表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3976/5096

第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その三十五



 ―――戦いの始まりを告げたのは、ルチア・クローナーの矢。


 迷宮都市の北に陣取り、長く伸びる矢を星空に並べた。


 海からの風の乗った矢に貫かれ、帝国兵の一人が射殺される。


 反撃が直ちに起きるが、エルフの矢の距離には敵わない……。




「風を頼る!環境を上手く使いこなすんだ!敵の撃ち方は、限定的!夜に隠れて動ける私たちの方が、強い!!力を、証明するんだ!!」




 ―――帝国兵どもとの矢の応酬になるが、エルフたちは当たり前のように勝利する。


 弓の専門家でもあるし、風を読む戦いにも慣れ始めていた。


 帝国兵の矢の距離も、彼らは完全に把握していく。


 撃たれず撃てる絶好の間合いに出入りしながら、城塞の敵影を次々と沈める……。




 ―――東へと回り込んだジャンに、注目が集まっていた。


 大人しい性格の男ではあるけれど、戦場では誰よりも勇敢で目立つ。


 とくに『巨狼』の姿は、帝国兵どもに恐怖と警戒心を強めさせた。


 矢の雨を放って追い払おうとするものの、ジャンの加速に幻惑される……。




「なんて、速さだ!?」


「巨大なのに、あんな動きを……ッ」


「ば、バケモノめ……っ」


「ソルジェ・ストラウスは、竜以外にも、あんなものを飼っているのか!!」




 ―――記憶に刻み付けられた恐怖は、行動方針を強めてしまう。


 狂ったように矢を放つが、全ては『巨狼』の影に刺さった。


 ジャンも成長し続けているんだよ、矢の雨を避ける術は理解している。


 目立つことが『囮』としての使命だとも理解して、敵の視界に留まった……。




 ―――狼に怯える敵は、統制は取れた一斉射を行うものの無益に終わる……。


 誰をも傷つけることのないままに、荒野の土へと突き刺さる。


 その様子を確認しながら、ジャンは大きな狼の頭をうなずかせた。


 作戦をしっかりと確認し、自信に満ちた顔でつぶやいた……。




『も、もっと、目立たないと……っ。ほ、吠えた、方が、いいかな……?ほ、吠えてみよう!!そ、損にはならないはずだから……っ』




 ―――夜に響く狼の遠吠えは、ヒトの本能をくすぐった。


 死の危険を伴う響きには、誰しもが注意を引かれてしまう。


 原始性を帯びた、古い恐怖がその声には宿っていることまではジャンは知らない。


 気づいてはいないけれど、だからと言って使いこなせないはずもないんだよ……。




 ―――原始性の良いところは、とてもシンプルで迷いも思考も必要がないところさ。


 『巨狼』の放つ死の咆哮は、竜のそれにとてもよく似ている。


 敵の方が、その事実には敏感に気づいてしまうだろう。


 ジャンを知る者は、この死の歌を素直に感じ取ることは出来ないからね……。




 ―――人の良さがそこにはあるから、死の歌の本質を知覚するのを妨げる。


 これはとても恐ろしい力だけど、ボクたちこそが気づきにくい。


 普遍的な圧を持った、狼の死の歌を浴びて帝国兵は恐怖に支配される。


 牙に噛まれて殺される自分の姿が心に浮かび、闇雲に矢を放たせた……。




 ―――ジャンが名付けた、ソルジェの死者の力である『歌』属性。


 ジャンがその力をそう呼ぶのは、とても本能的だった。


 自らの『巨狼』の咆哮が、自覚無きままに示していたんだよ。


 これらはとても古い原始の力、生命の本質めいたところの領域の力だと……。




「……森を、感じるなあ。まるで、アレは……森そのものだ」




 ―――ケットシーの狩人は復讐の矢を放ちながら、敵を引き付ける狼を見ていた。


 連想したのは深い森、狩人たちの仕事場だった。


 それは実に正しい認識で、彼はやはり優れた職業人だったんだよ。


 森の深みから響く死の気配があり、それは多くの者を怯えさせる……。




「……焦るはずだな。必死になって、盲目的になる……罠にかけるための集中力があるはずだよ……鏑矢を、使うタイミングだね」




 ―――意味のない信号を、ケットシーの狩人は戦場に投げつける。


 鏑矢の歌が夜空を駆けて、音を響かせていった。


 帝国兵どもは空に流れる音に意味を探し、警戒を深める。


 こちらの作戦が動いているのかと、闇のなかに視線を走らせていく……。




「敵がいるのか!?」


「誰に、合図をしたんだっ!?」


「いるのか……近くに、いるのか!?」


「ちくしょう!こういうときに、どうしてゼベダイ・ジス大尉はいない!?」




 ―――音に恐怖をあおられて、帝国兵どもは不在の戦士に不満を持った。


 ゼベダイ・ジスは連中のなかで、あきらかに最強の軍人だからね。


 リヒトホーフェンの守護者であるべき男が、今ここにいない。


 それの異常性に、彼らは納得がいかなった……。




「もしかして……リヒトホーフェン伯爵は……このまま、『オルテガ』を我々ごと放棄する気ではないのか!?」


「自分だけ、本来の領地に逃げ帰る気かもしれない……」


「馬鹿な、ジス大尉は……我々を見捨てるような方ではないぞ!?」


「し、しかし……伯爵に忠実な方だ。誰よりも、伯爵に……」




 ―――疑念が募る、帝国軍として考えるのならば『オルテガ』を死守すべきだ。


 大きな利益をもたらす貿易の道の中核、守らねばならない土地。


 『プレイレス』を『自由同盟』が解放した今、『オルテガ』の価値は大きい。


 それを死守するためにこそ、帝国軍はここで戦っているのだが……。




「リヒトホーフェン伯爵は、何を考えているのだ……ッ」


「ジス大尉や、戦力を……貴重な戦力を、どうして、どことも分からぬ場所に派遣しているんだよ……」


「逃げ道を、確保するためでは?ゼベダイ・ジス大尉は……オレたち兵士よりも、帝国軍よりも……伯爵自身への忠誠で戦っている方なんだ……」


「…………そ、それに……リヒトホーフェン伯爵は……」




 ―――誰もが他者の言葉を批評して、その真偽を査定していく。


 真実を見つけたがっているが、誰もが全てを知っているわけではない。


 見聞きしたのは現実の一側面でしかないが、それでも評判は成り立った。


 リヒトホーフェン伯爵に報いが下される、彼の裏切りを兵士は忘れない……。




「士官たちに、む、蟲を植え付けていたんだ。し、死体たちにもだ……ッ」


「それは、ソルジェ・ストラウスの罠だと、説明されただろう!?」


「敵の罠だ……敵が、我々に……ソルジェ・ストラウスこそが、蟲を植え付けて……」


「…………オレは、見たよ。あの竜騎士は、蟲と死体のバケモノを、でかい蠅を、倒してくれたんだ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ