第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その八十六
非常識な力を持っているものの、『侵略神/ゼルアガ』という存在も決して無限の力を有しているわけではない。気が遠くなるほどの大昔から呪術を企画して、ようやくこの状況が成り立ったわけだ。
「もちろん。別の可能性も考えられますがね。例えば、完全に新規で未知の空間を作るだとか。しかし、です。何せ、呪術を組み立てるための期間が長すぎるわけですな。極めて、高コストな能力。ということならば、最小限の力で成り立たせるのではないでしょうか」
「そうだよね。新しいお家を作るとして、とっても時間がかかっちゃうのなら、前からあったお家を、新しく手直しした方がよいカンジ……かな!?」
『ぼ、ボクに、言われてもっ!?そ、そんなカンジなのでしょうか、だ、団長!?』
「おおむね、あっているだろう」
「あくまでも仮定の話ではあるのですが、間違ってはいないのではないかと考えます。この空間は、とても小さな閉ざされた空間であり、『侵略神/ゼルアガ』がやって来た異世界にあるのではないかと」
「ガンダラの意見を、支持いたします。神であっても、無限の力を使えるわけではない。という考えは、うなずけられますので」
「異論はないだろう」
「ええ。異論は、私にもない。でも、問題は、そこから先のこと」
「その通りですな。脱出するための方法を、議論したい。団長。何か、お考えが?」
「一つだけある。だが、その前に、ガンダラ。この本を」
「これは……ヒトの革の本ですな」
「『蟲の教団』の『聖典』だ。オレが読んだ限りでは、『ギルガレア』を倒せば状況は解決しそうなのだが、『ギルガレア』そのものが、この閉じた空間にはいない気がしている」
「『檻』のなかに、わざわざ閉じこもる必要はありませんからな」
「お前に、この『聖典』を渡す。目を通していてくれると助かるぜ。オレには、荷が重い」
「お任せあれ。といっても、呪術に関しては、団長の方がある意味では専門家なのですが」
「ちゃんとした知識があるわけじゃない。オレは、実践してようやく把握するようなタイプだ」
「感覚で答えが見つけられるというのは、こういった未知の状況には適しているような気もしますがね。まあ、速読で目を通しながらも、会議はやれます」
『だ、団長には、考えがあるんですよね?』
「一つだけな。この世界は、おそらく完璧ではない。『抜け穴』がある」
『ぬ、抜け穴、ですか?それって、い、一体どういう……?』
「その名の通り。『不滅の薔薇の世界』に入ってからしばらくして気づいたが、ここには風がない」
『……っ!!……あ。本当ですね。か、風が、まったく吹いていません』
「あ。そっか。そうだよね、お兄ちゃん!」
「気づいたか」
「うん。竜騎士だもん、ミアも!まだ、ルルーと契約は出来ていないけれど。基本的に風はないんだけど。ちょーっとだけ、吹いてるよね!」
『うん!あれは、こことはちがって、いきてる、かぜ!』
「えーと。つまり、『外』の世界というか、私たちのいるべき世界と、つながっている穴みたいなものがあるってこと?」
「そう考えている。『侵略神/ゼルアガ』は完璧じゃない。連中の一体は、確かに『第四属性』をオレたちヒトから奪い取るような、想像を絶する権能を持っている。しかし、だ。世界から『第四属性』が完全に消えたわけじゃない。あくまでも、オレたちヒトに限る」
それが、『侵略神/ゼルアガ』の『限界』だった。
「この新しい世界を作るという行いそのものは、とんでもない力じゃある。しかし、しょせんは、『侵略神/ゼルアガ』だ。ちゃんと、『限界』もあるだろう。無ければ、向こうの勝利と言えるが……試しに、ゼファーで風を追いかけてみようと思う」
「賛成ですわ。試すのが、早い」
「私も!」
『ぼくも!』
『ぼ、ボクも、試してみる価値、ありだと思います。お、『お母さん』も、大きな力を持っていました。でも、げ、『限界』はありましたから』
「……というわけだ。あとは、ガンダラ。お前の意見が欲しい」
「…………ええ。ちょっと、お持ちください…………ふう。一通り、目を通させていただきました。未翻訳の部分は、少なかったので助かりましたな。ロロカであれば、自力で翻訳することも可能なのかもしれませんが。なるほど、エスリン・リヒトホーフェン。良い研究者だったようです」
「ああ。彼女のために、全ては始まった。彼女も必死だっただけで、最期のときには『蟲の教団』の力を否定してもいる」
「この『聖典』の項目の一つに、『蟲の教団』の『迷い子』という記述がありました」
「今、それを言い出すということは、関係性があるのですわね。『迷い子』、つまりは、私たちそのもの」
「ええ。『迷い子』とは、私たちの世界と、おそらくこの異世界を、意図せずに移動したと思われる者についての記述ですな。『ギルガレア』と『聖餐』で契約を作り上げると、ときおりそういった『想定外/エラー』が発生したのではないでしょうか」
「『想定外/エラー』の穴に入って、戻って来た」
「世界を行き来きした『迷い子』を認識したことで、この世界とは別の世界を創る、という発想を得たのかもしれません。団長、やってみるべきでしょう。『迷い子』のための道が、いつまでもあったという記述はありませんので」
「脱出経路を、見つけ出さねばならんというわけだ。風を頼りにして、進んでみるぞ」




