第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二十六
槍を抜いたルチアに、戦士たちが反応する。
もちろん、牽制するに決まっているぜ。
ミアの放った弾丸が、戦士の一人の踏み込みを邪魔し……。
夜空に飛んだレイチェルの『諸刃の戦輪』が、戦士の槍を断って壊す。
アーレスもやる気になっていた。乙女を守るために暴れるときは、いつだって、たぎった熱気が刃に宿るものだ!!
「おらああああああああああああああああああッッッ!!!」
「ぐふうう!?」
一人目の槍を打って壊し、二人目の槍は技巧で躱した。ドワーフ・スピンの技巧だよ。鋭い突きであったとしても、オレの影にしか触れることは許さない。回転しながらの斬撃で、槍を断つ。
「おのれ!?」
「や、矢を撃て……ッ!!」
『そっちが、うつなら……こっちは、もやしちゃうぞ!!』
大きく口を開き、金色の焔の煌めきを見せつける。アーレスみたいに、ニヤリと笑いながらな。ゼファーの言葉に、エルフの戦士たちの動きは止まったよ。不利を悟ったからだろう。元々、オレたちを招き入れた時点で、武力衝突の結果は見えていたはずだ。
それでも。
戦士たちには義務がある。死ぬことになったとしても、長老たちの命令に殉じて戦う。それを、こいつらは望んでいるのかはしらないが……少なくとも、選んではいた。
「……ッ!!」
「義務を……果たすぞ!!」
覚悟を振り絞りながら、その身に力を込めていく―――だが、ルチアはリーダーシップを発揮してくれた。戦士たちの命も、彼女が救いたい命に含まれている。
「動くな!!長老を、死なせたくはないでしょう?」
槍の穂先が老いた首にあてがわれていた。未熟さなどない大人びた冷静さで、ルチアはキーヴィーの祖父を人質に取っている。
戦士たちは、止まった。
他の長老たちを頼るように視線を向かわせるが、彼らの顔も苦悩に歪んでいるのだ。
「……この、状況では……っ」
「あきらめて。『聖餐』なんて、実行させたりしないから。呪術をぶっ壊せば、戦略を変えるしかないもの。撤退させて、全員の命を救う。故郷を、一時的に帝国兵が踏みにじろうとも……『オルテガ』と『ルファード』から戻って来た戦士たちと共に、奪い返せばいい」
「……簡単に、言ってくれる」
「簡単?……そんなはずないでしょう。私だって、こんな方法が最善だと信じてはいないんだ。でも、今は、これしかない。この選択が、罪だと言うのなら、あとからいくらでも罰してくれたらいい。罪は、背負うわよ」
「……ルチア・クローナー」
「いくらでも、私を悪人にしてくれて構わない。けれど、『聖餐』は中止してもらう。それに、同意できないのなら、非生産的だけど……もっと痛い目に遭ってもらうことになるわ。ストラウス卿、協力してもらえるわよね?」
「もちろん」
クールなリーダーシップは、好きだよ。戦場は、シンプルな空間だ。力尽くという形で説得するというのも、明瞭さがある。
「……くそ……ッ」
「長老たちよ……っ。このまま、あの女に従うのか!?」
「命を捧げる覚悟は、出来て居るんだぞ!!」
『ぜんいん、やかれたいの?』
ゼファーは目を細める。脅すための演技であるが、十分な迫力があった。戦士たちは、この状況に納得することは難しいかもしれないが……これで、オレたちは―――!?
『呪いの赤い糸』が、動きやがった。
岩山の一部が、ぐらりと揺れやがる……揺れた影は、そのまま立ち上がった。それなりに大きいが、それでも、『ルファード』に寄越してくれた個体より、小さい。
「……『ゴーレム』……っ。しかも、新しいヤツね!!」
「馬鹿な!?ま、まだ早い!!『聖餐』の力を、注いではいない……!?」
「ハハハハ!!」
男の声が響く。
『ゴーレム』の肩には、一人の男が乗っていた。少しばかり見覚えがある。
「キーヴィー!!」
ルチアのライバルだった男で、半殺しにされ、故郷に送り返された男だ。包帯だらけの顔の下で、大きく口を広げて笑っていやがる。
……いかんな。
戦士たちだけなら、手加減しながら制圧することもやれたが。無軌道なバカが、ヤケクソになって、この状況を引っかき回してくるのなら、ムダに死人が出てしまうかもしれなくなる。
戦士たちは、期待し始めていた。乱戦となれば、こちらに一泡吹かせられるかもしれない、などという間違った認識に心を焦がしている。
そんなことは、ありえないのだがね……。
誇り高いということは、盲目的なときもあった。
『ゴーレム』が動き、こちらに近づいて来る。ルチアは、ヤツの祖父を盾にした。
「こっちに来るな、キーヴィー!!お前の祖父を、死なせたくはないはずだ!!」
「おいおい。ルチア・クローナー。誤解してんじゃねえよ」
「……誤解?」
「オレが、どちらの味方なのか……ってことだ」
「え……」
「キーヴィー、ま、まさか。お前まで!?」
……渡りに船という言葉もある。エルフの古い秩序から抜け出したかった男は、今このときも変わっていなかったようだな。戦士たちが、力なくうなだれる。
「……若いヤツらの、考えは、分からない……ッ」
「どいつもこいつも、どうして、我らの伝統をっ!!」
「ふん!……そういうのが、うぜえから。オレも、兄貴も……ここから出たんだろうが。戻って来ちまったし……一瞬、くだらん罪悪感のせいで、『罰』を受け入れちまったが。そんなのは、オレのしたいことじゃねえんだわ、じっちゃん」




