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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その三十六



 ―――真実なんて戦場で伝わるものじゃない、敵も味方も虚構をぶつけ合う場所だ。


 その混沌とした場所のなかで、信じられるものは少ない。


 帝国兵どもが信じられるものの一つは、戦友たちの実体験だった。


 自分たちを道具として見ていない貴族よりも、戦友の言葉を信じるのは正しい……。




 ―――帝国軍は全てを敵のせいにしたがった、『寄生虫』もソルジェのせいだと。


 情報戦としては非常に妥当なことであり、嘘も戦術に含まれる。


 それでも嘘の力は諸刃であって、正義と異なり真実に砕かれることがあった。


 リヒトホーフェンは間違っていたよ、兵士の口から告げられる真実は止まらない……。




「『ルファード』で、多くの兵士が逃げたんだ。あれは、敵前逃亡というよりも、リヒトホーフェン伯爵に……ついていけないと感じてだった……」


「逃亡として、断罪される……」


「それを覚悟してでも、ベテラン兵士たちは……伯爵を嫌ったんだよ」


「…………オレたちは……ここに、家族もいる……弟は、ジス大尉と共に……得体の知れない任務に就いている…………」




 ―――闇を見上げる帝国兵どもの数は、多かった。


 彼らにも自分自身で信じた正義や野心が確かにあるけれど、今ここにそれはない。


 帝国軍は我々の絶対の敵であり、侵略者には他ならないものの。


 一種の誇り高さを、彼らも持ってはいたんだよ……。




 ―――帝国の子供たちは、帝国兵に憧れた。


 勇猛果敢な勝利の使者であり、帝国を繁栄に導く『力』そのものだった。


 正しさそのものでもあるよ、勝利というものは正義を保証する絶対性だから。


 だが、今この場にいる帝国兵らには自覚を得ることが出来なかった……。




「オレたちは、何のために……帝国のために、帝国軍のために……戦っているはずなのに。そのために、こんな異郷の果てまでやって来たというのに…………実感がない。オレたちは、リヒトホーフェンの野郎なんかの、手駒じゃねえんだぞ!!」


「よせ、戦の最中だ……敵が、目の前に迫っているのに……」


「……そうだ。そうだが……しかし……」


「しかも、強敵なんだ。ソルジェ・ストラウスの率いた軍が、負けたことはないとか……それは言い過ぎなのかもしれないが……十大遠征師団を、ことごとく…………」




 ―――真実は大きくて、ヒトの知性はそれに頼りたがる。


 リヒトホーフェンの与えた虚構を塗りつぶす、いくつかの真実があった。


 ソルジェは『寄生虫』と戦っていたし、虫けらに戦士が喰われることを嫌悪する。


 戦士への敬意を持つからであり、それは帝国兵に対してさえ同じだった……。




 ―――戦闘狂でもあるけれど、戦士への敬意を誰よりも持つのが竜騎士だ。


 戦場で死んで歌になれと、母から教わるような猛者たちだからね。


 戦士の死に方には大きなこだわりがあり、虫けらに喰わせたい死者はいない。


 義憤という原始的な怒りがあって、それは敵と味方の垣根も超える……。




「……羨ましい……ッ」




 ―――矢の撃ち合いの最中に、帝国兵の誰かが口にしてしまう。


 吐き出したい言葉ではないだろう、本望ではなかったはずだよ。


 それでも心からの感情は、口の堰を越えてしまうことだってあるものさ。


 本心が漏れていた、目の前に並ぶ混沌の秩序をにらみつけながら……。




 ―――『ルファード』軍の誰しもが、心地良さを持っている。


 この殺し合いが行われる修羅の場所で、心が大きく満たされていた。


 勝利に酔いしれているだけじゃなく、この戦いそのものを楽しんでいるからね。


 ヒトは戦いを、愛せる獣でもあるんだよ……。




 ―――ソルジェみたいな天然の戦闘狂もいるけれど、皆がそうじゃない。


 ちゃんと条件がそこにはあって、戦士が一体となっていると安心する。


 自信に満ちていると、義務のために働く喜びが生まれ。


 獲られる未来が明白であり正当だと信じられたなら、プライドが満たされた……。




 ―――ソルジェを中心にして作った軍勢には、それがあったよ。


 戦士たちはすべきことを果たそうと、混沌のなかに調和をもたらす。


 誰もが確信を得て、命懸けの戦いのなかで自分の人生を表現していた。


 この戦いは彼らにとって、とても自主的なものであったんだ……。




 ―――それが帝国兵には羨ましくて、悔しかった。


 自分たちとはあまりにも異なる精神を、『ルファード』軍は見せているから。


 本来の帝国軍が帯びるべき力だと、その帝国兵は考えていたのだろう。


 チグハグに裂かれてしまっている、帝国軍の姿を見ると……。




「オレたちは、ファリス帝国軍なんだぞ!!しっかりしろ!!迷うな、迷うな!!指揮系統は、いつだって絶対だ!!そうすることで、『オルテガ』を奪った!!『ルファード』だって奪っていた!!」


「だ、だが……だが……奪われ返してしまった……オレたちは……それに、以前とは違うんだ。『オルテガ』を陥落させた、ゼベダイ・ジス大尉はいない……っ」


「しかも、あちらも……前と違う……ッ」


「竜が……竜騎士が……魔王ソルジェ・ストラウスが……いやがるんだ……ッ」




 ―――励ましの激を、打ち破るように。


 原始的な強者の歌が、迷宮都市の街並みにこだましていく。


 竜の歌が、巨狼の歌が。


 帝国兵どもは、その歌に身を震わせながら自身の強さを疑問視した……。




「……オレたちは、きっと……リヒトホーフェンの下じゃ、力を発揮しきれないぞ」




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