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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その八十四


 不可解なことが起きているようだが、試すべきことがある。


「行ってみればいい」


『おっけー!!』


 ゼファーは羽ばたいてくれる。空の高みのさらに高く、高く……しかし、気づいた。


「風が、ほとんどない」


「そうだね。さっきまで、吹いていた海からの風が、ない」


「わずかな風しか、吹いていないな。どうにも弱々しい。この高度で、これほど弱い風しか吹かないなどということは、ありえないはずなのだが……まあ、薔薇が空に咲いている時点で、とっくの昔に普通という状況は逸脱してしまっているか」


 問題は、いくつかある。竜の飛び方というものは、風を利用する部分も多い。


 つまり、飛びにくいというわけだよ。


『……あがり、にくい……っ。それに、おかしいよ。これだけ、とんでいるのに。あのまち、ぜんぜん、ちかくに、こないんだ……っ!』


「ああ。オレの魔眼にも、そう映っている。まったくもって、近づかん」


「空間がおかしいようですわね。『不滅の薔薇の世界』という場所では、常識なんて通用しないのかもしれません」


「常識の通用しない世界か。だが、確実に失われるものもある。オレたちの体力と魔力だ。ゼファー、そろそろ止めておくぞ。いくら飛んでも到着しないのであれば、体力をムダに奪われてしまうだけだ」


『う、うん。ちょっと、くやしいけれど。むだにつかれるのは、だめなことだもんね』


「まだ、戦場だ。倒さなければならない敵もいる」


 『ギルガレア』、『侵略神/ゼルアガ』であるこの強敵を、倒さねばならん。そうすれば、この狂ってしまった空間も終わるのだろう?エールマン・リヒトホーフェンよ。


『ふー……っ』


 ゼファーは上昇を停止して、旋回を始める。ゆっくりとした動きで休息しながら、かがやく薔薇の群れに覆われた『オルテガ』の街並みの上空を飛んでくれた。


 体力を回復するために呼吸を整えるゼファー、その鼻息を聴きながら思考する。


「上はダメだと来た」


「ですわね。ならば、上以外で確かめてみるというのはいかがでしょうか?」


「そう、だな。海も見えない。海が見えないのならば、あるべき場所まで飛んでみるか。高さを利用して、そのまま滑空で向かってくれ、ゼファー。そうすれば、疲れずに済む」


『らじゃー!』


 ゼファーは迷わずに北上してくれる。そう、オレの感覚も『北』を理解しているよ。


「方角の感覚は奪われていないようだ」


「そうだね。私も、こっちが『北』だと思える」


『ぼくも。ここは、なんだかせまいかんじがするけれど、そこは、かわっていないかも』


「狭い感じか。いつから、オレたちは術中にハマっていたのだろうな」


「この薔薇かもしれませんわね。とても、象徴的で、大きな範囲の呪術です。それに……ちょうど、この空間の中心にあるように見えますので」


「中心……そうだな、地上から見ても、空の……もう一つの『オルテガ』から見ても、中心にあるのは、この薔薇どもか」


 赤くかがやく薔薇を見下ろす。これに見惚れている瞬間に、祭祀呪術に呑み込まれたとすれば、何とも間の抜けたハナシだった。美しい薔薇には棘がある。有名な教訓が、北方野蛮人のバカなアタマにも浮かぶ。


 目くらましにしては、あまりにも壮大だが、祭祀呪術の象徴的な化身というレイチェルの予想は正しいだろう。今までも、ツタは見ていたが、こんな空に咲き狂う光る薔薇など、見たことはない……。


「……この理不尽な力は、『火烏の軍勢』にも似ている」


「『蟲の教団』側の『ギルガレア』の、軍勢なのでしょうか」


「そのうち、何かしらの攻撃が始まるのかもしれない。だが、今は……」


『うみは、みえないよ。それに……なにか、くろいもやもやがある……っ!?すいこまれる……っ!?』


 吸い込まれる。


 というゼファーの感覚に、オレの感覚も一致していた。世界が伸びていた。オレたちがいる空間そのものが、無理やりに引き伸ばされるような感覚。引き伸ばされながら、動かされてもいた。


 ゼファーごと、オレたちの周囲の空間が、どこかに吸い込まれて―――ねじれた、気がする。


 違和感を伴う時間が終わり、落下が始まった。


「ゼファー!!羽ばたけ!!」


『う、うんっ!!』


 漆黒の翼が必死になって空を打ち、落下を止めてくれた。


「ふー。落ちるかと思っちゃった」


『ごめんねー。なんだか、うねうねってしたから、おどろいたの』


「あれは、何だったのか……」


「リングマスター、街が、『前方』にありますわ」


「……っ!?」


 レイチェルの言う通りだった。目の前に見えるのは、薔薇どもと、それに上空を占拠された『オルテガ』の街並みだ。


「本当だね」


『おかしい。ぼく、あっちから、きたはずなのに?』


「なるほど。そういう法則に閉じ込められているようです」


「……ああ、つまり、空は高くは飛べずに、水平に動いたところで、限界がある。ある程度、進むと……無理やり引き戻されてしまうようだ」


 訳が分からん。


 だが、これが『不滅の薔薇の世界』という空間の特徴らしい。これは、つまり一種の檻だった。これを打ち破るか、どうにかして、脱出の方法を見つけない限り、この空間に幽閉されることになるのかもしれん。




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