第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その七十七
ゼファーが地上近くまで降りてくれる。羽ばたきでホバリングしながら、その尻尾をオレたちのために伸ばす。
「じゃーんぷ!」
尻尾に目掛けて飛びついたミアは、またたく間に登って行く。オレも、負けてはいられない。同じくゼファーの尻尾に飛びついて、ガルーナの野蛮人の腕力を使ってよじ登ってみせた。
レイチェルもジャンも、すぐさまゼファーの背にたどり着く。賢い仔竜は高く高くへと翼を羽ばたかせて、戦場の隅々までをオレたちに見せてくれた。
城塞内の戦闘は、こちらが有利な状況となっているままだが、南西の果てに現れた軍勢は常軌を逸した速度でこちらに迫りつつあった。
騎馬の群れでもないのに、土煙を高く舞い上げてしまっているのは、何と印象的だったよ。
「ヒトの身体能力ではないし……そもそも……」
『ひとの、かたちも、していないよ!』
「虫けらどもに、全身を任せたのか。ゼベダイ・ジス。それが、忠誠心のつもりというのならば、大きな間違いだということを教えてやらねばならん」
「行こう、お兄ちゃん!まともに戦うと、こちらの被害が大きくなっちゃう!」
「攻城戦で疲弊してもいますから。上空からの援護で、連中の勢いを削ぎにかかるべきです」
「ああ!ゼファー!!」
『らじゃー!!せんじょうに、むかうねー!!』
翼で空を打ち、ゼファーは加速してくれる。ねばりつくような夏の夜風を貫いて、戦い合う地上の敵味方を飛び越えて行く。
『オルテガ』内部の敵の勢いは、弱っていた。リヒトホーフェンや、大神官ゾーンどもを排除したことで、統率が乱れているようだな。多くの人種が参加している我々の方が、戦い方が柔軟であることも大きい。虫けらに強化されたところで、こちらにも『ブランガ』がある。
……戦闘事態は、こちらが圧倒的。街での戦いを援護するまでもない。それは、いいのだが。地上に、また異変が生まれている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「地面が、鳴ってる……また、揺れてるんだ」
「何かの予兆か。つまりは、祭祀呪術の影響が街に出ようとしているのかもしれん」
「街の内部での戦いで、帝国兵も我々の戦士たちも血を流してしまっています。呪いに、生贄が捧げられたような状態にある……」
「ど、どうすべきでしょうかっ!?」
「もちろん。解決可能な方を、解決しておくべきだ。余裕があれば、不測の事態にも備えられるのだからな」
「ゼベダイ・ジスを、倒そう!」
街並みを越えて、城塞を越える。猛烈な勢いで迫り来る、異形へと姿を変えた敵の群れをにらみつけた。『蟲混じりの兵士/グロテスク・レギオン』どもは、兵装の内側からヒトの身と蟲の硬質な腕や脚、触手があふれる出すように伸びている。
どいつもこいつも大きく歪んでしまっていやがってね、脚が三つ以上ある者も珍しくないと来た。生身の脚も、蟲の混じった脚も、荒野を削るような勢いで地面を蹴りつけていやがるんだよ。
「あれでは、肉体を使い切ってしまうぞ」
「生きるつもりがないのですわ。死ねば、『究極の聖餐』に対しての生贄となるわけですから。『寄生虫』どもに心身を蝕まれた彼らは、もはや自分の意識など持ってはいない」
「ひどいね。帝国軍よりも、サイテーだよ」
「だ、だよね。ら、楽に、してあげましょう。あ、あいつらは帝国兵で敵ですが、それでも、ちょ、ちょっと、かわいそうな連中なんですから!!」
「……ゼファー、あいつらの数は?」
『んーとね……ごひゃく』
「半分か」
残りは、南のエルフたちのテリトリーへと向かったまま。半減させられたとも言える。どうあれ。今は、目の前の敵に集中すべきだ。
戦場を観察する。
迎撃するにあたっても、適した場所というものがあるからな。『蟲混じりの兵士/グロテスク・レギオン』どもの進路にある地上の起伏を見つめる。街路も荒れ野も連中は三つ以上に増えた脚で、器用に素早く走り回っているが……『オルテガ』は戦いの歴史を重ねた街。
城塞だけじゃない。
城塞へと至る地面にさえも、戦いの工夫というものが仕掛けられているのだ。向こう見ずの突撃を仕掛けてくる敵を、無意識のうちに低さへと誘うように、あえて起伏を持たせたいる。狙うのならば、敵どもが、その起伏の伏の方に捕らえられたとき。
『火球』の爆風の威力を、余すことなくぶつけてやれるタイミングは、そこにある。
心をつなげた仔竜は、オレの思考を感じ取り……そのタイミングに合わせるために、魔力を全身で練り上げていった。
翼を夜風に乗るように使い、速度を抑えつつ……狙う。
「ゼファー!今だ!!歌ええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAAAAOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
歌と共に『火球』が放たれる。『蟲混じりの兵士/グロテスク・レギオン』どもがなだからな斜面を降り切った直後、その鼻先へと向けて、『火球』の爆撃を喰らわせてやった!!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
『ぎゃひいいいいいいいいいいいいい!!?』
『ぎゃるううううううううううううう!!?』
『あ、熱いいいいいいい!!?』
ヒトと虫けらどもの悲鳴が、灼熱に焦げた爆音に混じって聞こえてくる。腹立たしくなるぜ。こんな光景を、貴様の愛する女が望んでいたとでも思うのか、ゼベダイ・ジス!!




