第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その四十九
迷いを消し去ると、我々は戦士の群れとなって南下していく。城塞に開けた穴から次々と戦士が追加されているからな。この場を確保し続ける意味もない。
帝国兵どもはリヒトホーフェンから新規の命令を得られてはいないこともあり、それぞれの部隊が自己判断を強いられている。命令遵守でその場に留まる部隊もあれば、不利を悟り他の部隊と合流を企てる部隊もあるし、こちらの攻めに本能的に反射して突撃を仕掛ける部隊もある。
つまりは、バラバラなんだよ。
戦力は集中させてこそ強い。足並みと戦術の一致していない敵部隊を、オレとレイチェルという白兵戦最強の戦士がいる部隊で蹴散らしてやろうというわけだ!!
南に進みながら、ゼファーが空中から見つけてくれた敵部隊へと襲い掛かる!!
迷宮都市の狭い通路は、オレたちには有利となった。少数対少数で衝突し合えば、実力の差が戦果に反映されていくからな。敵部隊との遭遇の度に、帝国兵どもの死体の群れが作られていく。
むろん。敵も無能というわけではないからな。こちらの侵攻を悟った見張り塔の帝国兵が叫び、オレたちに対応するために一か所に集合するときもある。それをマトモに突破することは、困難であったかもしれないが、帝国兵どもはその戦術の欠陥を自らの死で理解することになった。
『GHAAAAOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
ゼファーの歌が夜空に響いて、街路が集結することで作られた小さな広場にひしめくように集まっていた帝国兵どもを、丸ごと始末していた。『火球』の起こした爆炎に、連中は焼き払われながら裂かれてしまう。
それを目撃した見張り塔の敵が叫んでいた。
「密集するんじゃないいいいいいいいいい!!りゅ、竜に、上空から焼き払われてしまうぞおおおおおおおおお―――ぐふう!?」
ミアの狙撃が帝国兵を始末していた。判断力のある敵は厄介だ。統率されてしまえば、こちらの被害が大きくなってしまうのだから。敵を小分けにしたまま、片っ端から始末する。それが、オレたちのすべきことだ。
南下する。
遭遇する敵を撃破しながら。
しばらくそんな殺りくに興じていると、敵の動きに明白な変化が現れていた。
―――てきへいが、ひがしにむかって、いどうしているよ!
ゼファーの視覚と一つになり、その様子を上空から舐め回すように確認していく。帝国兵どもに指示が与えられたわけではない。西側の城塞を『ルファード』軍が占拠し始めたことが大きかった。
城塞の穴から侵入した部隊が、ついに城塞の上部へと到達したのだよ。城塞の上からロープを投げ降ろし、城塞の外から次から次にこちらの戦士がよじ登って行く。包囲された北西部の帝国兵どもは、それを目撃しながらも、指をくわえて見ている他にない。
北西部の自軍の崩壊を目の当たりにして、帝国兵どもは不利を察した。本能的な選択でもあるだろうし、戦術的な自己判断でもある。
「南周りで東側に逃げて、反撃の機会を待とうとしている」
「追い詰めるのが早過ぎたでしょうか?」
「それも、あるな。リヒトホーフェンが無策過ぎた。追い詰めながら、もう少し蹴散らしてやりたかったところだが……」
「では、南西の城門を奪い取り、戦士の追加を試してみるのは?」
「そうだな。西の敵戦力が、逃げているのであれば……」
「手薄となっていますわ。城門そのものには兵が張り付いているでしょうけれど、そこにたどり着くまでまでのルートは」
「狙うとしよう。ゼファー、ガンダラに指示を出せ!南西の城門を、外と内側から同時に攻めて奪い取ると!!」
―――らじゃー!!
「連絡は、これで行く!!おい、脚に自信がある者は、オレたちと共に駆け抜けるぞ!!その他は、ここで陣取れ!!『仲間』との合流を待ち、敵が東に逃げるのを遮る壁となれ!!」
「イエス・サー・ストラウス!!」
「オレは貴方と共に駆け抜けます!!」
「『風の旅団』は、貴方と共に!!」
「ついて来い!!敵には構わず、ひたすら南東へと向かう!!レイチェル、壁の上を並走しながら、敵の動きを牽制してくれ!!」
「了解ですわ、リングマスター!」
戦況は刻々と変わるものでね。可能な限り、状況に応じて対処するべきではある。言うは易く行うは難し、その典型でもあるが……それでも、指揮官ならば理想を追求するべきだ。理想に近づくほどに、我々は『仲間』を死なせずに済む。
どうしても。
戦となれば、『仲間』も死ぬのだからな。今この瞬間も、次から次に大切な戦友たちの命が戦場に散っているのだ。少しでも、その数を減らす。
逃げる敵と、何度か交差したが……レイチェルの『諸刃の戦輪』による牽制攻撃と、南に向かいたい我々と、東に逃げたい連中の思惑の差により、衝突が回避されることもあった。移動はスムーズに行われたというわけだよ。
我々は、南側の城塞の一部にある、強固な城門の裏側へとたどり着いた。この場の敵兵は、まだ逃げ出してはいない。責任感がある者こそが、門の番人の役目を与えられるものだ。敵も理解している。今ここが解き放たれたなら、帝国軍が破滅的な被害を受けるのだと。
「敵を、迎え撃て!!亜人種どもに、奪わせるなああああああ!!」
「奪うぞ!!ここを、奪い取れば!!街の西は、一気に落とせる!!」




