第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その二十一
『不滅の薔薇の世界』の果てから飛び降りる……。
以前のそれとは、かなり風が違っていたな……。
風の通り道を探すまでもなく、大きくて素直な流れだ。それに従う形で降下していく。夜空は『オルテガ』の地面よりも『下』にまでつながっていたな。風の勢いで分かってはいたが、ここを地下と呼ぶべきかまでは自信が持てん。
不思議な空間だ。
『ギルガレア』の権能は、未知なところが多い。それならば、確かめればいいだけのことだ。下へと向かうと……闇の果てに、不意に森が現れた。
世界が、瞬時に広がってもいく。
風のにおいが大きく変わり、聴覚で感じ取れていた『不滅の薔薇の世界』の大きさからも変わるのだ。つまり……ここは。
「『外』の世界に、出たようだな!!」
ゼファーは羽ばたきを使い、落下の速度を制御する。
「さてと、『ここ』は何処だろうな?」
周囲を見回すと森ばかり。
「『オルテガ』が本来あった場所からは、大きく離れているようだ。中海も見えない」
「『不滅の薔薇の世界』は、南東に移動していました。つまり……」
「ここ、私たちの土地ね。上空は、もやもやして空が見えないけど……遠くの星は戻っている。『不滅の薔薇の世界』って……空を飛んでいたってこと?地上は、つながっていたのに?」
「不思議だね!」
『ふしぎだね!』
「とにかく。『外』への出口がまた一つか……」
「『ギルガレア』さまの、『縄張り』だったから、『不滅の薔薇の世界』はここを目指したということ?」
「決着をつけたかったらしいからな。力の奪い合いをしている。しかし、『ギルガレア』め。『不滅の薔薇の世界』と、オレたちの世界の境界は、不明瞭になっているようだぞ」
「そうすることで、望みが叶うのかもしれません」
「どういうことなの、レイチェル・ミルラ?」
「彼は、私たちの世界を乱したくも歪めたくもないのです。『オルテガ』を、私たちの世界に帰してくれるつもりかもしれません」
「でも、ここは……本来の場所からは、遠く離れてしまっているけれど?」
「それはゼベダイ・ジスの思惑ゆえでしょう。彼には野心があった。『ギルガレア』を倒して力を奪い取ることと……おそらく、この土地のエルフたちも生贄にすることが目的だったのです」
「あいつらにとっては、『決戦の地』だったのね。『狩る』つもりで、ここまで移動させていた?」
「『ギルガレア』の力を奪い取るためにも大切な場所だったのでしょうし、私の勘が正しければ、ゼベダイ・ジスはここに向けて避難させてもいます」
「避難……『誰』を?」
「……そっか。『赤ちゃん』だ」
「『赤ちゃん』?……さっき、たくさん見ちゃって、暑いのに鳥肌立ったけど?」
「あれじゃないよ。ゼベダイ・ジスの本当の『赤ちゃん』の方だよ。産まれる前に死んじゃった、かわいそうな女の子。その子の遺体をね、ゼベダイ・ジスは取り上げていたの。その子はね……たぶん、あいつらが運んでいる」
ミアは東を指差した。
敵がいたよ。こちらに向けて進軍し続ける、帝国兵の部隊がな。ゼベダイ・ジスが率いた遠征隊の『残り』だ。その数は……。
『よんひゃくさんじゅうなな!!』
「四百三十七人か」
「あいつらが、ゼベダイ・ジスの『赤ちゃん』を運んでいるの?」
「私はそうにらみます。確証はありませんが、ゼベダイ・ジスの執着を想えば、埋葬はしなかったのではないでしょうか。小さくて、運びやすくもあります。それに、彼からすれば、『不滅の薔薇の世界』を完成させるための遠征だったのです。死んだ『娘』を同行させているのでは?最初に、真なる『不滅の薔薇の世界』に住まわせるために」
「……ゾッとするわ」
「親の愛って、怖いトコロもあるのですよ。覚えておきなさい。貴方も、いつかは母親になるのですからね」
「と、とにかく。その『赤ちゃん』よりも、私は……率直に、あの敵の軍勢が気になるし、避難という言葉で連想するのは、うちの部族のオトナたちのことね!」
「南の方、かがり火が見えるね」
『ひなんしていないね』
「そうよ。普通の敵でも、四百人以上となれば厳しい。私たち若い戦士たちは『ルファード』軍に参加しているわけだから。戦をやれる人数じゃない。それに、この敵は……」
「強兵だ。しかも、虫けらに取りつかれているかもしれん」
「絶対に、戦ってはいけない相手よ。それなのに、逃げ出していないなんて……!!」
「忠告をしに行ってやるか」
「時間を取らせるけれど、大丈夫?」
「聞きたいこともあるからな」
「そう、ね。長老たちなら、導いてくれるかもしれない。『ギルガレア』さまの遺された知識を、知っていて隠しているかもしれないから」
「行ってみましょう」
『てきは?』
「しばらく放置だ。あいつらも強行軍をしてはいるが、まだ南のエルフたちの村まで距離はあるからな」
「じゃあ、行こう!ルチアたちの故郷にね!!」
「……こんなとんでもない状況じゃなければ、歓迎してあげられたのにね」
「全部が終わったら、ゴハンをおごってもらうの!」
「ええ。約束よ。猟兵さんたちに、美味しいエルフ料理をプレゼントする」




