第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その六十九
赤い体液が吹き上がり、多くのツタを身から切り離された『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』の重量は軽くなった。ミアの生み出す真空が終わると同時に、ジャンの怪力がより発揮されることになる!!
『がるるるううううううううううううううううううッッッ!!!』
『ぬうう……引きずられる……っ』
『我らは『蟲の教団』の最終守護者、楽園が訪れるまで、揺らぐことは許されぬ』
ツタの一部が床へと絡みつく。根を生やして、床にしがみつこうとしているのだ。耐えようとしているな。ならば、邪魔をしてやるのが敵としての務めでもある!!
「援護するぞ、ジャン!!」
接近戦だ。
うごめくツタを斬り抜けながら、床に張り付くツタの根本を裂きにかかる!!
こちらもレイチェルの『諸刃の戦輪』同様に、竜太刀の成長があるのだ!!『牙』を生やした斬撃で、『ストラウスの嵐』を叩き込む!!
『ぎゃぐううううう!!?』
『ぎひいいいいいい!!?』
斬られた部分から、無数の虫けらが飛び出して、赤黒い泡へと変化していった。無数の虫けらで編まれたこいつらではあるが、空気に触れると死ぬのか、それとも致死性のダメージを負えば結合していられなくなるのか。
何であれ、不死身ではない。
デカく、千年近くこの場で生成されて来たのかもしれんが、だとしても、勝てぬ相手ではないということだよ。不死でないならば、どれほど強かろうが巨大であろうが、猟兵ならば殺せるのだ!!
「ジャン!!壁に向けて、ぶん投げろ!!」
『がるるるううううううううううううううううううッッッ!!!』
『させるものか!!』
『耐える、のだ―――ぐふうう!?』
レイチェル・ミルラは、まるでここがサーカスの天幕の下であるかのように、華麗であった。空中高くへと飛翔した褐色の美貌が、ローブを来た大神官ゾーンどもの一体を蹴りつけていたよ。
胴体を深く貫くほどの、強烈無比な蹴り。そして、その衝撃の全てを打ち込んだベクトルは、まさに芸術的なまでのコントロールが成されていた。ジャンの引く方向と、完全な一致を見せていたんだよ。
だから。
ジャンの仕事が大いにサポートされることになった。
美しい『人魚』が、破壊された大神官ゾーンを足蹴にした反動で空中へと舞い戻るころ。ついに『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』の巨大な肉体も、宙へと浮かんでいた。
『あり……えぬ……っ』
『がるるるるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッッッ!!!』
『巨狼』モードのジャンの背中の筋肉が、爆発しそうな勢いで膨らんでいく。筋力も、その大きさに比例して、強化されたのだ。『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』と共に、ジャンは空中に飛んでみせる。
そのまま、『巨狼』の肉体が、巨敵ごと前方に回転した。『ヴァルガロフ』で学んだ『闘犬殺法』だった。武術の達人には弱さがあるが、これほど大味の敵にならば非常に有効。力の出し方に関しては、『巨狼』の姿を十二分に使いこなす技巧でもある。
「見事だぞ、ジャン!!」
圧倒的な力により回転を強いられた『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』が、壁面へと破壊的な速度で叩きつけられる!!
壁に亀裂が入るほどの勢いは、打ちつけられた無数のツタを伸ばし切り、それらのツタは千切れてしまい、虫けらどもの赤黒い泡沫へと変化する。五代目の大神官ゾーンとやらと同じように、衝撃を与えた方が効果的なダメージとなるのだろう。
むろん。
それら全ての攻めも有効だ。
『おのれ……魔術で、切り裂いてくれよ―――』
スリングショットの弾丸が、大神官ゾーンたちの一つの頭部を精確に撃ち抜く。ヤツの腕に集まっていた魔力が四散した。
「やらせないよ。私たちは、チームで動いているんだ」
クールな妹の発言に、お兄ちゃんの心は震える。技巧と術の連発で、一休みしたくなる肺腑と心臓にもムチャをさせられるんだよ。猟兵が、がんばっているのならば、猟兵団長も続くのみ!!
巨敵目掛けて、走る!!
追いついて来たレイチェルと並んでな!!
「斬りまくってやるぞッッッ!!!巨大であろうとも、破壊は可能ッッッ!!!」
「ええ!!いっしょに踊りましょう!!リングマスター!!」
鋼の嵐を叩き込む!!
もはや、技巧と言うよりも、ただの反射の連続で、視界に入るツタを斬りまくるのだよ!!竜太刀と竜爪、右と左の『諸刃の戦輪』!!呪われた鋼が、歓喜して、切れ味を増していくのだ!!
視界を埋め尽くすほどの敵の動きがあれども、怯むはずもない。鋼の速射を叩き込み、野性的なまでの動きで攻め続ける。進むのだ、どんなに激しい敵の手数が相手であろうとも、まったくもって問題なし!!
我々は、戦場の霊長、『パンジャール猟兵団』である!!恐れるのは、我らの前に立った敵の仕事だ!!
『ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイッッッ!!!』
ツタどもの奥底から、巨大な花弁が見えた。薔薇のつぼみのような形状をしている。二メートル近くもある花など、呪いの産物でしか存在しないだろうがね。しかも、鳴き声を上げるのだから。
不気味な花弁が開き、その奥に……巨大なカマキリの頭部が見えた。牙を打ち鳴らし、オレとレイチェルに迫ってくるが……届くとは限らん。ジャンもまた、勇敢な牙を開き、巨敵目掛けて飛び掛かっているのだからな。




