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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三十一


 ゼファーに乗ると、あの老婆が叫んだ。


「『器』に対して、油断することはないようにな!!必ずや、滅ぼすのだ!!」


「油断なんて、しない!!『オルテガ』には、『風の旅団』の仲間たちだっているのだから。残酷なことだって、する!!」


 死んだ未熟児の骸が、呪いで動いていたとしても。倒さなくてはな。


 そうだ。オレがすべきことだぜ。罪なき命……生まれることも出来なかった無垢な命に、二度目の死を与えることなど。ルチアに背負わせたくはない。


 密かな決意をしつつ、鉄靴でゼファーのウロコを叩いた。『ドージェ』の決意を嗅ぎ取っていたのかもしれない。やさしくうなずくように、首をしならせながら、ゼファーは空へと舞い上がる。


 夏の夜風の果てを見た。


 『ゴーレム』は見事な走りを続けていて、かなりの距離を駆け抜けている。


「ハハハハ!走れ、走れ!!」


 夜の森から、キーヴィーの声はよく響いた。


「お調子者さんだね!」


「一目瞭然でしょう。あいつは、そういうヤツだったわ。落ち着きのないというか、落ち着くことを毛嫌いしているガキみたいな男だ……好きにはなれなかった。でも、今は応援している。ようやく、ここに来て、仲間にはなれたと思うわ」


「ヒトを認めるということには、難しさがあるものですからね。とくに、我が強い者は、楽な生き方を選べないものです」


「……肝に銘じておく。私は、良いリーダーになりたいから。あいつからも、認められて、託してもらったわけだしね」


「君は、大成する。数日のうちに、多くを学んでいるからな」


「ストラウス卿にお墨付きをもらえるのは嬉しい。励むようにする……この戦いでも、槍働きはするから」


 『器』を……倒そうとしているのかもしれない。オレは、主張しないでおく。『器』を倒す役割を取り合うことなど、不要だ。戦闘中のドサクサに紛れて、動けばいい。


「エルフの戦士たちは、ちゃんと逃げてるかな?」


『うーん……うごき、はじめてるよ!』


「彼らは長老の権威には忠実だから。安心していいはずよ」


「そっか。じゃあ、戦い方も、増えるね。使っていい場所が、増えるから!」


「ああ。いい戦術を組もう。退いていいのであれば、空間が使える。空間は、敵を薄めてやることも可能だ」


「……猟兵の戦術も、学び取っておきたいわ。傭兵稼業をするには、必要になるから」


「見て覚えるといい。聞いてもいい。どちらもすれば、さらに良い」


「そうさせてもらう。プライドの高さが災いして、成長の機会を失いたくはないから」


 マジメなルチア・クローナーは、やはり大成すると信じられるよ。


 彼女の質問に、オレは答えていく。


 猟兵の祖、ガルフ・コルテスから伝授された『攻撃』と『守備』という、猟兵戦術の基礎についてをね。


 我々には、おしゃべりする時間があったのだ。キーヴィーの乗る『ゴーレム』が、森を駆け抜けるためには、それなりの時間が必要であったから。『火烏』を携えていたとしても、空を飛ぶような速さはないからね。


 一通り、ガルフからの『遺産』を語り聞かせていると、ゼファーの首が持ち上がる。


『『どーじぇ』、てきに、うごきがあるよ』


「キーヴィーに引っ掛かったか」


「西に進むのを止めて、南に動いてる?」


『うん。るちあ、あいつらはね、みなみをむいた』


「全員ですか?」


『……んー。はんぶんだけ。はんぶんは、たちどまって……そらをみあげてる』


「空?……ああ、『オルテガ』を、見ているのかしら」


『そんなかんじ』


「『不滅の薔薇の世界』から、『命令』でも届いているのかもしれません」


「命令、か。誰の意志が、この状況を支配しているのか」


「『ギルガレア』さまだとすれば、敵を半分にしてくれたのかも」


「ありえますね。彼は、どうしても他者の願いを聞き届けてしまう」


「『ギルガレア』のおっちゃんは、仲間だもんね。赤ちゃんたちに、気を取られてしまったけれど……」


「抱きしめてしまいました。私たちは、そうならないように。無慈悲な対処も、必要です。ルチア・クローナー、とくに貴方は、気をつけて」


「……ええ。遅れを取らないようにする。『器』が、どんな姿かたちであっても、倒す」


「その意気は評価しますが、貴方に必要なのは自重です。『器』が、弱者だとは思わないように。『彼女』は、両親の願いも、『蟲の教団』の信者たちの願いも、背負っているのですからね。そういった者が、弱かったことは少ない」


 ……釘を刺されているのは、オレもだと思うよ。


 舐めてかかれる『敵』ではないと。赤ん坊の死体以上の、強敵かもしれないと。


「気を引き締めるし、猟兵のサポートにも頼るわ」


「ええ。十分に頼ってください」


「『器』……どんな敵かな。見つけやすいかな?」


「『火烏』の力に向かうだろう。本人か、運んでくれている帝国兵が……」


「本人だと、小さいよね」


『ぼくが、においか、まがんで、みつけるよ。きゅうかくがすごいのは、じゃんだけじゃないもんね!』


「そだね。帝国兵以外の気配やにおいを見つけたら、すぐに教えてね!」


『まかせて!……すぐに、みつけてやるんだ』


「『火球』で気配ごと吹き飛ばすのも良いかもしれませんわね」


「レイチェル・ミルラにしては、消極的な意見だわ」


「当然です。私は、苦手ですからね。子供相手の接近戦など」


「……そうね。『火球』で、接近せずに終わるなら、それも良いかも」


 素直でいるべきだ。


 残酷さを直視して、その責任から逃れないためにも。戦いの場では、いつものことだ。大義のために、残酷を選ぶ。




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