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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その六十四


 リヒトホーフェンが走る。ヒトの動きでは、もちろんなかった。猟兵でも出せない速度、というよりも、ヒトの肉体の使い方ではない。まるで……。


「死ねええええええええええいい!!」


「速いが、斬撃はまともだな!!」


 竜太刀とサーベルが交差し、火花と激突の音色が散った。


 なかなかの業物らしく、この速度と力の打ち合いでも折れんと来たか。しかも、片腕で、オレと互角。こちらも片腕で振り抜いてはいたが。虫けらどもは、良い仕事をしてはいるようだぜ。


 むろん。一対一ではない。


「援護するよ!!」


 ミアがリヒトホーフェンの背後へと入りながら、ナイフを投げる。リヒトホーフェンは左腕を振り抜き、ナイフの先端を二本の指で受け止めてしまっていたが。かなりの達人ぶりではあるものの、『寄生虫』で作られた肉体らしい反応も見せる。


 指のあいだから煙が上がった。


「……ふむ。これは、『ブランガ』が大量に塗布されていたか」


 指が開いてナイフが内臓みたいに脈打つ床へと落ちる。ミアは、教えてくれた。示してくれている。


「『ブランガ』が、やはり有効」


「よく研究しているらしい。必死になって、『ギルガレア』の力を追い求めたか」


「どうだろうな。殺すべき悪には、それなりに意識は払う!敵意もな!!」


 両手持ちに変えて、踏み込み、競り合いを崩す!!


 いや……ふわりと、異様な『軽さ』をリヒトホーフェンは使い、瞬時に間合いを開けやがった。背後にいるミアへと迫り、斬撃を放つ。むろん、ミアは間合いを取り直して、回避に専念した。


 連携すればいい。


 力と速さと技巧を持つリヒトホーフェンに、競り合ってやる理由も我々には一つだってないのだから。


「よく動く。ケットシーか」


『し、仕留めますッッッ!!!』


 『巨狼』に化けていたジャンが突撃を当てにかかるが、リヒトホーフェンは伸ばした左手で、迫り来る『巨狼』の鼻を押さえつけてしまう。


『そ、そんな……ッ!?』


「ジャンの突撃を止めた!?」


「ああ。なかなかのものだ。とてつもない力ではある。しかし、貴様らにとって、『ここ』は場が悪いのだよ。『聖なる深淵』は、我々に力を与えてくれる空間なのだ」


 ジャン目掛けてサーベルが振り落とされるが、レイチェルが戦輪を投げつけて、弾いた。


 ……弾けたか。その隙に、ジャンは間合いを開けて、斬撃をもらうことはなかった。


「おかしい、ですわね」


「ああ。おかしいな。こいつは、力も動きも、合っちゃいない」


 ジャンの突撃を容易く受け止められるのならば、オレの斬撃と互角の威力だったはずもあるまい。腕力を推し量るために、わざわざ竜太刀で受けてやったのだが……感じ取った力は、あくまでもオレと互角程度だ。


 ジャンを止める力は、あの瞬間にはなかった。それに、レイチェルの戦輪が狙ったのは動きを妨げ、ジャンが退くための隙を作り出すか、威力と競り合わせてサーベルをへし折ってやるためだったはずなのに、現実は予想と大きな隔たりを見せている。


「トリックがあるんだ」


「つまりは、呪術」


「ご明察だよ、ソルジェ・ストラウス。呪術には、詳しいようだ。しかし、そうだとしても。私に勝てるとは限らない」


 ヤツが魔力を練り上げる。それはやたらと早い収束であり、ヒトの行うリズムとは大きく異なった。『寄生虫』の影響かもしれないが、どうにも読みにくさがある。


「避けろ、『雷』が来るぞ!!」


 正確無比で機械的な『雷』の矢が、猟兵が飛び退いた影へと突き刺さる。猟兵の身体能力でなければ、当てられていたな。ヤツの魔術の精度が高いからこそ、こうして避けられたとも言える。


 この回避を成し遂げられたことが、ヤツの無能さを示しはしないということだ。


「これも、避けるか。面白い連中だ。蚤のように、よく跳ねる」


「リングマスター、ジャン。呪術の対策は、お任せいたしますわ」


「援護するよ、レイチェル!」


 レイチェルが接近戦を仕掛け、リヒトホーフェンに襲い掛かった。


 『諸刃の戦輪』を握り締めて、舞踏のように美しい連撃を浴びせにかかる。五月雨のように激しい連打と同時に、幻惑するような動きも伴うものだ。やわらかく、早く、速く、良く動いて攻撃の起点もトリッキーときた。


 アレをやられれば、武術家は泣かされる。武術の動きは、よりストイックであり、レイチェルの動きほどダイナミックでもなければ変則的でもない。


 武術の鍛錬をしっかりと行った者ほど、読み合いの想像力で負けてしまう。


 おかしな呪術の影響下にあり、力と動きが一致していないリヒトホーフェンであるが、レイチェルの動きの特殊性に反応し切ることはない。サーベルで受けつつも、いくつか戦輪の斬撃を浴びていく。


 ヤツがまともな肉体であったならば、とっくの昔に行動不能の重傷を負っているはずだ。ミアの援護射撃も、何発か当たっているのだからね。


 それでも、なお。ヤツは軽快に動く。軽すぎて、力の強弱さえも不揃いな、おかしな動きを続けている。時間を、稼がせるわけにはいかない。


「呪術を、解くぞ!!こいつを、いくら斬っても倒せる保証はない!!」


『は、はい!!『呪い追い』を、か、完成させましょう!!』




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