第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その十六
土煙の上がる街を、竜太刀を肩に担いで歩いた。ゼファーに叫びながらね。
「ゼファー!!『ギルガレア』を回収してやれ!!」
『らじゃー!!』
「こちらです、『ギルガレア』さま!!」
『……ふん』
強い攻めの反動だけで、あの神さまは空高くへと弾かれていたからな。『火烏』も失ってしまったようだから、ゼファーに回収してもらうべきじゃある。
……いくら神さまだったとしても、体力も使うだろうからな。『ゼルアガ』は人外の力を有してはいるが、決して無敵でもなければ、不死でもない。
『攻撃』に対して、オレたちは力を使い過ぎている。大きなダメージを与えていたとしても、敵に向かって単独で攻めさせたくはないのだよ。
それをしたがりそうだからな。
砕けた城塞の一部に飛び上がり、敵をにらむ。ゼベダイ・ジスを見つけたよ。その身は黒く焦げてしまっていた。割れて裂かれた巨大なツタの集合体も、その断端が虫けらの本性を現している。
揺れながら煙となり、消え去っていくのだ。
「さすがに、あれだけ攻め込まれたら、もはや限界ということか」
「リングマスター、油断はしないように」
「いつでも、追加で攻められるようにしておこうね!」
「ああ」
この会話も、半分ぐらいは罠だったりする。ゼベダイ・ジスが戦術を実行する体力を保っているのであれば、会話に反応してくれるんじゃないかと期待してだ。おしゃべりしながら、ゆっくりと近づくことで、こちらの呼吸を整えるためでもあるが……。
敵は、動くことはない。
それどころか、その巨体の消滅を加速しているように見えるほどだ。もちろん、レイチェルの指摘の通り、油断はしない。有能な戦術家は、己の身すらも犠牲にして、作戦の目標を達成しようとすることだってあるからね。
壊れた城塞を伝うようにして歩く。猟兵三人と、上空を旋回するゼファーで連携を組みながら。煙と灰へと朽ち果てていく巨大な敵の姿を踏みつけて進み、血を吐いたゼベダイ・ジスと出会う。
その体には、もはや生気はない。
虫けらなんぞに寄生されていない『まともなヒト』であれば、戦う意志を一瞬で消してしまっていただろう。
「不幸なことだぜ。戦士として、末期の語らいをしてやることも難しそうだとはな」
死の直前の戦士と言葉を交わすのは好きなことだよ。鋼で語らうのとは、また別の素直さがあるのだから。
強い戦士は好きだ。ヒトは努力なしに、その高みへと至ることはない。固有の人生を経て、無数の努力を捧げて、ようやく強くなれる。
そんな戦士の語りを聞くことは、有能な戦士が歌へと還るという文化で生まれ育ったオレにとって、楽しくないはずがなかった。
竜太刀を向ける。
にらみつけてくる力を失った視線に、鋼で応じるのだ。油断してやれるほど、ゼベダイ・ジスは弱くないのが残念ではあるが……この長い戦いを終わらせなくてはならん。
加速する。
ミアとレイチェルのフォローを感じつつ、竜太刀を振り上げ、踏み込み―――『牙』の並んだ竜太刀の斬撃をゼベダイ・ジスの腹へと叩き込んだ。
『ぐふうう!?』
「……腰の裏には、お約束通り、虫けらの中枢があるんだろ。そこにまで達したぞ」
破滅が早まる。ゼベダイ・ジスの体ではなく、その末端であるツタから崩れていくのだ。『中心』となっているらしい。この巨大な敵の『中心』として、ゼベダイ・ジスの肉体は最後の最後まで守られようとするのかもしれん。
ツタや薔薇を構成している無数の虫けらが、『中心』へと集中しているのかもな。ゼベダイ・ジスを存続させようと、虫けらどもの中から元気な個体が選ばれて、そいつらが常にゼベダイ・ジスの肉として臓腑として、交換されていくような形なのかもしれない。
体が脈打ち、歪んでいるんだよ。
苦痛を伴うように見えた。滅びの運命から、『部品』を交換し続けることで、無理やりな延命を施される。それは、耐えがたい地獄のような苦しみなんじゃないだろうか?
同情はしない。
そんな余裕も、そんな権利もない。こいつは、自分の『正義』を貫いた男だ。強い敵には、同情など相応しくないのだ。
竜太刀に『炎』を呼ぶ。
無慈悲な破壊で、ゼベダイ・ジスを構成する無数の虫けらどもを焼き払いにかかる。これで完全に滅ぼせるはずだ。そのはずだが……男は、『炎』をまとった竜太刀を抱き締めて来やがった。
アーレスが、喜んでいやがるよ。その剛毅な態度を、気に入っているんだ。オレもかもしれん。あきらめの悪さは、戦士の得難い強さの一つだ。
『はあ、はあ!はあ、はあ!!』
「ゼベダイ・ジス、リングマスターの裁きを受け入れなさい。愛する妻の待つ、本当の終わりへと向かうのです。さみしくなんて、ないでしょう?」
『いいや。ま、まだ。まだ……ッ。したくは、なかったが……まだ、手段があるッ!!』
「……っ?……風が、揺れた?」
ミアが空を見上げてくれる。オレは、ゼベダイ・ジスをにらみつけたまま、魔眼でゼファーの視線と同僚した。空に、異変はあった。
『おちて、くる!!』
「大変!!空が、空に咲いてる花畑が、『オルテガ』に向けて、落ちてる!!」
「……ゼベダイ・ジス!!帝国の民間人も、帝国兵もいる!!妊婦も、いるんだぞ!!」
『……そう。そうだ。したくはなかったが……ッ。それでも、この手段を選ぶ!!恨めしいぞ、ソルジェ・ストラウスよ!!こんな選択を、私にさせるとは……ッ!!』
「あきらめなさい。そんなことをしても、失われた命は喜ばない」
『だとしても、私に選択の余地はない。最悪の手段であったとしても……悲劇を増やそうとも……無欠の幸福のためだ……完全な世界を、創る……ッ。この街にいる全ての命で、聖餐を成すのだ!!街ごと、潰れろ!!』




