第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その六十八
『ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイッッッ!!!』
虫けらどもが泣き喚き、上空から呪いの集合体が降ってくる。粘つき絡まりながら躍動する無数のツタどもが、どこか流体めいた柔軟性を伴い床に到着した。
巨大である。横にも大きければ、その上、縦にも大きいと来た。うねりながら広がる人面ツタの群れのせいで、さらに視界を埋め尽くしてしまうほどだよ。何とも邪悪で、醜く、あまりにも罪深い気配があった。
どれだけの数の生贄が、このおぞましいバケモノに捧げられていたのか。
……大神官ゾーンどもが、白骨化したあごをカタカタと揺らす。
『我らが、誓願の成就の日が来た……』
『全ての祭儀は、終わりを迎える……』
『さあ、そなたらも我らが一員となるがいい……』
『『ギルガレア』さまの前に、全てが救われるのだ……』
「邪教の大神官どもに興味はないが、『聖餐』を止める方法があれば、知りたいものだな」
『ないさ』
『あるはずがない』
『これは、すべての計画の果てぞ』
『あらゆる神々の頂点、『ギルガレア』さまのお力は誰にも止められない』
「……もう一匹、『ギルガレア』はいるが?」
大神官ゾーンどもが黙る。敵対する最大の神もまた、『ギルガレア』。『蟲の教団』の教義には、大きな欠陥があるらしい。
何であれ。
攻めるべきタイミングは、今だろう。
言葉も要らん。巨大な『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』に向けて、我々は一斉に攻撃を重ねていた。ミアのスリングショットが『風』を帯びた弾丸で、大神官ゾーンどもの一体の頭部を撃ち抜き、『諸刃の戦輪』がもう一体の首を落とした。
オレとジャンは、群れ成すツタへと正面から突撃を仕掛ける!!
「はあああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
『がるるるううううううううううううううううううううッッッ!!!』
むき出しの闘志をぶつけて、反応を強いる。重なり響き合う怒号には、そんな意味もあるのだ。『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』の無数にあるツタどもだが、役割は決まっているようだな。
前衛の務めを果たすべき、いわば盾の代わりのツタもある。それらが、迎撃へと動くものだから。役割分担で対処する。
「ジャン、行け!!」
『イエス・サー・ストラウスッッッ!!!』
迫り来るツタを、竜太刀の竜爪の乱舞で叩き斬る!!ドワーフ・スピンを混ぜての、横への動きだ!!そちらが、盾となるのならば、こちらは城塞のように君臨してやるまでのこと!!
『なんと……』
『これだけの数を、一人で……』
『がるるるうううううううううううううううううう!!』
勇猛果敢なジャン・レッドウッドが、圧倒的なサイズの『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』に向けて中央から飛び掛かった!!
無数のツタを巨大な牙による噛みつきで捕らえると、そのまま左斜め前方に駆け抜ける。引きずろうというのだ。普通ならば、不可能。だが、ジャンは世界最強の怪力の持ち主なんだよ。
ズズズズズズズズズズズズズウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
巨大ではあったとしても、力負けしないとは限らない。うねるツタの群れが『巨狼』に引きずられてしまうのだ。さすがに、持ち上げて振り回すほどのことはやれないが、その代わりに、オレたちが共に戦っているのだ。
ジャンが引きずる『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』の右側へと入りながら、斬撃でツタを刈りにかかる。薔薇のツタに見せかけてはいるが、さっき、ジャンが握りつぶしたツタと同じく、こいつらもしょせんは虫けらどもの集合体に過ぎないようだぜ。
巨大であろうとも、裂くのは難しくない。
手数は厄介であるが、こちらも群れなのだよ。
『打ち据えてやろう!』
『我らの道を阻む、悪人どもめ!!』
空中高くにツタのいくつかが持ち上げられるものの、『ターゲティング』を仕掛け終えている。斬り結びながらも、呪術の一つぐらいは仕掛けられる程度には、経験を積んだというわけだ。
オレとジャンをツタどもが打ち据えるよりも先に、ミアの『風』の魔術が放たれる。
「真空ううううううううううううううううううううううッッッ!!!」
切断したり、叩きつけたり、『風』の魔術は多くの種類があるわけだが、『吸い上げる』という種類の術も作れた。多少、切り裂くような力もあるものの、これは『動きを止める』ことこそが主たる目的の魔術だよ。
打つために振り上げてしまった動きに合わせるように、ツタどもが吸われた。動きを乗っ取るような形で、ミアはこの魔術を放っている。無数のツタが『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』どもの頭上に集まり、そこをレイチェルが襲った。
『奇剣打ち』には感謝する必要があるかもしれないな。『諸刃の戦輪』の切れ味が強化されていたことで、レイチェルは『これまで以上の本気で投げれた』。
腕だけでなく、全身で飛び跳ね、前方に加速しながらの投擲。身体能力と運動神経のカタマリのような『人魚』の、あらゆる筋肉と関節が参加した投げ方だった。
今までの『諸刃の戦輪』も恐ろしい切れ味ではあったが、『本気』のレイチェルの投げが鋼に与えるダメージは深刻だったろう。強さと速さが過ぎて、鋼にかかる負担が大きかったのだ。
しかし、今の切れ味は、鋼に負担がかかるよりも先に、無数の獲物を裂いてしまっていた。むろん、投げたこの呪われた鋼は、同じ速度で投げ手に戻りながら、さらにツタを斬る。オレとミアの合わせ技の『風』が引き寄せていたツタの多くが、瞬時に断たれていた。




