!」


 魔力をさらに捧げたな。『呪いの赤い糸』を伝い、エルフ族特有の強い魔力が『ゴーレム』の内部へと注がれていく。


 その甲斐あって、『ゴーレム』はもう一段階の加速を帯びた。


「やれば出来るじゃない!!」


「うっせー!!……はあ、はあ。こ、これで、本当に、マジで、ぜんぶ、無いぞ!!くそ、苦しい……ッ。心臓、今にも止まっちまいそうだあああッ!!」


「心臓が止まりそうなときは、そんなに叫べないから安心なさい!!」


「ちくしょうめ……ッ」


 キーヴィーにとっては不本意だろうが、客観的にはこれが正しい。行軍での疲労はある。帝国兵とそれを操る虫けらにもな。疲れさせるというのは、有効な戦術だった。全員が疲労困憊の軍隊など、怖くもなんともないのだから。


「…………ねえ、ストラウス卿」


「なんだい?」


「キーヴィーの使い方は、これでいいかしら。少し……横暴なリーダーかな?」


「大丈夫だ。キーヴィーも、理性じゃ納得している。それが、表に現れないタイプの男だというだけでな」


「そう。ストラウス卿が言うなら、そう思うことにしておく」


「命懸けの行為には、こちらも礼を尽くしたくなるものだ。作戦を達成することで、弔いとしよう」


「……ええ。弓の準備を、しておきましょう。会敵まで、時間はなさそうだから」


「ああ」


 キーヴィーと『ゴーレム』は加速しているが、それに応じるように敵どもも速さを増していた。森の中を突っ切る。ヒトの姿かたちを捨ててこそ可能となる動きだぜ。


 虫けら混じりの醜いバケモノへと成り果てた軍勢が、近づいてくる。


 深い森をガサガサと揺さぶりながらな。


「……ストラウス卿。牽制を仕掛けましょう。あいつらの勢いなら、私たちが少しくらい矢を撃ち込んだところで、止まることはないはずだわ!」


「おう。キーヴィーのためにも、援護射撃と行こう」


 鉄靴を使い、ゼファーに敵の群れへと近づかせる。夜の森は暗く、大きく長い枝たちが幾重にも重なっている。厄介な遮蔽物を作っているわけだが、この敵どもを狙い撃つことは不可能ではないよ。


 何せ、敵どもは元気と狂気を併せ持った野猿のごとく、枝から枝へと飛び移りながら森を突っ切ろうとしているからな。


「入り組んだ地上を走るよりは、速いと考えたか。何とも、非常識な選択だが―――」


「―――おかげで、矢で狙える!!」


 上空から矢を放ち、キーヴィーたちを目掛けて殺到する敵どもを射抜いていく。あちらも、『棘』を飛ばしては来るが、こちらも対応には慣れたものだ。ゼファーは完璧に、それらの対空攻撃を回避してみせる。


 連中も、速さがあり過ぎるのだ。交差するように北側へと出れば、こちらを狙い撃てなくなる。速度は守りとなるのだよ。


 しかし。


「焼石に水と言ったところですわね。キーヴィーを最優先しています」


「『ギルガレア』にまつわる力を、奪いたがっているのさ」


「早く、『器』を、見つけないと……ッ」


「ゼファー、見つけられる?」


『……かたちのかわったやつ、においのかわったやつ……っ。さがしてる、さがしてる。いるはずだよね……』


「……荷物」


『え?』


「荷物として、持っているかもしれませんわね。背負っているとか。あるいは……赤ちゃんの大きさに満たないのであれば……抱えているかも」


『…………みつけたっ!!あいつ、せなかに、なにかかかえてる!!』




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