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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その九十九


 地上に叩きつけられた巨蝿がバウンドしながら転がっていく。仕留められたようだな。マルド・メロが入っていた個体よりも、かなり弱い。大量に作れば、弱まるのかもしれん。呪いの量は分散される。


 たとえ、『ゼルアガ』であろうが何であろうが、無限の力を持っているわけではない。


 ……しかし。


 いかんな。力の差を、見せつけすぎたかもしれん。並みの敵ならば、ひるむこともあるだろうが……彼女が、そうとは思えなかった。


『こうも、あっさりと……ッ!!竜は……竜騎士は、空中戦の研鑽があるわけか。多対一にも慣れている。だとするならば、アプローチを変えた方がいい』


 賢いヤツは、敗北にくじけないものだよ。敗北こそを課題にするものだ。問題点を解決すれば、さらに強くなる。それは、とても当たり前のことなのだから。


『数が足りない!!個の強さは、捨てるぞ!!群れとなるのだ!!』


『ギギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』


『ギュググギギギイイイイイイイイイイイイイイイ!!』


「蠅が、バラバラになった!?」


「分散したようですね」


「数で来るか」


 嫌な選択だった。巨蝿どもが、無数の蠅に分かれる。それぞれがヒトの大きさはあるから、十分な大きさがあるがね。個体の強さは、かなり弱体化したかもしれないが、速度は大して落ちていないのも問題だ。


『包囲してやれ!あいつらに、逃げる気はない!!この『ギルガレア』を狙っている!!攻めにかからず、守れ!!身を犠牲にしてでも、『ギルガレア』を守ればいい!!それで、体力も削れる!!』


 成長した、というよりも分析したか。賢さは、大きな武器だ。


 おかげで、これまでと流れが変わる。新しい戦術で対応する必要が出て来るからな。


 君は賢いよ、エスリン・リヒトホーフェン。『守備』に徹するべきだということも見抜いたな。こちらの体力の消耗を狙うべきだと。


 弱点をしっかりと改善し、こちらの弱点を狙おうとする。とても、良い戦術を選択してくれているな。賢いよ。


 だがね。


 戦術とは、自分の心も示してしまうものだ。


「オレたちを倒すことよりも、時間を稼ぐことが大切か!!」


『……ッ!?』


「『不滅の薔薇の世界』とやらを、完成させるには、まだ時間がかかる!あるいは、生贄が足りん……戦力不足か!!」


『憶測に過ぎまい!!』


「だが、当たっている!!」


「ええ。否定はしませんでしたからね。エスリン・リヒトホーフェン、貴方は事実に対して、とても素直な方ですわ。研究者らしい知性です」


『……戦闘というものは、厄介だ!!戦士に、心を覗かれる!!』


「そうだな!そして、最善の戦術というものはあったとしても、最高の戦術などというものは、この世に存在しないということも、教えてやろう!!各個撃破は、しやすくなったぞ!!」


「そうそう!小さくなったならー、倒しやすいよね!」


 矢と弾丸が蠅どもを狙撃し、駆逐していく。『ブランガ』の毒が有効なのは変わらんからな。かすり傷だけでも、あのサイズには有効となる。


『おのれ……ッ』


 さて。


 戦闘というものは、コミュニケーションだ。実のところ、オレたちが選択した各個撃破の戦術にも、時間がかかるという弱点がある。敵の目的を、わざわざ叶えてやるような行いでもあるのだ。


 それでも、エスリン・リヒトホーフェンは焦る。手駒が減り、守る力が減っていくことに恐怖を覚えてしまっている。上手く行っていても、不安というものは訪れるものだ。なぜか?知性は……想像力は、君の敵にもなる。


 竜を認めた。


 竜騎士を認めた。


 相手を『強い』と認めてしまったときから、想像力は負の側面も発揮する。この戦術で良いのかだとか、じりじり削られていく味方を見ながら、動きたくなるものだ。こちらは、迷っていない。堂々と、仕留め続けるだけでいい。それも、駆け引きの一つだからね。


「命中!!」


 ミアが敵をまた一匹仕留めてみせた。エスリン・リヒトホーフェンの面影は、顔をしかめる。焦ったな。『ギルガレア』を守るための手駒は、数を減らしてしまっている。新たに戦術を変更すべきか迷った。


 それを、待っていたんだよ。


 鉄靴で、指示を与える。これは見抜かれないためでもあってね。戦闘はコミュニケーションだから、敵にバレすぎても良くないことがある。竜騎士の読み合いは、そういう場所にも注意を払っているものだ。本当に、細かいところまで、戦士は戦いのなかで表現してしまうから。


 ゼファーが、強く羽ばたきを使う。


 エスリン・リヒトホーフェンの面影が、こちらを警戒した。高く舞い上がりながらの宙返りを始める。ああ、それだけじゃなく宙返りしながら、身をひねっている。どんなことが起きるかと言えば、ほんの一瞬のうちに、反転が可能となる。


 追いかけられていた竜が、攻めに転じるための伝統的な技巧だ。高さも取れるし、いきなり『背後』を向けるのだ。焦り、思考の深みにハマった相手に仕掛けるには、良い動きということさ。


 引きつった顔の美女がいる。


 美女の、面影がいる。


 生きたかっただろうに、その人生の物語を終えてしまった者の幻影が。


 終わらせてやろう。


 君は、戦士じゃなかったから、死後も誰かを死なせてしまうことなど、とても誇れないはずだから。




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