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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その百四


 『ギルガレア』の守護者が、あきらめていた。


 それと同時に、上空にまだ残存していた虫けらどもも、バラバラになり崩れて落ちる。


「終わった!」


『たおしたー!』


 ミアとゼファーが喜びながらも、地上に降りる。狙いをつけているぜ。燃えて朽ちつつある『ギルガレア』にな。油断はしない。こいつらのしぶとさは、普通じゃないからね。


 それでも。


 倒したという実感がある。


 エスリン・リヒトホーフェンの面影は、嘘を言うような気もしない。


 彼女の前には、レイチェルがいた。微笑みながら崩れ始めた彼女を見下ろしている。慰めるための表情というよりも、讃えているような顔に見えるんだよ。


「戦い抜きましたわ」


『……負ければ……全ては、終わりだ……多くを、犠牲にして……託された期待を、裏切ることには違いない。そういうことは、あまり慣れていないの』


「医学にも呪術にも通じている方です。それに、医療の発展にも貢献したと?」


『私は……多くのことをしたかったの……でも、一番、したかったのは…………ゼベダイはね、流行り病で……家族を失っていたの……ひどい流行が、あったときで……たくさん、亡くなってて……』


「悲しいことです」


『そうね。だからこそ……産んであげたかったし…………病気なんかに、負けちゃうヒトを、減らしたかった……エゴかもしれないけれど……成し遂げ、たかった……』


「研究者というものは、真実を見つけ出します」


『真実……?……そうね、それを、求めているわ……』


「芸術家も同じこと。似ていますね」


『何が、言いたいのかしら……?』


「真実は、失われないということです」


『……っ!!』


 星の海を背中にして、『人魚』の踊り子はエスリン・リヒトホーフェンの面影に笑顔を向ける。微笑みよりも、力強い。確信を持った表情だったな。


「本当に正しいことは、どんなことをしたとしても否定することが出来ないもの。貴方は、私の価値観においては、実に正しくないこともしましたが。それでも、正しいことを多く成してもいるのです。医学に貢献したというのならば、それは必ず引き継がれますもの」


『……そう……ね……もっと、長く生きて、研究して……たくさんのことを、解き明かしたかったけれど……私、自身も、病気に……負けちゃったけれど……っ。ちょっとだけ、ちょっとだけど、遺せたよ……っ』


「その真実は、失われません。貴方のいなくなるこの世界においても、誰かのために使われることでしょう。貴方は、この世界に、いくつかの大きな遺産を与えたのです」


『…………うん……少しだけ……誇らしくなれる……』


 破壊することしがやれない戦士とは、大きく異なる力だったよ。世の中の誰かを救えるのだ。エスリン・リヒトホーフェンの祈りが、エールマン・リヒトホーフェンの財力を動かして、医学を後押しした。


 『ゴルゴホ』から逃げて来た二人のメロどもも、大学教授でもあったらしいボブ・カートマンも、サルマたち薬草医の村の娘たちも……『寄生虫』の研究を強いられてはいながらも、医学の発展を目指してもいたわけだ。


 間違ってしまった部分もあるだろうが、それを覗けば、正しい遺産も多い。メダルドのことも、そういった研究があったからこそ、最善の対処がやれたとも言えるわけだしな。


 戦士は隊伍を組んで、敵と戦うことをやれるが……。


 研究者たちというものは、それよりも大きくて広いつながりと、長い時間で協力し合えるわけだ。


 ずっと昔、エスリン・リヒトホーフェンが祈り、行動をし始めたことは、確かに世の中に遺っていく。戦士が嫉妬してしまいたくなるほどの、長い歌になるかもしれんな。


『…………後のことは…………生きてるヒトたちに……任せればいいかしらね。『ギルガレア』がいなくなっても、きっと……もっと、多くのヒトが、苦しみから解放される未来だって、ありえるもの……』


「ええ。任せてください。『パンジャール猟兵団』には、とても有能な錬金術師たちがついているのですから。この戦いで得た知識も、より良く使います」


『…………敵でも、嬉しい……帝国以外のヒトの……病気も……消したかったもの……そういうの、敵も、味方も、関係……ないから…………やさしくて、強くて……正しいことって、本当に好き…………』


「ええ。誰かを助けることは、何よりも正しいことです」


『…………終わらせて……もう……私ごと……この祭祀呪術を、消し去って……』


「さようなら。エスリン・リヒトホーフェン。それでは、介錯を―――」


 地響きがした。


 緊張感が、一気に引きずり出される。この揺れには、覚えがあるからだ。『ギルガレア』をにらむが、滅びの傾向は変わらん。ピクリとも動きはしない。しかし……ッ!?


「さらに揺れが強くなりやがったぞ!?」


『……これは……そう……か……ッ。力を、使い過ぎていたのか……ッ。『呼んでしまっていた』……最悪の、タイミングと……なってしまうかもしれない』


『さいあくの、たいみんぐ……?』


「呼んだって、何をなの?」


『……決まって、いるでしょう……』


 エスリン・リヒトホーフェンの面影が、そう口にした次の瞬間。地面が大きく裂けてしまっていた。破裂した地面から、ツタが伸びる。ツタが伸びるが、次の瞬間には真紅の炎に包まれていく。


「燃やされてる!?」


『これ……『るふぁーど』と、おなじ!』


 『火烏の軍勢』だ。猛火に焼かれるツタが破裂していき、夜空に飛び散った炎は……またたく間に、無数の燃える烏へと変化していく。


 赤いかがやきが空を満たすなかで、炎の柱と化したツタの一本の上に……ヤツがいた。


『……本物の、『ギルガレア』よ……』

 



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