第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その十四
『私たちを見捨てたな!!『ギルガレア』ああああああああああッッッ!!!』
ゼベダイ・ジスの叫びに、ツタのあちこちに咲き狂う薔薇が呼応した。空から舞い落ちる花びらもか。とにかく、それらから声が聞こえるのだよ。
『どうして願いを叶えてくれない!!』
『貴方だけが、我々の神なのに!!』
『我々の『孤独』を救ってくれ……会いたいのだ、愛する者に!!』
無数の願いと祈りが、揺れる花どもから響いてくる。千年の長きに渡り、『不滅の薔薇の世界』という望みを叶えてくれる世界の創造を求めた者たちの声だ。
悲しいことだよ。
『孤独』の苦痛のままに、のたうち回り続けることは。
『絶対の神として、我々はお前を選択したというのに!!お前だけが、我々を救済してくれるというのに!!どうして、それを拒み切れるのだ!!』
「身勝手が過ぎるぞ!!多くを犠牲にして、他人を踏み台にして、偽りの安楽に逃げようなどと!!命は、そのような選択をすべきではない!!」
『誰もが、気高く生きたかった!!潔いあきらめを選び!!悲しみを見送ればいいのか!!しかし、それを、運命と愛がさせぬのだ!!』
「愛を、そのような選択の原因になど、すべきではありません!」
『間違っていたとしても、もはや構わない!!悪と罵りたければ、そう言うがいい!!自然の法則にも、やさしさにも反する道は、確かに悪なのかもしれぬ!!だが、それでも!成し遂げる!!私と、我々の、希望は!!力尽くに勝ち取ってみせるぞ!!』
『正義』と『正義』が主張し合って、譲れぬ道で衝突する。戦場は、多くの『正義』が共存できるほどには寛容ではなくて、広くもなかった。
シンプルなものだ。
選ぶと、ますますね。
悪であることさえも許容したとき、『正義』ってものは本格的な力を帯びる。邪教の示した望みと、己の望みが融け合って、ゼベダイ・ジスは自らの運命を選んだのだ。『聖なる邪悪』であることを。
ゼベダイ・ジスの貌が悪鬼のように険しくなって、邪教の花どもが空に踊る。広げられた無数のツタのあらゆる場所に、毒々しく赤熱する棘が並んだ。
「あれを、撃ってくる気だよ!」
「遮蔽物に隠れながら、戦うとするか!!」
「『ギルガレア』、正面からあのサイズと戦おうとはしないでくださいね」
無言のままなのが、怖いが。
「チームワークだ。勝つために、続け」
『……ああ』
そう言えば、従ってくれると信じてもいるよ。『ギルガレア』は半身を取り戻したがっているのだから。
『逃がしはしないぞ!!』
無数のツタどもが赤い花びらの舞い散る空で暴れる。投げ縄のようなものだろう。加速を帯びた回転で、棘の弾丸を高速で撃ち出すことを狙っているのだろうが……そうはさせない。
チームワークだ。
地上のオレたちに集中しているからこそ、ゼファーを見逃す。
『GHAAAAOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
竜の歌が空へと響き、黄金色に渦巻く灼熱の『火球』が撃ち放たれる!!
頭に血が上り過ぎているせいだろうな。望みが強く深すぎる。妄信は、盲目的なまでの集中へと戦士を追いやってしまうものだ。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
『ぐはあああああああッ!?』
いい威力だ。ルチアのことも褒めなければならんよ。『火球』に合わせて、『風』の魔術も送り込んでくれていたからこそ、これだけの威力を作れた。いい筋をしている。魔力の融合のさせ方を覚えたのならば、まだまだ上を目指せるぜ。
ぐらつく。
ゼベダイ・ジスと融合した巨大な薔薇どもが。
地上にいるオレたちも、反応したぜ。遮蔽物に隠れる?話術で、騙していたんだよ。ゼファーのための囮となった直後に、オレたちがすべきことは攻め立てることだ!!
レイチェルと共に、加速する!!
地上の石畳を打ち砕き、天を突く勢いで生えたツタで編まれた巨木を目掛けて、残酷な斬撃を重ねて放つ!!
ズガシュウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
呪いの鋼がギチギチと鳴きながら、強く深い破壊で巨体を裂いた。
一気に切断が叶えば、楽であったのかもしれないがね。そうはならんのも現実だよ。
猟兵二人がかりの斬撃を合わせることで、半分近くは裂けたのかもしれないが……まだまだ、半分だ。
しかし、心配してもいない。チームワークが動いているからね。
『はあああああああああああッッッ!!!』
神速を帯びた『ギルガレア』の飛び蹴りが、権能の炎を帯びて敵に着弾する!!
破壊の音が響き、敵の巨体がさらにぐらついた。
『我々を、足蹴にするとは!!』
『……我が半身を、返してもらうぞ!!』
『ギルガレア』も選んでいた。『聖なる邪悪』を、罰すると。罪科の獣が空へと両腕を伸ばす。竜のそれほどの大きさではないが、強熱のかがやきを帯びた無数の『火球』が伸ばした腕の間に浮かぶのだ。
『罰を、喰らうがいい!!』
無数の『火球』の群れが、狂った空へと向けて放たれていく。




