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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その十七


 正気なのかと問いかけることが、そもそも間違っているのかもしれん。とっくの昔に正気でもなかった。ゼベダイ・ジスも、『蟲の教団』の狂信者も、それらの道具として機能する呪われた虫けらどもも。


 邪悪な総意が力と成って、『不滅の薔薇の世界』をさらに狂わせていく。空に座する薔薇どもが、赤くかがやきながら落下を選んだ。


 舞い散る花びらが増えて、空が狭くなってしまう。


 竜太刀に怒りと魔力を込めて、『炎』を強めるが……それでも、空の落下は止まらない。


『私を、仕留め切るよりも先に……全てが完遂される……ッ』


「お兄ちゃん、退避を選ぶべきかも」


「ゼファーなら、逃げられますわね。でも……」


「多くを見捨てることになる!!ゼベダイ・ジス、止めろ!!」


『止めるはずもない……安心したまえ。ここで、命を失った者たちの全てを、完成した『不滅の薔薇の世界』は抱きしめる。敵も味方も、なくなるよ。全てが融け合い、誰も『孤独』に苦しむことはない。悲劇は、この祝福の糧となるのだ』


「そんな道理では、ヒトの心は救われるものかよ」


『強いな、ソルジェ・ストラウス。だが、『孤独』に、誰もが耐えられるようには、出来てはいない……多くの同意を、得られるだろう。悲劇も……この融合が癒してくれる』


 独善的な『正義』は教信者の特徴かもしれん。


 空をにらみつける。落下は、加速度的に増していやがった。避難は進んでいるはずだが、どうにも時間が足りていない。予想するのは、何とも容易いことだぜ。大勢が、殺されてしまう……。


 猟兵は、負けるようには出来てはいないものの、神さまほど万能ではなかった。


 ……したくないことだが。あいつに視線を向けていた。


 ゼファーの背に君臨する『ギルガレア』は、両腕を組んだまま、上空を見上げている。この状況から大勢の命を救える力を持っているのは、神さまである『ギルガレア』だけだ。


「頼るほかにありませんわね」


「……困ったもんだぜ。護衛をしてやるつもりだったが」


「死なせるわけにはいきません。それは、おそらく、彼の意志とも一致するでしょう」


「そうだろうな。横顔ってのは、物語るものだ」


 空を見上げる神さまの表情に、迷いは感じられなかった。


『……ヒトの戦士たちよ、我は成すべきことを成すぞ!』


「ああ!多くの人々を、救わねばならん!!どうにか、してくれ!!」


『任せておけ!!』


「『ギルガレア』さま……まさか!?」


 ルチアの言葉に、神さまは顔を動かした。


『多くの者たちの祈りが聞こえるのだ。怯えた声で、我に祈ってくれている』


「そ、それは……っ」


『恥じることはない。ヒトの身だけでは、成し遂げられない願いというものもあるのだ。どれだけ勇敢に戦おうとも、どれだけ素晴らしい才能を持っていようとも。ヒトは、あまりにも不完全なのだ』


「……『ギルガレア』さま。貴方に頼り切りになることは、嫌なのです。私にも、何かを」


『不要である。この選択は、我の望みだ。我が、この世界に渡って落ちたとき。お前たち長い耳の者たちの祈りと融合した。我は、守りたいと願った。その祈りが、尊いものであると信じられたからだ』


「罪を裁くことを、ですか?」


『それを成し遂げたあとで訪れる、人々の安寧こそをだ』


「……っ!!」


『調和のための罰である。より多くの者たちが、より幸福に生きられるための法である。罪を断つことで、我は多くの命が健やかな眠りにつく夜を瞳に映せた』


「『ギルガレア』さま……ありがとうございます。私たちを、見守ってくれて」


『我は、お前たちがいてこそ、我であった。だからこそ、自らを捧げることに躊躇いはない。我は、幸せ者である』


 『星』と同じで、『ギルガレア』という『ゼルアガ』に主体性は無かったのかもしれない。ルチアたち南のエルフたちと遭遇したことで、今の『ギルガレア』という姿かたちと意志を得られたのかもな。


 竜の背の上で、古い祈りが創り出した神さまが、涙目のルチアの頭を撫でていたよ。やさしい表情をしている。罪科の獣と謳われる者にしては、実に穏やかであった。


『……おくってあげようか?』


 敬意を表するために、ゼファーは訊いた。しかし、『ギルガレア』は断る。


『不要だ。地上を守れ。この娘も、死地に近づけてはならん』


『うん。わかった。こっちは、まかせておいて』


『ああ。任せたぞ、竜よ。さらばだ!戦士たちよ!!』


 『ギルガレア』が空へと跳んだ。はるかな高みの中で、両腕を大きく広げる。背中から炎が暴れるような勢いで吹いて、燃える翼を作っていた。


「おっちゃん、炎の翼だ。神さまっぽいよ」


「神さまそのものですものね。人々を、救おうとしている姿は、まばゆいものです」


 翼が羽ばたいて。


 『ギルガレア』が空高くへと上る。羽ばたく度に、火の羽が飛び散って、それらが新たな『火烏』へと変わった。『火烏の軍勢』が再建される。落ちて来る空と戦うために……。


 多くの無力な者が祈っているはずだ。空の異変から、神さま助けてくれと。その祈りを集めて、受け取りながら、『ギルガレア』は加速していく。


 竜騎士なんでね。


 飛び方を見れば、分かってしまうものだ。あの神さまは、罰を裁くことが好きだったのではない。神罰を振るう罪科の獣は、実のところ、とてもやさしい神さまだった。


「良い飛び方をしているね。おっちゃん、心の底から嬉しそう!」


「ああ。多くの祈りを背負えるのは、幸せなことだ」




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