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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三十


 キーヴィーは、筆が持てなかった。包帯だらけの体は上手く動かない。祖父が、代わりに手紙を書いた。


「バレねえか。オレの書いた文字にしちゃ、年寄りくせえけど」


「……預かっておこう。ちゃんと、あの子に届ける」


「……そうしてくれ。ムダに、恨みを抱え込むことはねえ……はあ。こういう覚悟があれば、もうちょっと……期待に応えられたか?」


「これから、十分に期待を果たしてはくれる。伝統は、破られることになったが……それでも、納得してやれる」


「そうかよ」


 『家族』のやり取りのすぐ隣では、他の長老たちが呪術を変えていた。キーヴィーに向かう『呪いの赤い糸』が、ビクリビクリと躍動する。


 見える者の、義務でも感じていたのだろうかね。つい、訊いていた。


「痛みは、大丈夫か」


「……ああ。クソ痛いに決まってるだろ。肉も、骨も……どっかの誰かに槍でぶん殴られているみてえに、あちこちが痛む」


「そうか。おい、誰か。酒でもやれ」


「おお!そいつは、気が利いているじゃねえか」


 戦士の一人がしかめ面になりつつも、動いてくれた。岩場を素早く降りると、すぐに酒瓶を片手に戻る。


「これを……くれてやる」


「ああ。ありがとうよ」


 『ゴーレム』に近づくと、キーヴィーに向けて投げた。包帯をした体でも、酒瓶に抱き着くようにして受け止める。器用なものだった。


 歯を使ってコルクを引き抜くと、酒瓶に噛みつく。首を上げて、ごくごくと飲み干し始めた。七割近くを、こぼしてしまっているが……それでも、三割は入ったら上出来だよ。


「美味しいかしら、キーヴィー?」


「……まあまあだ。何とも、普通らしい味で……ここらしい」


「故郷の味だ。覚えてから、死ぬといいぜ」


「覚えるか……」


「景色もな。昔、死地に赴くつもりであった竜騎士は、そうしたぞ」


「あんたのことか」


「そうだ」


「……マネするわけじゃねえがよ。まあ、フツーっぽいよな。景色……ね」


 『ゴーレム』の肩の上から、岩場の下に広がる故郷を男は見回した。


「冴えねえ、ド田舎だ」


 口が悪いが、誰もが許していた。あいつの祖父もな。キーヴィーの顔は、魔眼を使わなくても分かるほど、痛みと戦っていたからだ。脂汗がダラダラ、引きつる口周り。しかめっ面に、眉間のしわにたまる汗。


 酒に逃げて、がぶ飲みしたあと。『ゴーレム』にもかけてやっていた。


 あいつの背中から、炎が飛び出したのはそのときだ。背から噴き上がった、赤い炎は、まるで翼のように見える。


『カアアアア!カアアアア!!』


「うぐう、ううう、うおおおおっ!?……めちゃくちゃに、痛えええっ!?」


「だろうな」


「か、体の中から、『火烏』が出て来ているわ。それは、痛いわよね、キーヴィー」


「うう、ぐう、うごおお……っ!?」


 背中が破裂して、赤いかがやきが夜空に広がる。『火烏』たちが、六羽ほど、生み出されていた。大量の出血が、キーヴィーを赤く汚しながら。


「き、キーヴィー!!」


「……心配すんなよ……っ。最後の仕事の始まりってことだ。行ってくるぜ……」


「あ、ああ……ッ。お前の兄にも……両親にも……伝えてくれ。遠からず、私も逝くと」


「長生きしろ。そうしてくれた方が、オレも死に甲斐があるだろうが……じじい」


「……っ!!……ああ……っ」


「さて。行くぜ。じゃあな……ルチア、ソルジェ・ストラウス」


「ええ」


「役目を果たして来るがいい。東に向けて、走ればいい。それで、時間は稼げる」


「……おうよ!!……行くぞ、『ゴーレム』!!鳥ども!!」


 血まみれの体で、男は必至になった。岩場を駆け下りて行く『ゴーレム』の頭に抱き着き、振り落とされないように必死だ。『火烏』たちも、空で旋回すると、彼らの後ろを追いかけて同行を始める。


「さらばだ、孫よ……」


 別れは悲しいものだが、死地に赴く戦士を見送るときは……竜太刀を掲げるべきだ。


 『不滅の薔薇の世界』のせいで、いくつかの星が不在となった夜空に、鋼を煌めかせる。


 若い戦士は、楽しそうだったよ。『火烏』たちと『ゴーレム』は、竜には勝てなかったとしても、凡庸な者が引きつれて走れるものではない。


「ハハハハ!!」


 笑い声が響き、『ゴーレム』の疾走は東に向かう。


「ゼファー、敵の動きは?」


『うん。すぐに、はんのう、したよ。ひだりに、まがった』


「食いついたんだね。キーヴィーは『囮』として、機能してる」


「あいつが東に走れば走るほど、助かる者が増える」


「ちゃんと、その事実は理解しているようですわね。何とも嬉しそうです。良い戦士ですわ、貴方のお孫さまは」


「……バカみたいな高笑いを、上げながら走りおって。ああ……しかし、だが。あの兄弟は、そうであった。子供の頃から、ずっと変わらない。向こう見ずに、駆け抜ける……小さなときから、変わらんかったな……やり遂げるがいい、我が孫よ」


「……さてと。オレたちも、動くぞ」


「ええ。『器』を……排除して、『オルテガ』を解放する……戦士たち、長老たちはしばらく祈り続けてくれるみたいだから、早馬を用意しておいて。ギリギリまで、祈り。でも、命の危険には応じなさい。彼らのことを、守れ」


「……言われるまでもない、ルチア・クローナーよ」


「納得が行く結果を作る。それは、約束するから」


「……行くがいい」


「ええ。ストラウス卿、ゼファー、行きましょう」




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