第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その百二
「はああああああああああああッッッ!!!」
ヤツの腹に深々と竜太刀を突き立ててやる!!
アーレスの『牙』も灼熱を帯びて、虫けらの群れで編まれた『ギルガレア』の肉体を焼き払いながら破壊してくれる!!
『グギャガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
悲鳴が暴れて、『ギルガレア』から大量の血潮が吹いた。それでも、ヤツは無理やりに起き上がり、大鎌を振り回して来やがる。
力任せに竜太刀を引き抜いて、大鎌の先端を受け止めた。バックステップも組み合わせながらな。そうでなければ、さすがに重量の差がある。鎧を身に着けているとは言っても、風車のサイズのバケモノと毎度、競り合うのは疲れるからね。
それに、このサイズとの戦いは、ストラウスさん家で育った者は慣れてもいる。アーレスから教わった、風のような軽やかな動き。どんな破壊の一撃であったとしても、ストラウス家の剣鬼は乗りこなせる。
大鎌が、大きく空振りした。
そのせいで、さらに身が崩れてしまう。
空振りというものは、戦闘では怖いものだ。戦いのために技巧を全身に通わせているはずなのだがね、そいつが丸ごとズレてしまうこともある。強者同士の戦いにおいては、これは最もしてはならない失敗の一つだぞ。
もちろん。
つけ込んでいる。空振りさせた大鎌の下を、くぐるように駆け抜けながら、竜爪を篭手から生やしたよ。竜太刀を構え直すほどの時間的な余裕がないから、力強く踏み込みながら、『カマキリ』に似た脚の一つを裂いて潰した。
これで、動きがさらに鈍ることになる。悲鳴が聞こえるが、容赦はしない。竜太刀による斬撃の嵐で、刻みにかかるのみ!!
上空では、ミアとゼファーが、がんばってくれているからな。射撃と、牙と尾の強打。『ギルガレア』の小さくなった群れ成す護衛どもが、こちらに近づかないように粉砕し続けてくれている。
ゼファーに取りつこうとしても、ミアが素早く駆逐していった。射撃でも、ピュア・ミスリル・クローでも。自由にして自在に、竜の背を走り回るのも、竜騎士の戦い方の一つだよ。
ケットシーであるミアの方が、その点においては一枚も二枚もお兄ちゃんより上だった。
だからね。
お兄ちゃんは、このクソデカい『カマキリ』を斬りつけることに集中できているのだよ!
竜太刀で斬って裂く度に、把握しているぞ。こいつは、もうそろそろ……終わりだ!!
『おのれ!!おのれ、ソルジェ・ストラウスめ!!』
「貴方の相手は、私ですわ。エスリン・リヒトホーフェン!」
『く、くそ!くそおお!!』
賢さがあろうとも、『ギルガレア』の力を借りていようとも、ヒトの姿で猟兵レイチェル・ミルラと白兵戦を継続することは無謀が過ぎた。
エスリン・リヒトホーフェンの面影が、斬られ、蹴られ、壊されていく。
変幻自在のサーカスの舞踏は、戦士的な読解力では見抜けない部分も多いのだよ。彼女は大学半島で、美しさを持つ護身術を学んだようだが……それが邪魔をしている。レイチェルは、武術を芸術で呑み込んでしまう天才だ。
『が、は!!』
斬撃の応酬のつなぎ目に、強烈な膝蹴りがエスリン・リヒトホーフェンの面影のあごを打ち抜いた。『人魚』の脚力をもろに浴びたのだから、ヒトならば即死モノのダメージである。
『ギルガレア』の護衛者として蘇った彼女は、生身のヒトよりは頑丈らしいが、それでも十分な威力に達していた。
後ろ向けに倒れる。
すぐさま、起き上がれたのは……ヒトと異なる構造であったからだろう。脳があれば、揺さぶられていただろうが、そういう臓腑も彼女にはないようだ。全身のいたるところが、虫けらで補完されているのかもしれない。
だが。
起き上がったところで、レイチェルは間合いにいない。膝蹴りを浴びせた彼女は、即座に間合いを取り直し、今では空中の高みに跳躍していた。エスリン・リヒトホーフェンの面影は、そこから投げつけられた『諸刃の戦輪』の二つの牙に襲われる。
『そう、何度も……やられるか!?』
左右の鎌で、呪いの鋼を受け止めてみせた。あの速度に、対応しつつある点は、褒めるに値する。エスリン・リヒトホーフェンの面影も、その結果に満足したのか、ニヤリと笑った。
『呪いの鋼ならば、その身にも、反転する!!私の投げ返す力も、これに加えれば、いくら貴様でも、受け止め切れるはずがないッッッ!!!』
どうやら、博学な彼女は『呪いの鋼』についての知識もあったようだ。伝説の『諸刃の戦輪』についても知っているのかもしれん。賢いことは、たしかに武器であった。彼女は、レイチェル目掛けて『投げられたのと同じ速度』で戻りたがっている戦輪に、自らの腕力も加えて投げつけた。
とんでもないスピードになっていたな。
だがね、問題はない。我らの『人魚』が、夜空で踊る。長く伸びた左脚で、めちゃくちゃなスピードになっていた戦輪の一つを受け止めた。戦輪の内側に左の足先を入れることで受けている。もう一つは、右手で受け止めた。
『そんな、馬鹿な―――』
レイチェルが踊った。空中でさらに回転しながら右手で戦輪をいつものように投げて、左足の指でもつかんだ戦輪を投げた。至近距離で投げつけられた戦輪に、エスリン・リヒトホーフェンの面影は対応し切れない、右腕を断たれ、左腕も断たれていた。
「終わりです。エスリン・リヒトホーフェン」
大地に降りたレイチェルが、仕留めるために走っていた。




