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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その四十七


 悔しそうに死んだ。それでいい。無念の重さが、背負い切れなかった『正義』に捧げた命の大きさを語る。アーレスも喜んでいるぞ。斬るべきに足る、男だったとな。


「しょ、少尉いいいいいいい!!」


「よくも、少尉を―――ぐはう!!」


 突きで刺し殺し、続けざまのドワーフ・スピンの技巧で、回転する斬撃を用いた。死を与える。容赦のない残酷さで、次から次に、視界へといる帝国兵どもの全てを、竜の『牙』の与えてくれる暴力のままに。威風は血の炸裂の連鎖を描いた。


「す、すご……ッ」


 すぐさま戦いは終わった。夏の夜風よりも熱い返り血をぬぐうこともないまま、戦慄に凍えた顔となった若者へと近づいていく。槍に血がついていたよ。見てはいなかったが、彼も槍働きを成し遂げたようだ。


「良い仕事をしたようだ」


「は、はいっ!!」


「もう一仕事、頼むぞ。『オルテガ・ガラス』の職人街の長に、会いたい」


「こ、こっちっす!!どうぞ、どうぞ!!ストラウス卿!!貴方に、会いたがっているはずですよ!!」


「だといいが」


 返り血まみれで、『牙』を歓喜に鳴らす竜太刀。そんな男の訪問を歓迎してくれるような剛毅な男は、大陸でも希少だろうよ。客観視というものを、いい年こいた男はやれるもんだ。


 小さな、しかし、戦術的にはかなり重要な勝利に湧く広場を通り、若者はオレをその家に案内してくれる。


 二階建ての家でね。ちょうど、二階の窓から、こちらを見下ろす影があった。小さな女の子だ。セシルの年ごろだろうか……あんな年齢の子を見てしまうと、ついついセシルのことが心に浮かぶよ。


 血まみれの大男が、少しでも怖くないように。


 彼女のために、微笑みを使う。


 戦場で恐れられるべき貌から、少しは遠くなっていれば良いのだがね。


 少女の影が、窓の奥へとゆっくりと消えた。あの子の『家族』が、手を引いて部屋の奥へと隠したのだろう。その方がいい。戦場は、とても残酷だから。可能な限り、あんな子は近づくべきじゃないんだよ。


「親方、親方!開けてくれって!!あの英雄が、とんでもなく強い、ソルジェ・ストラウス卿がやって来たんすよ!!マジで、これ、ほんと、一大事なことっすから!!」


 ドンドンとドアを叩く若者に、やがて親方とやらが応えた。鍵を開ける音と、つっかえ棒を取り去る音がしたあとで、額に脂汗を浮かばせた中年男が現れる。


「あんたが、親方か?」


「そうだ。その、ソルジェ・ストラウス卿。ようこそ、『オルテガ』に……」


「緊張しないでくれ。これでも、解放者のつもりだ」


「あ、ああ。そうだろうとも……二階の、窓から……戦いを、見ていた」


「帝国の敵だということは、熾烈なまでに表現してやったはずだぞ」


「それは、その通りだな。まさに、帝国の敵……」


「それに!オレたちの仲間っすよ!!」


「……お前は、黙っていろ、ポン」


「は、はいっす、親方……じゃ、じゃあ、その、周りの職人たちにも、声をかけてくるっすよ。親方も、異論はないはず。『王無き土地』だ。誰と戦うかは、自分で決められるはずっすから」


「……止めはしない。戦いに参加したい職人がいれば、その者の選択に任せる」


「うっす!帝国兵どもの死体はたくさんだ!武器は、こいつらから奪えばいいっすからねえ。若手どもに、声、かけてまくるぜ!!」


 若者は槍をかかげながら陽気な歩調で走り去った。良い勧誘をしてくれそうだ。やや軽薄さがあるのは課題だが、性格だろう。言ってもすぐには直らんものだ。


「……さてと。親方。オレは、あんたの立場にも期待している。『王無き土地』の伝統も尊いものだが、今ここで確実に勝利しておかなければ、街中での長い闘争になるかもしれん。それは、誰もが望んでいないはずだ。とくに、この街で暮らす者たちはな」


「その通りだ。だが……」


「戦うか、傍観するか。どちらでもいい。選べ」


「恫喝されているような気になるが……」


「選べ。オレが偉そうなのは、しょうがない。戦闘で気が立っているし、ちょっとでも『仲間』や君ら『オルテガ』の市民を、死なせたくないんだよ。オレは、帝国の裏切りで、母親も妹も失った。非戦闘員を、死なせたくないのは本望だ」


「……正直、家族のそばを離れるのが、怖い。弟が、前の帝国の襲撃で、帝国兵に殺されてしまった……弟の娘も、預かっている」


「……そうか」


 あの少女は……彼の姪かもしれないな。


「『家族』を守る選択も、重要だ。臆したとは、言わん」


「……いいや。それは、やはり、臆病なのだろう。弟は、立派に戦ったんだ。オレも、その番なんだと思う」


「共に戦ってくれるか?」


「ああ。ストラウス卿ほどの、強さはないが……ガタイはある。職人たちは、皆、力自慢だし、街にも詳しい。十分な働きを、するだろう。あのポンまで……戦えているのなら」


「説得をしてくれるか。そして、『ルファード』軍と合流してくれ」


「やってみよう。その……勝てる、だろうか?」


「勝てるさ」


「ゼベダイ・ジスという男は、とんでもないバケモノだったんだ」


「オレの方が、もっとバケモノだから安心しろ。出会えるその瞬間が、楽しみだよ」


「……な、なるほど。これが、『プレイレス』を解放した英雄殿か……弟の、仇を、取ってくれそうだ」


「取ってやろう。少女の願いには、応えたい。我が妹、セシル・ストラウスの魂に誓って。この街の敵を、殺す」




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