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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その六十一


「ウフフ!さあ、リングマスター!!」


「おう!!」


 左はレイチェルに任せて、右はオレが斬って裂く!!


 次から次に叩き斬っていくのだが、それでも虫けらの腕は生え続けていやがるな。


『ぬ、ぬぐぐ!!こ、小うるさい異教徒め!!二方向からの攻めだとしても、『ギルガレア』さまの加護は、こうして動いてくれるのだ!!』


「なるほど!勝手に動く。つまり、お前の意志が通っていないわけですわね!」


「そういうのは、大きな欠陥なのだぞ、ゾーン!!」


『何を―――ッッ!?』


 ゾーンは気がつく。目の前に『巨狼』が迫っていることに。無数の腕のそれぞれが自動的に動くのであれば、殺気に燃える我々に腕どもは向かう。ゾーンの意志とはお構いなしに。左右に分かれてしまった腕どもは、前方に大きな隙を伴っていた。


『がるるるるううううううううううううううううううううううッッッ!!!』


『く、くるなあああああああ―――あぎぃいいいいいいいいいいいいいい!!?』


 『巨狼』の牙の列が、ゾーンの胴体を噛み潰していたよ。体内の虫けらどもが、その圧倒的な破壊力の前に連鎖して潰されてしまう。この虫けらどもには、斬るよりも、潰す方が効率的かもしれんな。『ゴルゴホの蟲』は、斬られても互いを結びつけていたから。


 猟兵の勘は、頼るべきだよ。


「ジャン!そいつを、壁に叩きつけろ!!」


『は、はい!!』


『ぐ、おおおおおおお!?』


 噛みついたままゾーンを持ち上げると、ジャンはそのまま力に頼る。胴体と首を大きく振って、ゾーンの『寄生虫』の群れで編まれた体を再び壁へと投げつけていた。


 衝突音が、地下の湿度とほこりを帯びた空気を揺さぶる。


『が、は、あああ……ッ』


『ギギギギギギギギギギギイイイイイ!!』


『ギャギュギギギギギギギイイイイイ!!』


 赤い体液が、四方八方に吹き上がっていた。虫けらどもの硬い甲殻同士が、衝突の威力で潰れながら重なっていき、『巨狼』の怪力が生み出した圧倒的な暴力を、余すことなく伝えていた。


 当たりだな。斬るよりも、ずっと効果的だったようだぜ。しかも、背部に衝撃を与えられたことは大きい。


「こいつも、例外に漏れず、背骨周りに『寄生虫』どもの中枢があったのかもしれんな」


『はあ、はあ。こ、この赤いの……血に似てる色ですが、か、壁や、天井を、あ、赤く塗っているものと、お、同じですね……ッ』


「『寄生虫』の体液だったのですね。壁に塗るなんて、興味深い使い方です。呪いに、気をつけるべきですわ」


『……っ!!』


「おう」


『……う、ぐ、うう……か、勝った……つもりか…………』


「圧勝したからな。もう、お前の手下となる虫けらも尽きているようだ」


 すでにミアも戦っていない。うじゃうじゃ、赤いプールから這い上がっていた『スケルトン・パラサイト/白骨に寄生した蟲』どもも、全てが倒されている。


「おじいちゃん、終わりだよ」


『……おのれ……邪悪な……者どもめ…………ど、どうして……世界の変革を、邪魔するのだ。私のように……蟲や、蟲を養う薔薇へとなれば……こんなにも、静かで……やさしく、永遠を……過ごせるのに……』


「貴様らの狂った教義に、興味はない。理解してやるつもりもない。だが、お前は敗北したのだ。終わりを受け入れろ」


『……終わりなど……』


「すでに、『寄生虫』は限界のご様子。動きを止めて、泡立ち、崩れています」


『…………終わらんさ……私が……倒されても…………伯爵が、祭祀を執り行う』


「祭祀だと……?」


『偽りの神を倒し……我らの『ギルガレア』さまだけが、絶対の神になられる……生贄に過ぎん……貴様らも、地上の者どもも……全て…………『聖餐』のための……供物ぞ…………』


 崩壊は、ゾーンの顔にまで及ぶ。


 泡立つ顔に、助言をくれてやった。


「神官ならば、祈る神は明白だ。己の最期を、祈るがいい」


『…………我は……自らの……ためには……祈らんよ…………『ギルガレア』さまを、信じる者に…………恵みよ……あれ…………―――』


 理解の範疇から逸脱した邪教の大神官ではあるが、自らの信仰に対しては忠実だったらしい。その点だけは、褒めてもいい敵であった。


 敵は、祈りながら崩れ去ったのだ。


「……進むぞ。リヒトホーフェンを、仕留めれば、『蟲の教団』も終わるだろう」


『は、はい。そ、その、行きましょう。この部屋は、の、呪いも多くて……わ、罠がまだあるかもしれません。さ、先に、進んだ方が、きっと、安全ですよ」


 ジャンはヒトの姿に戻りながら、ゾーンが守っていた入口を見た。


「あ、あの先に、いるんだと思います」


「ですわね。たしかに、安全性も高いでしょう。ここは『蟲の教団』にとっては、重要な神殿のようなもの。あそこから先は、おそらく、聖別された区画でしょう」


「大神官が身を挺して守るほどの通路だからな」


「今度こそ、いるね。リヒトホーフェン!仕留めちゃおう。そうすれば、祭祀っていうのも出来なくなるよ」


「手っ取り早い解決策ですからね。この土地を狂わせている根源的な悪を、排除いたしましょう」


 赤いプールと、ゾーンの融けた泡を警戒しつつも、その入口へと足を踏み入れた。細く、長く、深くなる通路の先は、何度も直角に曲がりながらも、地下へと向かう。不快な湿度とまとわりつくような高温を帯びた空気に、息苦しさも強くなっていく。


 『呪いの赤い糸』も、濃くなった。


 壁と天井と床を這い回るそれは、まるで血管のように見える。ここは……『蟲の教団』の聖なる深淵は、やはり内臓にも似ていた。




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