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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その八十七


 役割分担の時間だ。


「地上は引き続きジャンに頼むぜ。ひとっ走りしてみてくれ。風は、読めるな?というか、ジャンの場合は嗅覚を頼ってもいいんじゃないか?」


『は、はい。『動いているにおい』が、わ、わずかながら感じます。これは、海だと思います。それと……あとは……も、『森』のにおいも』


「『森』のにおいがするの?」


「『オルテガ』の周りには、『森』はなかったが……」


「どんな『森』のにおいでしょうか?」


『そ、そうですねっ。あの、か、かなり、たくさんの、しゅ、種類が混じっているようなにおいなんです』


「たくさんの種類が……豊かな『森』というわけか」


 ガンダラと目配せする。さすがは、オレの副官一号殿だな。オレごときのアホな脳みそが考えつくようなことは、すぐに見抜いてくれる。


「『南のエルフ』たちのテリトリーとも、つながっているのかもしれません」


「わ、私たちの故郷とも、つながっている?……二つの、場所と、つながっているなんて、不思議だ……いや、もう、この状況は、何でもありか」


「『ギルガレア』は二体いるようなので、そういうこともあるかもしれません。とにかく、最優先すべきは脱出経路の確保ですわ」


「おしゃべりしている時間はないな。ジャン、『海』のにおいを追いかけろ」


『は、はい!!』


「オレたちも、風を追いかける」


『ぼくも、『うみ』のにおいは、ちゃんとわかるからだいじょうぶ』


「ゼファーも鼻が利くもんね」


『まかせて!』


「では、地上に残る者は脱出と、敵への警戒をしておきましょう」


「『風の旅団』が、市民の避難誘導もしている。ギムリたちも、ちょっと遅いけど、救助活動をしながら、もうすぐ合流してくれるはずよ」


「……オレたち『ルファード』商人も、『オルテガ』の商人ギルドのリーダー格たちと連絡をつける。出口は……西側なんだな?」


「今のところな。風は、向こうから流れている」


「……今のところ、というのは?」


「『外』に出るまで、紆余曲折あるかもしれんということだ。まっすぐの道では、ないかもしれん。空間が、ねじれている。視覚はあまり頼りにならんかもしれん。風やにおい、それらの方を意識して、進んだ方が良さそうだ」


「……『ゼルアガ』という存在は、何でもありだな。皆に、共有させておこう」


 虫けらに寄生されたり、空に伸びたツタから無数の薔薇の花が咲いている光景を見たりと、異常なことばかりが起きているせいか、メダルドもその異常性に馴染みつつあるようだった。


 ……顔色も良さそうなのは、幸いだな。ルクレツィア・クライスの作ってくれた薬と、医療スタッフたちの協力があれば、この『寄生虫』が活性化してもいる状況であっても、メダルドに不幸が訪れることはない。


 勇気が湧いてくれる。


 確信をそれで武装してやれるんだよ。


「敵は、『ゼルアガ』の権能は大きいが、限界はある。オレたちは、この困難に打ち勝ってみせればいいだけのこと!それぞれの、仕事を果たすぞ!」


『イエス・サー・ストラウス!!……で、では、地上はボクにお任せください!!『海』のにおいを、追いかけてきます!!』


 迷いなくジャンは西側へと走ってくれた。オレたちも、風を追いかけて空から挑む。ミアとレイチェルと共にな。


 戦闘も考えられる。地上にいきなり『ギルガレア』がいるとは思えないが、空はどうだろうな?……この閉鎖されてしまった世界を、高い場所から見下ろせる。


 期待しているんだぜ。


 偶発的な戦闘でもいい。『蟲の教団』の『ギルガレア』を倒せるのであれば、この閉ざされた世界から元の世界に戻れるかもしれん。全面的な解決となるのならば、それが一番だ。あの無数のツタどもも、空に君臨する赤くかがやく薔薇の花畑も、消えてなくなってくれるのであれば、ありがたいことだよ。


『くんくん、『うみ』が、ちょーっとだけ、このかぜには、かんじる……』


「では、この風に乗るぞ」


『『もり』は……うーん、すこし、わかるかな。これは、あっち。きた、だね』


「南なのに、北なんだね?」


『においでは、そう』


「常識は、あまり有効ではないようですから。気にせず、試してみましょう」


「迷いのない君の意見は、いつも心を楽にさせてくれるよ、レイチェル」


「迷うのは嫌いですから。考えるべきです。そして、何よりも行動すること。それらが、生産的であるということです」


「いい哲学だ」


 アーティストらしい。戦士の哲学は、どうしても破壊に向かうのだが、生産か。いかにもレイチェルのようだ。


 迷わず、進んでみる。


 閉鎖されて風さえも死に絶えつつある空のなか、わずかながらに流れてくれている風を追いかけて、ゼファーは翼で空を叩いた。加速を帯びて、星の消えた真っ暗な闇の果てへと鼻先から突っ込んでいくのだよ。


 暗く、揺れる。


 視界が、曲がっているのが分かった。


 風も、まるで嵐のなかで曲芸飛行している竜の背にいるかのように、やってくる方向がうねりやがる。


「ゆっくりと飛ぶぞ」


『うん!』


「正確に、風を追いかけるんだ。空間そのものが、いくら揺れて邪魔しようとしても、必ず突破できる。風が、抜けているのだ。竜も抜けられるに決まっているだろう」




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