第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その五十九
「……ッ!!」
ジャンに目掛けて、群れを成し、高速で旋回する薔薇の鞭が襲い掛かる。無数の棘が生えたそれは、残酷な威力を感じさせるものであるし、実際のところ殺傷能力も高いだろうよ。左に揺れるつたもあれば、右に揺れるつたもある。動きを読み解くのにも、難易度があった。
相当な達人でなければ、その動きに対処することは不可能であろう……ということさ。ジャンは大陸最強の怪力だが、技巧の面では、達人というわけではない。
「読み切れまい!!刻んで、刻んで、贄にしてやるぞおおおおおおおおいいいッッッ!!!」
邪教の老神官は、生き生きした殺意を放つ。迫害されて、こんな地の底に追い詰められたような者だ。さぞや、恨みの多い人生だったことだろう。
殺すことが、大好きなのさ。
それを信仰が与えてくれる何かで、隠そうとしたところで。結局のところ、ここらが本性というものだった。
……ああ。もちろん。ジャンのことを援護するに決まっているよ。僧侶は、戦場の混沌をよく知らないらしい。ジャンに夢中になり過ぎるあまり……オレが前衛をレイチェルと交代したことに気づいちゃいなかった。
「くたばれ、『呪われた血』よおおおおおおおおおおおおおお―――ッッッ!!?」
ズガシュウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
竜太刀の放つ漆黒の斬撃が、『牙』の鳴る破壊の一刀が、ジャンを目掛けて放たれていた無数の鞭を裂いて止めた!!
「だ、団長!!ありがとうございます!!」
「な、なんだ!?そ、その刀は……まさか、その刀にも、竜が、宿ると……っ!?」
「賢いじゃないか!!その通りだよ、ゾーンとやら!!」
ギチギチと鳴る竜太刀を携えて、もちろん間合いを詰めにかかる。大神官ゾーンとやらは、新たな薔薇を下半身から伸ばして来やがった。
それで、迎撃するつもりらしいがね。
ストラウス家の四男坊は、鞭の軌道も見切れるのだよ。
斬る、斬って、裂いてやる!!
「ば、馬鹿な!?こんな、速さで、この手数でえええ……ッ!?」
「それでは、足りんということだ!!これで、終わりというのなら、貴様も終わりだな!!」
「……ッ!!」
煽るよ。
戦闘はコミュニケーションだから、そして、この閉ざされた空間に長く居すぎた老人は、あまりにも無垢になってしまっている。邪悪ではあるが、純度が高い。言葉をそのまま受け止めてしまうような、単調さがあった。
僧侶らしい、盲目さがある。良くも悪くも、信仰に生きる者は、マジメなのだよ。
「『ギルガレア』さまああ!!このゾーンめに、お力を与えてくだされえええええ!!」
ヤツのローブがうごめいた。
身が破裂するようにふくらんでいく。虫けらどもの動く、硬いものがこすれ合う音が響いた。こいつの頑丈さは、別に珍しいものじゃない。既知のものだよ。
「『ゴルゴホの蟲使い』と同じネタだろう!!」
「そ、その裏切り者どもの名を、口にするなあああああああああああッッッ!!!』
体内の『寄生虫』が、大神官ゾーンとやらの体を突き破る。虫けらどもで編んだ、まるで昆虫の四肢が、老人の体の奥底から生えていた。
声質も変わっていたよ。虫けらどもに、肺腑や声帯あたりまでもが侵食されたのだろう。
『残忍な異教の戦士どもめ!!罰の蟲の力の前に、ひれ伏せえええええええいいいいいッッッ!!!』
「お互いが邪悪に見える!殺し合うのは、宿命的だというわけだ!!」
嬉しいわけじゃないが、楽しくはある。強い敵は、楽しませてくれるから好きだぞ。ゾーンは虫けらに支配され、虫けらそのものとなった硬質な手足で、連打の速射を繰り出して来やがる。
ヒトの関節では生み出せん速さだな。単調さはあるが、速度とリーチと手数はすさまじいものがあり、なおかつ武術の心得もあるらしく、脚と態勢をいじることで打撃の角度まで豊かに生み出していたよ。
『これぞ!!教団を守り続けた聖なる戦士たちの技よ!!鉄をも歪める威力の嵐!!この猛攻を耐えた者など―――ッ!?』
いい技巧だ。十分に強い。普通の戦士ならば、勝てん。達人と呼ばれる者たちでも、これを受け取られなかったかもしれないが。『パンジャール猟兵団』の団長は、そいつらよりも、はるかに強いのだよ。
竜太刀を振り回して、腕を弾き返しながらも、竜爪も生やして手数を増やしてもいる。さらには、『炎』も使っているぞ。二刀流状態で、斬撃には火焔が帯びさせている。虫けらの集合体であるゾーンの手足を斬って裂き、さらには焼き払うことで、虫けらどもの数を減らしていくわけだ。
『ば、馬鹿な!?これだけの、動きで……わ、私の方が、圧されている……負けているとううのか!?』
素直に認めるべきだったがね。どうせ、この狂信者は止まらない。くぼんだ闇の底で光る眼は、あまりにも血走っている。煽り方は、単純な言葉でいい。
「なんだ。貴様の神が与えてくれる力など、しょせんはこの程度か」
『あああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!?』
激怒した大神官ゾーンとやらの身が、さらにふくらみ、肉体が割れて裂ける。奥底から飛び出してくるのだよ、新たな蟲の腕と脚が。数を増やす。シンプルだが、良い解決策である。
『消えろや、異教徒おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?』
増やした伸ばした無数の腕が、散弾のように襲い掛かる。いい動きだが、『炎』は呼び動作でもあるのだ。揺らぐ熱量が、空気を歪ませて……ドワーフ・スピンのステップが、残像を残して、ヤツの真横まで導いてくれる。
無数の腕が、空振りしていたよ。貫いたのは残像だけ。腕を増やした分、前掛かりの勢いと力が強くなり過ぎて、真横を取ったオレには対処など不可能。老いた目を、こちらに向けて動かしたことは褒めてやれるが。あまりにも、遅かった。




