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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その八十八


 揺れる。揺れる。


 だが、惑うことはない。しっかりと、ゆっくりと。短く飛び抜けながら、風を追いかけていく。風が吹いて来る方角は変わるが、落ち着けば修正して対応することも可能だ。


『ぐるぐる……ほうそくせいは、たぶんない』


「『ギルガレア』もコントロールし切れていない空間ということだ。法則を利かせられないのだろう」


 良い兆候だ。敵の限界を知ることで、戦いやすくなる。想像しなくてはならない範囲を、狭められるからな。


「空間を完璧には閉じられない」


「『ギルガレア』の世界にとって、私たちの世界は異分子です。簡単には、取り込めないのかもしれない。間違ったパズルのピースが、合わないように」


「なるほど。レイチェル、分かりやすい!」


「どんなものにも、『理』というものがあるものです。世界を奪い取ることは、なかなか難しいのでしょう。あるいは……」


「あるいは、何?」


「もう一体の『ギルガレア』が邪魔をしているのかもしれませんね」


「敵対しているもんね。でも……どうして、仲が悪いのかな?」


「ミアは、自分のニセモノがいると、腹が立ちませんか?」


「うーん。考えたこともないや」


「私は腹が立ちます。私は、私だけで十分です。誰もが、誰かである。それ以外であるなんて、不愉快でしょう」


「あ。それは、分かる。本物がいい。『蟲の教団』のおっちゃんたちは、本物じゃなくても、たぶん良かったんだね。逃げたかったから」


「そう。逃げたかったら、こんな世界を創ってしまったのです。無理やりに、世界の『理』を歪めて。でも、ここはニセモノに過ぎません。本物の『ギルガレア』は、自分のニセモノも、このニセモノな世界のことも、嫌ってくれているのかもしれませんね」


「ちょっと、むずかしいけど。何となく、分かった。本物がいい。私、こんなところに逃げ込むのは嫌だよ。どんなに敵がたくさんいたとしても、本物の世界で、ちゃんと生きて、ちゃんと死にたい」


「私もです。リングマスターもですわよね?」


「当然だ」


「わーい!お兄ちゃんと、同じだー!」


『ぼくも、おなじー!』


「ゼファーとも、同じだー!仲間っ!!」


 ああ。もしかしたら、単純なハナシなのかもしれない。レイチェルの言う通り、本物の『ギルガレア』は、ニセモノが嫌いなだけ。だから、対立したのかもしれん。


『かぜが、くるくる……でも、おいかけられてる』


「ああ。そろそろ、かもしれん。潮のにおいが、濃くなった。オレの鼻でも嗅げるほどだ。準備は、しておけ」


「いるといいね、ニセモノの『ギルガレア』」


「倒せば、諸々の解決してくれそうだが……」


『……っ。『どーじぇ』、ひかりが、みえるよ』


 ゼファーが魔眼に、その光景を送り届けてくれる。暗がりの果てに、光があった。小さいそれは、星のまたたきに見える。


「ちゃんと、『外』に通じているようだ。一気に、飛び抜けるぞ。加速して、貫くとしよう。速度を使って旋回し、周囲を確認。オレとゼファーは魔眼で全方位を。ミアは右を、レイチェルは左を頼む。そこに、敵影がいれば射撃で攻める」


「ラジャー!」


「お任せください、リングマスター」


『じゃあ、いくねー!とっぷ、すぴーど!!』


 羽ばたきが強く、激しくなる。星の見える場所へと目掛けて、暗がりが満ちた空間を加速して飛び抜けた!


 世界を、越える。


 その瞬間は、急激に感覚が解放されるというかね。洞窟を抜け出したときのような、あの世界が広がる感覚の、数十倍とか数百倍の心地良さだった。


 星が、戻る。


 空にかがやく薔薇の花畑どもは消え去り、オレたちが良く知っている星々の海が見えて、地上には本物の海が……中海が見えた。


「やったぜ!」


『だっしゅつ、せいこう!!』


 喜ぶが、それでもオレたちは『パンジャール猟兵団』である。ちゃんと、作戦を実行中だ。魔眼と肉眼、使用可能なあらゆる感覚を用いて、全ての包囲を探っている……。


 前には、いない。


 後ろにも、いない……。


「右、見えない」


「……左。敵影、なしです。ですが、ツタに覆われた、クレーターが見えますわね」


「……あれは?」


「『オルテガ』があった場所だろう」


 えぐれた地面があった。


 えぐれた地面だけが、あった。


 周りには、無数の人影がいる。早々に逃げ出していた帝国兵は、東の果てに移動中だ……つまり、下にいる者たちは、『ルファード』軍の戦士だろう。


 『望遠』の力を使い、確認した。


 クレーターのふちに集まり、立ちつくしている者たちは、エルフもドワーフもケットシーも巨人族もいた。軽装の戦士たちである。つまり、彼らは……。


「ゾロ島の漁師たちのようだな。『オルテガ』の消失を心配して、やって来てくれたのかもしれない」


「会いに行こう。『ギルガレア』は、見つからなかったもん」


「ええ。心配しているでしょうし。彼らが、『ギルガレア』を目撃している可能性もあります」


「今はいなくても、さっきまでいたかもしれんわけだ。降りよう。情報共有の時間と行こうぜ」


『らじゃー!おりるねー!』


 ゼファーは大きく旋回しながら、地上を目指す。漁師たちは、すぐに気づいてくれたよ。大きく腕を振ってくれているし、飛び跳ねている者たちもいた。歓迎されるのは、嬉しいものだ。どんなときであってもね。




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