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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その五十三


 暗がりに向かいながら、その闇を覗き込みながら……『プレイレス』で得た感覚を思い出していたよ。世界の文脈……空間に深く潜在した価値観。そいつを『古王朝のカルト』の祭祀呪術は利用していた。


 歴史や建築物そのものが、ヒトへと与える影響というものが、世界には存在していてね。感じ取れる者もいれば、感じ取れない者もいるが……おおよその場合、その支配力は絶対的だ。


 悪人は暗闇に好む。悪意の自覚が無かったとしても、いつも陰気な場所に隠れていたな。例外は数えるほどしかない。この場所は、深く、暗く、陰気で……複雑な迷宮都市のなかでも、何とも静けさをたたえていて、目立たない。


 この場所の文脈を読解するのであれば、『自覚無き悪意の潜む暗がり』とでも名付けられるかもしれん。


 つまり……。


「ここが、『蟲の教団』の拠点の一つだったのか」


「あら。確かに、そんな雰囲気ですわね」


「レイチェルがそう感じてくれるのならば、おそらく正しいぜ」


『うん。『のろいおい』も、つよくなった!あたってる!』


「ぼ、ボクの『呪い追い』も、そ、そうです。においが……『古く』なりました。とんでもなく古くて、かび臭くて、い、いろいろと混じっています」


「……みんな、すごいね!ミア、呪術とか芸術とか分からないから、ちょっとうらやましいかも」


「その代わり、ミアは真っ直ぐなのです。それが、良いことですわ。世の中の裏側を見えてしまうようになるのは、芸術家や呪術師みたいな者たちの業みたいなものですから。真っ直ぐに瞳こそ、誰よりも素直な解釈を可能とします。大切になさい」


「うん!私、馬鹿だからよく分からなかったけど!大切に、するね!」


「ええ。それもまた、正しい力なのです。さて、悪人を殺しに行きましょう」


「おう!ここだ、降りるぞ!!」


「ラジャー!」


「い、いきまーす!!」


『いってらっしゃーい!!じょうくうで、せんしたちをえんごしながら、まってるねー!!』


 ゼファーの応援を後頭部に当てながら、我々は『蟲の教団』の拠点だった場所へと飛び降りた。古い城塞だが、頑丈だ。職人たちが念入りに積み重ねて組んだものさ。


 しかし、悠久の時間にさらされても、この頑強さを保つということは……。


「こいつは、戦闘用だな。かつては……迷宮都市の外周部だったのかもしれんな」


「大昔からあるし、支配者がたくさん変わった街で、その度に城塞を増やしていったんだよね?」


「ええ。そうみたいですわね。その結果、迷宮のような入り組んだ街並みが誕生した。かつては、ここが街の外周だったのかもしれません。あるいは、戦闘用だというのならば……」


「統治者の住居。『王無き土地』であっても、市庁舎は頑強に作られていることが多い。事実上の王城だ」


「つ、つまり、重要拠点……っ。上空から見ても、その……ぼ、ボクが言うのはおこがましいかもしれないんですが……じ、地味で、さ、冴えない印象でしたが……意外です!」


「『蟲の教団』とやらは、なかなか大物だったらしい。神々を操るような呪術師だか錬金術師の集団であれば、権力も掌握するのかもしれんな」


 どの時代にも邪教はそれなりに栄えるものであった。うんざりするような傾向だが、人類は邪教に救いを見出すこともある。大昔も、そして、今も。


「では、オレに続け。『呪い追い/トラッカー』は、生きている。オレ、ジャン、ミア、レイチェルの隊列で進もう」


「は、はい!嗅覚で、わ、罠も、呪いも……嗅ぎつけますっ!」


「普通の罠は任せてね」


「ウフフ。皆の背中は、しっかりと守って差し上げますわ。この四人で、チームを組むのも、楽しいですわね」


「ああ。ワクワクしながら、悪人をぶっ殺しに行くぞ。世の中のためにならん邪教も一つ、永久に破滅させてやろう」


「そっか。『カール・メアー』の女が、言ってたもんね。『蟲の教団』の『聖典』は、リヒトホーフェンが持っている」


「焼いちまおう。邪教をのさばらせておいて、得られるものなんてない。千年前に滅びるべきだったぜ。『蟲の教団』よ」


 暗がりを進む。『呪いの赤い糸』が空中を漂い、進むべき道を明らかにしてくれるから、迷わない。古い城塞の痕跡を歩き、地下へと潜る階段を見つけたよ。三方向を崩れかけの城塞に遮られているから、肉眼では見つけにくいだろう。


 しかし。


 足元には、白い小石が落ちている。いや、置かれていた。この場所を示すように、色合いと石質の違う小石がある。意図的に設置としか、考えられないな。


「邪教の合図か。夜の暗がりでも、小石の白さを頼れば、見つけられる」


「の、呪いがあるかもしれませんので、ふ、触れないようにしましょう」


「ああ。千年前から続く、現役の邪教だ。呪いなんざ、あちこちにいくらでもあふれていそうだぜ」


「げ、現役、ですか……っ」


「リヒトホーフェン以外にも、いるかもしれんぞ。邪教の信徒どもが、この小石を置いたのだろうからな」


 誰かが伝えた。誰かが守った。それゆえに、千年も保存されていたわけだ。もっと、楽しくて明るいものを遺してくれたなら良かったのだが。まあ、当事者どもは、良かれと思い、邪悪な虫けらどもを伝えたのだろうがね。


 困ったことに。


 悪が自覚を伴うとは限らない。




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