第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二十八
キーヴィーという意外な味方の登場は、長老たちを従わせてくれた。ルチアは、永続的にではないが、少なくともこの瞬間だけは南のエルフたちの支配者だ。
長老たちは連絡を出してくれたよ。
「……不本意ながら、力では勝てん。前線に出た者たちへと伝えよ。直ちに、『ルファード』へと向かえとな……」
「……了解です」
我々を横目でにらみつけながらも、戦士たちも長老の命令には従ってくれた。岩山を飛び降りながら、北に向かって駆けて行く。
満足してやれる状況だった。
「ハハハ!ざまあねえ!……なんか、スカッとするよなあ!!」
「調子に乗るんじゃないわよ。これは、あくまで緊急事態だから」
「いいじゃねえか。真正面から、長老たちの権威に逆らうのは、このオレさまにとっても初めてのことなんだからよ」
「騙して『ゴーレム』を持ち出した」
「半分は、騙しちゃいない。お前たちに使いもしたが、『ルファード』攻めにつかうつもりじゃあったんだよ。兄貴の仇討のために……結束が必要だった」
「死んで償うのなら、許す」
「……おう。任せとけ」
「死ぬ気になった男は気合いが入るな」
「うるせえっての……ソルジェ・ストラウス。テメーは、色々と引っかき回してくれてやがる。その点は、腹が立ってるんだぜ」
「相手をしてやれなくて、残念だ」
「したところで、ムダだけどね。実力の差が、天と地ほどはある」
「容赦ねえ評価だぜ……っ。『ゴーレム』とつながれたオレなら、一泡ぐらいは……」
「やめときなさい。猟兵の強さと恐ろしさは、嫌というほど、私が知ってる」
「……なるほどね。まあ、いいさ。オレは、ルチアに従う。で。ルチアは……」
「ストラウス卿たちと協力する。そうしなければ、『オルテガ』を救えない」
「『オルテガ』ね……」
「ええ。長老たち、訊きたいことがあるの。協力してくれる?」
恨みがましい顔を向けられるが、キーヴィーの祖父は違っていた。あきらめもあるだろうし、失望もあるのだろうが、それ以外の感情だって見つけられたようだ。キーヴィーは、生き生きとしているからな。
「……困った若造どもだが……やむを得ない。我々が求めるのは、平穏である」
「状況の解決に、協力してくださるのですね。ありがとうございます」
「……異国からの客人よ。竜騎士よ。話してくれ」
「ああ。助言が欲しい」
『オルテガ』が『不滅の薔薇の世界』とやらに呑み込まれたこと、『ギルガレア』もあの世界を創り出すことを最終的には望んだこと……オレの口が告げたそれらは、なかなか難解でフクザツであったはずだが、長老たちはついてこれた。
レイチェルの読みは、当たっていたらしい。
『蟲の教団』と戦うために、少なからず『聖餐』やそれにまつわる知識を、かつて南のエルフたちは研究し、長老たちは継承していたようだ。
……キーヴィーを『聖餐』の生贄にして、『ゴーレム』を作り出せるほどには、彼らは呪術のエキスパートである。
「『聖餐』で成り立った小世界、それを、我々の世界に取り戻す……その方法が、あるのかと問いたいわけだな?」
「その通りだ」
「『聖餐』は、『ギルガレア』さまに新たな法則を決めてもらう祭祀だ。『ギルガレア』さまが与えて下さる罪と罰の本質は、世界を望むべき姿へと変えること……」
「変えられたしまった世界を、どうすれば取り戻せるの?」
「『聖餐』の、『真なる中枢』を破壊すればいい。『不滅の薔薇の世界』とやらは、この土地に向けて動いているのだろう?……おそらく、中枢に、誘導されているはずだ」
「……つまり、ゼベダイ・ジスと、エスリン・リヒトホーフェンの……『娘』。産まれる前に、母体と共に死亡し……死後、母親の腹から取り出された子だ」
「『骸』となっても、祭祀の器にはなれる。正式な『ゴーレム』の奥に封じるのは、本来は死者だ」
「……『彼女』は、未成熟な胎児のようだが?」
「問題は、ないだろう。むしろ……無垢であるほどに、器として優れることもある。自我がないほどに、誰かの祈りも、呪いも、より多くを受け止められる。『蟲の教団』と両親の願望を……その無垢な骸は、受け止めてくれているのだ」
「ケッ!……なんか、気分が悪くなるぜ。ガキどころか赤ん坊に、どいつもこいつもすがっていやがるみてーだぞ!」
「『ギルガレア』の特性かもしれません。彼も、誰かの祈りや願いを叶えたがっていた。受け入れようとする力には、自我の存在がマイナスに作用もするのでしょう。己がないほど、吸い込めもする。己が不在だからこそ、利他的にもなれる」
「難しいね。でも、やることは、見えてきたよ。ようするに、その子を、倒せばいいってことなの、エルフのおじいちゃん?」
「そうなる。少なくとも、ヒトにやれるのは、そのあたりが限界だろう。あとは、『ギルガレア』さまの思し召しに頼ろう」
「『ギルガレア』のおっちゃんは、『不滅の薔薇の世界』を創ってあげたがっていたけど」
「それでも、我々の願いも、届く。『ギルガレア』さまは……ヒトの願いに応えてしまわれる神さまだからな。我々、長老たちが祈ればいい。『オルテガ』の解放を……新たな法則を創ることは、禁忌ではあるが、『蟲の教団』の脅威と向き合うためならば、特例で許されてもいる」
「……祈ってくれるかしら?」
「……祈る。『蟲の教団』を滅ぼすことは、我々の責任だ。もとより、我々から派生した者たちなのだからな……」




