第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二十五
ゼファーは祭祀の場へと着地してくれる。『呪いの赤い糸』は、この高台に集まった年寄りたちと、その中央に置かれた水晶のカタマリにつながっていたな。
「……ストラウス卿、私に話させて」
「ああ。説得してみせろ」
「ええ!任せて!!」
ルチアが飛び、長老の一人へと近づいていく。彼は、表情を曇らせていた。自分が責められるべき立場だという自覚でもあるのかもしれない。あるいは……。
「キーヴィーは……無事かしら」
「……君に、手ひどくやられてはいたが……どうにか生きてはいる」
ミアの猫耳がピクリと動いたよ。
「ルチアたちを襲ったあの裏切り者の、おじいちゃんなんだ」
「『ゴーレム』をキーヴィーに託した男でもあるわけだな」
『ゴーレム』についての管理を担っている長老なのかもしれん。つまり、この戦略を立ててしまった張本人かもしれない。
「幼く不運だったケーンも無事だ」
「良かった。私も、同胞を死なせた。いわけじゃない。あの二人を負傷させたのは、こちらの正当防衛なだけよ」
「……キーヴィーがしでかしたこと、そして、私が結果的にあいつに『ゴーレム』を委ねてしまったこと……詫びよう」
「詫びる必要を感じているのなら、状況を改善することに尽力して欲しいわね」
「……その言い分では、反対なわけだ」
「当たり前でしょう!!生贄をたくさん作って、同胞を死なせて……『ゴーレム』を動かそうと言うの!?『ゴーレム』は戦士たちが一緒にいてこそ、威力を発揮する兵器だ!!戦士が足りていない状況で、突撃させたところで勝利は得られない!!」
「古い『ゴーレム』だけでなく、新たな『ゴーレム』も創ればいい!!」
「……っ!?」
「数を増やせるのだ。我々は『ギルガレア』さまから伝えられた祭祀を用いることで、『聖餐』を用いることで、この岩山からでも新規の『ゴーレム』を削り出せる!!それには、私も含め、古き血を持つエルフの長老たちの全員が命を捧げるのだ!!」
「自分たちも、犠牲にするの!?」
「そうだ!!故郷を、守る手段だ!!おいそれと選ぶべきではないが、この危機的状況においては、他の道を選ぶ余地などないのだからな!!」
「どうして……っ。どうして、死にたがる!!」
「死にたいわけでは、ない!!故郷を守るためには……ッ」
「貴方の決断が、子供たちまで犠牲にしようとしている!!」
「……戦力が、足りん」
「多くの同胞を自ら失って、それで森が守られたから、家が残ったから……何になるというのよ!?住むべき者がいてこその、居場所でしょう!!」
「この森があってこその、我々なんだ。お前たちは……キーヴィーも含めて、分からんだろうがな。この土地から出てしまったお前たちには……」
「分かる!!」
「……言い切るか、ルチア・クローナー」
「分かるに決まってるでしょ!!ここから、逃げたいって思っていた!!伯母さんのことで、ビビアナや私たちまで疎んだ……ッ。いい連中ばかりだとは、思っちゃいない。間違ったことも、たくさんしてる!!でも……でも……ッ。私は、キーヴィーでさえ、見捨てられなかった!!」
……殺してもいい相手ではあった。あの男の裏切りのせいで、ルチアたちは『仲間』を失ったのだから。仇を討つことは、当然のことだが……それでも、ルチアは、本当の意味でリーダーとしての器を持っていた。
許せたのだ。邪悪な裏切り者でさえ、生きていていいと。その理由は、彼女がやさしいだとか、聡明だとか、そういうメンタル面の完成度に所以するものじゃない。
「同じ血が、流れている。同じ故郷を持っている。『孤独』を、味わうとね。そういうつながりに重さを、より感じられもするんだ……」
「……キーヴィーは、死ぬべき罪を犯した」
「そうね。でも、あんなクズでも、私は死なせたくなかった。あいつのせいで、何人も死んでしまったけど……許したくはないし、許しもしないけど。私は、同胞を死なせることを望んじゃいない。助けるために、戦いたいんだってことは、あいつを殺しかけて分かった」
「……我々は、選択を果たした」
「それを、止めさせるために、ここに来たんだ」
「どうして、それが成せると思う?」
「成せると思うかとか、考えてない。成したい、と決意している。勇敢であることも、故郷を守ることも大切だけど。でも、犠牲を無為に増やすことは、許されないことだ。それは、戦士として、リーダーとして、あまりにも無責任で、罪深いことだから」
……死ぬことよりも、難しいことをしろ。ルチアはそれをガンコな老人に訴えている。
ヒトの命懸けの価値観を変えることは、難しい。
殺したとしても、変わらないことだってあるからね。
それでも、行動は成せる。
「いい?長老たちよ、状況を考えて欲しい。ここには護衛の戦士たちも、それなりにはいる。でも、私とストラウス卿がいる。竜が、いるの」
「……武力で、解決すると?」
「その選択も、私たちは辞さない。『聖餐』そのものを、壊してしまえば……全員で逃げることを選ぶしかなくなるでしょう」
そう。極限状態では、いつもの通り。行動することが優先されるものだ。長老たちも、それを知っていたはずだぜ。受け入れてしまったとき、力で制圧させることも。
「貴方たちのことは、尊重してやりたいけれど。でもね、私の正義とは違っている。成すべきことを成したい。一戦、やるべきなら……私は、この槍を使う」




