第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その八十五
「ここが、『檻』だとするのならば……厄介なことがあるかもしれんな」
「どんなこと?」
「『檻』のなかに、『支配者はいない』ということですわ」
「え?じゃあ、もしかして……っ」
『『ぎるがれあ』が、ここにはいないかもしれないってこと?』
「ああ。わざわざ、自分も閉じ込めてしまうことはない。『オルテガ』を呑み込んだこの『檻』を、外側から管理しているのかもしれん」
「どうしよう?」
「探って行くとしよう。解決策は、必ずある」
一つだけ、思い当たる点も見つけている。だが、それを試すよりも先に、情報収集したい。
「ガンダラたちと、合流しよう」
「地上の状況も、知りたいですわね。『外』へと出られない結界が張られているのなら、地上も同じでしょう。しかし、予想だけではなく、確かめておくべきですわ。この状況が、どれだけ続くか分かりませんから」
「うーん。閉じ込められちゃうのは、嫌だな。ここに、閉じ込められていると思うと、なんだか、嫌な気持ちになって来ちゃった」
「当然だな。竜騎士は、広い空を好むものだ」
「だよね!みんなと合流して、状況を確認しなくちゃ!この状況を解決するために!」
『らじゃー!ちじょうに、もどるね!』
地上に向けて飛翔したゼファーは、『オルテガ』の南西へと降りた。ガンダラとメダルド、それにルチア・クローナーもいる。
「ストラウス卿!やっぱり、無事だった!」
「猟兵は死なん」
「あはは。うん。知ってる!」
「団長。上空の偵察はいかがでしたかな?」
「上空は制限されている。高く飛べない。そして、『外』に向かって飛ぼうとしても、途中で空間がねじれて押し戻されてしまう。わけが分からんが、そんな状況だ」
「なるほど」
体験せずにも、こんな意味不明な言葉で納得してくれるガンダラの賢さには脱帽モノだったよ。
「こちらも、星が消えて、あの光る薔薇が出たときから、星空が消えてしまったことに気づきました」
「ガンダラちゃん、空のとっても高いところにはね、もう一つの『オルテガ』が逆さまになって、ぶら下がっているんだよ」
『そらにね、もうひとつあるの!』
「空間を、丸ごと、どこか我々の世界ではない場所に、移動させられたのかもしれませんな」
「え、えーと。ここは、どこだっていうの?」
「ルチア・クローナー、落ち着きなさい。私たちの敵は、どんな存在です?」
「……帝国軍だけど、リヒトホーフェンは……」
「倒した」
「……そうよね。ゼベダイ・ジスの部隊も、片づけた」
「あいつね、ツタに絡まれた」
『ぼくが、ばくげきしてやったよ!』
「生死こそ不明だがな。街の上空100メートル近くから倒壊したツタにいた」
「『普通』なら、死ぬわ、それ」
「『普通』ならばな」
「はあ。でも……相変わらず、仕事が早い。じゃあ、残っているのは、『蟲の教団』。これは、やっぱり……『蟲の教団のギルガレア』の権能なのよね?」
「そうでしょうな。消去法ではありますが、他に考えられるものより、妥当です」
「他にも、いるの?」
「ええ。貴方には言いにくいのですが、『南のエルフのギルガレア』です」
「……なるほど。どちらかの神さまが、力を使わないと、こんな状況にはならない。それは、私だって認められる。他に、考えようもないわけだしね!」
「そういえば、ジャンはどうした?」
「もちろん、偵察に行ってもらっています」
「だと思ったぜ」
「そろそろ、戻るのではないでしょうか?竜で脱出できない『檻』から、徒歩で脱出することが可能であれば、閉じ込められたとは言わない」
『あ。じゃん、かえってきたよ!』
土煙を上げながら、『巨狼』モードのジャン・レッドウッドが戻ってくる。『ユニコーン』と互角近くの速度を出せるからな。地上の偵察にも、最高の身体能力だったよ。
『た、ただいま、戻りましたっ!!』
「ああ。ご苦労だったな」
「それで、ジャン。どうでしたかな?」
『あ、あの。街道沿いに走ってみたのですが。あ、ある程度、進むと……ぐにゃぐにゃって、な、なりまして。その、あの。へ、ヘンテコな、ことを、言っちゃうんですがっ。気づくと、ちょっと前にいたところへ、いて……っ』
「分かりました」
『わ、分かるんですか?じ、自分で言うのも何なのですが、へ、ヘンテコな報告なのですが!?』
「総合的に判断すると、納得が行きますからな」
『さ、さすがです!!ぼ、ボク、その、状況がぜんぜん分かりませんが……っ。団長、ガンダラさん。指示をください。な、何でもしますから』
「ああ。任せておけ」
「現状、我々は、歪曲した空間内に『オルテガ』ごと囚われているようですな。『外』へと逃げようとすれば、追い返される。ここは、本来、我々がいるべき大陸ではなく、もっと特異な空間」
「『ギルガレア』の力……ということは……?」
「ルチア・クローナー、『ギルガレア』は、『侵略神/ゼルアガ』なのです。この空間が、私たちの世界でないとするのなら、答えは限られますわ」
「そう。『侵略神/ゼルアガ』がやって来た、本来の世界。異世界ですな」




