第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その七十八
ゼファーの『火球』が作ってくれた爆熱の嵐を、焼かれながらも敵どもが飛び出してくる!!
『ぐああああああああああ!?』
『あつい……熱い!?』
『ぎぎぎひいいいいいいいいいいいいいいい!!!』
『す、すすめえ……われわれは、へいしだああああ!!!』
強いられた闘争本能ほど、痛ましいものはない。戦いへの侮辱に他ならん。ストラウスの野蛮な血が、こんなものを許せんよ。
我々にとって、戦場とは、どこか神聖な場所でもあるのだからな!!
「撃つぞ!!数を減らせ!!」
「ラジャー!!」
「では、ナイフの腕も見せましょう。サーカスの技巧は、すべてを網羅していますので」
「ぼ、ボクは、石ですっ!!あ、あれだけいるのなら、どれかにあたりますっ!!」
燃える敵の群れを足蹴にしてまで進む。『蟲混じりの兵士/グロテスク・レギオン』どもの先頭に、狙撃を加えていく。矢と弾丸とナイフ、そして、命中率こそないが、当たれば規格外の威力の投石だ。
削る。
少しでも、この異常なまでの進軍速度をな。
『やが、くる!!』
「回避だ!!」
虫けらどもに浸食されたとしても、帝国兵どもは弓も使うし、投げ槍も放つ。ヒトの膂力ではない。その飛距離も、当然ながら増している。ゼファーは注意する必要があった。
進軍しながらの連中の弓を、少しでも弱めるために、弓の右側ばかりに矢をつがえる癖を狙うのだ。有効じゃある。しかし、それでも飛距離が違った。オレたちはともかく、一般の戦士たちが撃ち合いとなれば、飛距離で負けかねん。
「矢も減らしておきたいところだな」
「うん。今は、馬鹿みたいに撃って来るから、挑発の意味があるよ。昼間とは、こいつら違う。つまり……ゼベダイ・ジス、いないね」
「ああ」
ここにいれば、すでに対応しているだろう。ヤツは賢い。戦場の叩き上げだ。こちらの行動から戦術を読み解きもする。昼間にやれたことが、今もやれないとは思わん。虫けらに心身を奪われていたとしても、それは、とっくの昔からのはずだ。
「ど、どこに……いるんでしょうか!?み、南のエルフたちの方に、行ってるんでしょうか?」
「リヒトホーフェンへの忠誠がある。ヤツは、こちらに来ているはずだ」
行動から戦術を読み解けるのは、こちらも同じ。エスリン・リヒトホーフェンの日記というか、遺書も読んだあとでは、なおさらのこと。
リヒトホーフェンを守りたがる。義理の父親でもあり、主君だ。ヤツは、ここに来ているはず。
それでも、この敵の群れを指揮していないというのなら……。
「こいつは、『陽動』でもある」
「別のところに、いるんだね」
「べ、別のところ……っ。そ、それは、一体……っ」
「決まっていますわ。『オルテガ』です。あそこは、『究極の聖餐』の現場であり、リヒトホーフェンの居城なのですから」
「で、でも。リヒトホーフェンは、もう……」
「呪術の変化で、悟るかもしれませんわね。彼らは、深い呪術で結ばれている。愛情や忠誠心、そして、心の痛みでも」
「探し出したいが、今は、こいつらの数を減らすぞ!!ガンダラたちも、動いてくれている!!」
奪い取った城塞に、『ルファード軍』の戦士たちがよじ登っていく。より有利に戦おうというのだ。わざわざ、平地に出て、この勢いを持つ敵軍とぶつかる意味はない。城塞を盾にしながらも、矢を撃ち込めばいい。
より有利に戦うのが、正しい。
奪ったばかりの城塞でも、使いこなせばいいだけのこと。
その準備のための余裕を稼ぐ。矢を撃たせて、こちらも撃ち殺していくのだ。
たとえ、殺すほどに……『究極の聖餐』のための生贄を捧げていることになったとしても、こいつらを好きにはさせられん。
じりじりと『オルテガ』へと追い込まれていく。この敵どもの目的は明らかで、『オルテガ』に向けて一直線だ。
旺盛な攻撃性で、上空に位置する我々を攻撃してきながらも……ッ!?
「お兄ちゃん、ゼファー!!」
「ああ!!」
『らじゃー!!』
羽ばたきで、夜空高くへと舞い上がる。『棘』の群れが、『火球』の焔で炙られる地面から飛来していたのだ。
燃え盛る敵の死体が、『変異』した……いいや、正確には、死体と『蟲混じりの兵士/グロテスク・レギオン』が融合して、巨大な蠅に―――いや、『蜂』へと化けていた。その数は十数匹。
夜空に舞い上がると、厄介なことに素早く散開しやがった!!
「嫌な敵!!」
「賢い。ゼファー、オレたちは、もう魔力が少ない……頼む!!」
『うん!!『まーじぇ』じきでん……っ!!『かみなり』いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!』
遥かな天空より、『雷』の驟雨をゼファーは呼んだ。魔力の消耗は多いが、この『蜂』どもと追いかけっこをしている余裕もない。
ズガドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッッ!!!
『ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?』
『ぎゃがぐうううううううううううううううううう!!?』
断末魔ごと、雷光の炸裂が吹き飛ばしてくれる。敵どもは、一層された。だが、地上部隊を『蜂』に構っていた分だけ、進まれてしまう。
ああ、嫌な感覚だ。焦らされているな。
こいつは、戦術だ。ゼベダイ・ジスの動きを、援護するための、竜対策だぞ。




