第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その五十
迷宮都市『オルテガ』の城門は強固であり、分厚い。しかし、その入口そのものは小型だ。入口が小さいからこそ、守りやすい。小さな通路を守る分厚い城塞をゼファーの『火球』で撃ち抜こうとしても、破壊が過ぎて通路そのものを崩落させてしまうかもしれない。
それゆえに。
白兵戦で主導権を奪い取る他にないのだ。
「構ええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
城塞の上に並ぶ弓兵どもの隊列が、こちらを目掛けて弓を掲げる。矢が引き絞られていくが、こちらも無策ではないぞ。
「『風』よ!!」
『風』の魔術を呼ぶ。弓兵に向けて打ち上げるような突風が叩きつけられた。連中は相変わらず同じ構え方をしているからな。左腕を内側に向けて力を込める構え、その力を利用するように、同じ向きへと動く『風』を叩き込んだわけだ。
「うああ!?」
「ぐおお!?」
弓兵どもの体勢が一気に崩されて、虚空高くへと矢が呑み込まれて消えた。
「こちらの番だ!撃て!!」
「イエス・サー・ストラウス!!」
「射殺すぞおおおおおおおおおおおお!!」
我々も弓を持っている戦士が少なからずいるからな。撃ち合いでは負けん。『風』の消えた夜空を矢が精密な軌道で飛び抜けて、帝国兵どもが射殺される。
もちろん、『諸刃の戦輪』も投げつけられているし、上空からミアの狙撃が弓兵を仕留めた。
ストラウスの剣鬼としては、これ以上ない、突撃すべきタイミングである!!
加速したまま獣の俊敏さを使い、城塞の内側を沿うように走る階段を駆け上るのだ。帝国兵どもが剣を抜き、オレへと目掛けて走って挑む!!
「通さんぞ!!ここは、死守するのだ!!」
「押し通らせてもらうぞ!!」
斬撃が衝突する。帝国兵の大剣を、竜太刀が一刀のもとに断ち割った!!
「うぐう!?」
「消えろ!!」
帝国兵の腹を返す刀で裂いて、致命傷を刻んでやる。倒れて来たそいつの体を押しのけて、階段から落としてやったよ。残酷をしたいわけじゃなくてね、今すぐ前へと進むべきだからだ。
アタマのすぐ上で、生き残り、体勢を取り戻しつつある弓兵どもが新たな矢を放とうとしている。立ち止まっていれば、いい的にされてしまうというわけだよ。
走りながらも、援護に期待する。
レイチェルは無言のまま応えてくれていた。壁を駆け上る身体能力を発揮して、弓兵どものすぐそばに降り立つ。
「ひ、ひい!?」
「嘘だろ、壁を、越えてくる……ッ!?」
「ウフフ。さあ、少しだけ痛くしてあげます。すぐに、死ぬので、ガマンなさい」
悲鳴と血が夜空に放たれる。
おかげで、オレは目の前にいる白兵戦装備の帝国兵どもとの打ち合いに集中するだけで良かった。
打ち合いと言っても、竜太刀の猛打と数手打ち合える者など、そう出会えるものではない。まして、足場は不十分。命懸けで、オレ目掛けて飛び込む捨て身の一撃でもない限り、アンバランスな足運びでの攻めが、竜太刀の威力に迫ることは不可能なのだよ。
竜太刀に斬られ、帝国兵どもの死体が階段から落ちていく。先行した形になったレイチェルが暴れ、上空からはミアの狙撃、地上からは戦士たちの弓が放たれていく。
なるべく形に、状況はたどり着いた。
「く、くそう……ッ!!」
「あとは、貴様だけだぞ。降伏するか、それとも命を捨てて、オレに挑むか、選ばせてやろう」
「ぬ、ぬう……ッ」
「選べよ。時間は、貴重なんだ」
「わ、分かった!!こ、降参する……っ。降参しよう、このまま、犬死にすることは、私の本意ではない……ほ、捕虜にしてくれ……降参する、こう、さ―――ぐ、うう、ぐふう!?」
「な……ッ!?」
帝国兵の鼻と口から、血が吹き出していた。
「は、腹が……腰が……い、痛い……なんだ、なんだ、これは……ッ」
「『寄生虫』か!!リヒトホーフェンに、『寄生虫』を植え付けられていたな!!」
「そ、そんな、そんなはず……閣下、か、閣下、ひどい……わ、私は、忠実に、任務を全うしたではない、ですか……ぐ、ふあああああああああううう!!?」
帝国兵の胴体が割れるように裂けていた。血と肉が弾け飛び、内部から……おぞましい蟲が姿を現す。まるで、蜘蛛のように長く尖った脚を持ったゲテモノがな。
『ギギギギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイ!!』
「ひ、ふうう、痛い、痛い……痛いいいいいいいいい!?」
「生きているのか、哀れだな」
『ギギギギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイ!!』
蟲が無数の脚を動かして、尖った脚の先端で襲い掛かってくる。
問題はない。
竜太刀で受け止めながら、叩き割ってしまえばいいだけのことだ。
『ぎ、ぎぎいい!?』
「解放してやろう。死ぬがいい!!」
慈悲深いと判断されるべき一刀を放つ。帝国兵の全身を、縦に一刀両断することで、顕在化した『寄生虫』ごと、死を与えてやった。脊柱に寄生する蟲だ。これでならば、即死するだろう。
喜びを浮かべた顔ではないが、真っ二つになった帝国兵の死体は、左右に分かれて転がった。『寄生虫』はまたたく間に泡立ちながら、消滅していく。
倒した。
倒したが、寒気が背中に駆け抜ける。『寄生虫』は、やはり帝国兵どもの中にいるのだ。そして、今まで以上に、素早く……内側から出て来る。違うタイプの『変異』をしていやがった。強さは、ボーゾッドの『変異』した姿の方が強いが、こいつは『早く変異する』という嫌な傾向を持っている。
どれだけの帝国兵の体内に、これがいるのだろうか。そこが問題だ。




