第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その七
「それで。ゼベダイ・ジスの拠点を、どこだと考えているんだ?」
「……見張りの位置は、高い場所がいいのがセオリーです」
「たしかにな」
「大尉は、以前の大尉ならば、民間人を巻き込むような戦術は採用しなかったでしょう。彼は高潔な軍人だったのですから」
「かつてのハナシになる。今は、大量虐殺の最中にあるぞ」
「……それでも、大尉は、あくまでも帝国軍人であろうとしていると思います。彼の血や魂にまで、その傾向は刻み付けられているのですから……」
「軍事施設ではなく、民間の施設を巻き込むのであれば……帝国商人の屋敷は、除外すべきだと言いたいのかな?」
「その通りです」
……悪意と混沌が支配する戦場にも、いくつかのルールはあった。民間人を可能な限り巻き込まないというのは、基本的なルールではある。その傾向を、あくまでも守るということか……。
「短い返事は、確信を持てているということの証。そう認識しても良いのだろうかね?」
「もちろんです。大尉が、民間施設を利用しようとすれば、帝国商人が所有している施設は除外して選ぶはずですよ」
「情が深い男だと?」
「情も深いと思いますが、帝国軍人であることを、大尉自身は望んでいるはずだからです。間違いは、ないと思いますよ」
「虫けらに心身を奪い取られたとしても、か」
「はい」
「信じてやるとしよう。そういった行動方針をゼベダイ・ジスが採るとすれば、どこを拠点に選び取ろうとするだろうか?君の考えを、率直に伝えてくれるかい?」
「了解です、ソルジェ・ストラウス」
瞬間的な敬礼をしてくれた。すぐに、どこか気まずそうな顔になって終わってしまったがね。それでも、言葉が止まることはないのだ。
「『オルテガ』市民の、商工会……そこの会長の屋敷が、街の東にあります。高さは十分で、十分に見渡しが利く……かなりの広範囲を」
「今、ここからでも見えるだろうか?」
うなずいた。
若い父親の指が、ツタの柱に打ちぬかれ、薔薇の天井に閉ざされた迷宮都市の一角を指差してくれる。
オレたちの全員が、その指が示す場所を追いかけていた。
「赤い屋根のあれかな?」
「あの屋敷、ツタが周囲に生えてはいませんわね」
「十分な視認性が確保されている。『オルテガ』の広い範囲を探ることに、向いているように見えるな」
「怪しいってことね?」
「ああ。まさに、あそこであるかもしれん」
「か、確信があるとまでは、言えません。ですが、ああいった場所を、大尉は選ぶはず。大尉は、戦場の視界を好みます。雑な戦いをするような人物では、ないのです」
「情報提供に、感謝するぞ。見返りは、しっかりと渡す」
「頼みます……妻と子だけは……守りたいんだ」
「守ってやれる。このソルジェ・ストラウスと、『風の旅団』の誇りにかけて。この『オルテガ』から、ちゃんと脱出させてやるよ」
「ありがとう……」
その『家族』を、戦士たちが護衛してくれる。周囲に取りついたまま、ゆっくりと移動を開始した。街の西から脱出すれば、命は助かるはずだ。
『……情報を得たな。お前の、敵であった者の口から』
「敵の敵がいる。戦場に混沌を持ち込むべきではなかったのに、ゼベダイ・ジスやエールマン・リヒトホーフェンが鉄則を破った。この混沌のなかでは、あの若い父親を責めることは誰にも出来ないだろう」
明瞭さは、戦場においても有効なことだ。敵か味方かは、ハッキリとしておかなければならない。兵士が情報提供しなくてはならない状況に陥らせたのは、どう考えても指揮官の失敗に起因している。
……あの『家族』から視線を外し、赤い屋根をにらんだ。魔眼でも、敵の気配を探り当てられない。かなりの距離があるし、虫けらの力で気配を消しているかもしれん。
それに、時間を与えすぎてもいた。
「隠遁薬だろうが何だろうが、持てる装備を準備するには、十分な猶予をゼベダイ・ジスに与えてしまっているか……」
『なればこそ、だな』
「単独行動はダメだよ、『ギルガレア』のおっちゃん」
『……ふん』
「ゼファー、頼むぜ」
『うん!みんな、ぼくのせなかに、のってね!!』
好戦的な笑みをゼファーは浮かべてくれる。『ドージェ』もさ。敵を追い詰めることは、大好きだよ。
おそらく、ルチア・クローナーもな。
「ルチア、君も来てくれるか?」
「ええ。うちの戦士たちも、成長している。『ギルガレア』さまを見て、今まで以上に落ちつけたというか、気合いが入っているから。任せても大丈夫のはず。みんな!私は、ストラウス卿たちと、『ギルガレア』さまと一緒に、敵の親玉を討ち取りに行く!」
「了解だぜ、ルチア!」
「『風の旅団』の強さを、『ギルガレア』さまに教えてやってください、リーダー!」
「ええ!」
迷いなく返事をする。それがやれることは、本物のリーダーの器を持っている証だ。
若い戦士たちを成長させられている。そういう自覚を得られるぜ。必要だからな。より多くの戦士と、オレたちはつながらなければならない。
『群れ』を大きくするのだ。
そうなれば、より多くの勝利を勝ち取れるようになるのだからな。




