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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その二十九


「『蟲の教団』への怒りは大きいか」


「……感情など、とうに果てた。あるのは、義務と掟……そなたらは嫌うかもしれんがね」


「伝統のあらゆるものが嫌いなわけじゃないさ。オレは、どちらかと言えば、伝統の擁護者ではある」


「竜に乗って、力で脅すのは君らの伝統かね?」


「ククク!……ああ、困ったことに。それもまた、実に『ガルーナ』らしい」


『ふふふ!ぼくらは、『がるーな』のりゅうと、りゅうきしなんだ!』


 横暴さも我々の特徴ではある。戦士とは、力で諸々を解決してしまう生き物だ。


「だからこそ、自覚も必要だと知っている。オレたちは、『正義』のために力を使う。自分たちの『正義』を貫くために、何だってする。悪のためではない」


「……今宵の正義とやらは、我々の伝統を破壊し、『オルテガ』を救うか」


「『ギルガレア』も解放してやるんだ。君らの神さまを。あいつも、この世界が歪むことは望んでいない。死者たちの願いに、惹かれてしまっただけのこと」


「おっちゃんは、いい神さまだったよ。私たちとは、成し遂げなくちゃいけないことが違っていたみたいだけど」


「神さまは、背負われるものだ。我々よりも、多くを……」


「んで。どう動けばいいんだ?……オレは呪術で『ゴーレム』とくくられてるんだ。さっさと指示をくれ。くれなきゃ、勝手に突撃して、暴れるぞ?」


「はあ。もうすぐ死ぬというのに。変わらない性格してるわ」


「死んだぐらいじゃ、性格は直らねえんだ。オレは、兄貴と同じように、敵に突っ込んで戦って、死ぬ。そういうのが、好きなんだ」


「アタマが痛い。永遠に理解してやれないわ」


「それでいい。君は、『風の旅団』を賢く率いねばならん」


「……そうね。で。長老たち。キーヴィーは、どうすべきかしら?」


 『呪い追い/トラッカー』の力で、この乱暴者のエルフの心臓に、『呪いの赤い糸』がまとわりついてしまっている。


 長くはない。


 夏の夜風のなかで、青白い顔をしている男の命などな。


 使い方を定めてやるのも、善意である。


 ……血縁者にそれをさせるのは、残酷かもしれんがね。だからこそ、ルチアはキーヴィーの祖父以外を見てもいた。


 心配りの分かるエルフの老婆が手を挙げる。彼女もまた長老たちの一員か。


「ルチア・クローナーよ。答えよう」


「ええ。お願い。クラー婆さま。この期に及んで、嘘だけはやめてね」


「……つかないさ。私は、正直な方だよ。年寄りたちのなかではね」


「……で。キーヴィーはどうすべき?」


「邪悪なことを告げるぞ。より重い罰に処することで、『火烏』を召喚する贄とすべきだ」


「クラー……っ」


「すまないねえ。あんたの孫を、贄にしてしまう方法など教えて」


「ヘヘヘ!……いいさ。じいちゃんには悪いが、オレは役に立って死にてえんだ」


「その態度を、幼き頃から貫ければのう。人望も、勝ち得たであろうに」


「無理だぜ。そういう性格じゃねえ。村の嫌われ者だったルチアにまで、選挙で負けるんだ。つまり、オレは……上に立てる男じゃなかったがよ……それでも、最期に、一花咲かせて散りてえ」


 若者らしいというか、向こう見ずな男の末路らしいというかね。なかなか、嫌いになれん男になって死ぬようだ。キーヴィーは。


「ほーら。長老たちよ。『火烏』のための生け贄にしてくれ」


「……もちろん。分かっているね?」


「たぶんな。苦しいんだろ?」


「焼かれながら、裂けて、分かれる。『火烏の群れ』を引き連れて、敵へと迫り……」


「襲い掛かるんだな!!」


「最期までアホなのかしらね」


「え、ええ!?」


「戦力不足で逃げる必要があるんだぞ。お前は、『囮』として敵を引き寄せる役だ」


「つまらねえ……っ!?」


「戦術を理解しろ。これは、お前のお望み通りのハードワークだぜ」


「どういうことだ!?」


「フフフ。敵の『器』は、『ギルガレア』さまの力を求めて、ここまでやって来た。ここは長く『ギルガレア』さまがおられた土地、彼への祈りが捧げられ続けた土地。お前を、その土地とよりつなげることで……『蟲の教団』どもの呪術の中心である『器』を呼ぶ」


 複雑さから鑑みるに。


 長年、長老たちには『蟲の教団』対策が伝わっていたらしいぜ。そこらの年寄りが思いつきで言い出せはしないだろうし、周りのガンコな長老たちが即座に納得してもいるのが、この予想の根拠だ。


「ついに、祖先の願いを果たす!ハハハハ!ハハハハ!!」


 闇のなかで嗤う老婆は、独特の恐ろしさを持っていた。彼女が継いだ過去が、その笑顔に力強さを与えている。


「我らの罪が、お前の活躍次第で浄化される。伝統は蹂躙されることになったとしても……『蟲の教団』は、我々の旧い罪科は滅びるのだ。それならば……それならば、我らも先祖たちに言い訳が立とう」


「先祖どうこうは知ったこっちゃねえが。オレに……敵の親玉が喰らいつくってわけか?」


「お前を求めて、『器』が近づくのだ。『火烏』と共に、村を離れるのだ」


「そうすれば、みんなの撤退のための時間を稼げるって意味よ、キーヴィー」


「それぐらい分かる」


「なら、良かった……でも……痛いらしいけど」


「気にするな。ただ……ケーンには、言い残しておきたいことがあるぜ」


「……聞こう。必ず、伝えるぞ」


 キーヴィーの前に祖父が歩み出る。死にゆく孫のために、してやりたいのだ。


「『ルチアを恨むな』、だ。オレのことで、逆恨みするなと。一筆、書いておこう」


「……じゃな。その方がいい。あの子は、ありがたいことに、お前を慕ってくれておる」


「ヘヘヘ。いい子分が一人だけでもいる……まあ、オレには上出来だったな」




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