第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その三十三
ミーティングが進むと同時に、やや間延びしていた感もあった『ルファード』軍が集まりつつある。この集団の弱点の一つは、複雑な構成と言えた。『カール・メアー』的な言い回しを使えば、『混沌』としているのだろうよ。
進軍のペースが不一致となってしまう。そもそも進軍の訓練をしてもいないからな。各自の好きな速度で歩いた結果が、こうだった。
隊列の出来で軍隊の強さを見抜くこともやれる。その考え方で言えば、『ルファード』軍は本当に『寄せ集め』で、行進の完成度はヒドイものだったよ。だが、弱点や欠陥というものは、それを解決することが可能だったら?補い得る利点があったら?
大きな強さに変貌してくれることもある。
不揃いなペースではあったが、得られたものは、体力の疲弊の減少。自分なりのペースで移動することを許されたから、疲弊が抑制されたというわけだよ。
そして、もう一つある。
コミュニケーションだ。
緩い進軍だからこそ、会話も交流も自由に行えた点は大きい。『ルファード』での二連続の戦闘で、所属を越えた友情を作り上げている者たちも少なからずいる。一緒に仕事をするということは、最高の交流だからね。命を預け合う戦友は、仲良しになるものだ。
所属の枠を超えることが、我々の『強さ』となる。種族の違いや所属の違いが、差をもたらしているが、それらを越えて協力が成せれば?……単一の集団よりも、強い力が発揮できるのは当然のことだった。
オレとジャン、魔眼と嗅覚。それぞれ違う能力の持ち主だからこそ、大きく補い合えているじゃないか。
器用なドワーフたちは馬車のなかでも矢を作ってくれていたし、これからの作戦ではドワーフの職人が遺した城塞の『弱点』を見抜く。仕込まれた鋼と対話する能力を使うことで、それを成し遂げるのだ。
エルフたちは聴覚を使い、この暗がりでも最高の偵察兵として、敵の接近を監視する。巨人族はタフでね、装備品や物資の運搬にも力を貸してくれていた。ケットシーの猟師は、何かしらの策を、今も考えているのかもしれないし、周りに若手の射手が集まっていた。射撃のコツを伝授しているのかもな。
『ルファード』の商人たちは、金と商いの力を使い、敵の増援を減らしている。海を並走するようにゾロ島の漁師たちが船を走らせてくれたおかげで、敵は警戒しなければならない範囲が増えた。それだけでも、攻めも守りも弱くしている。もちろん、漁船で物資も運んでくれているから、運搬の面でも大きな力だったよ。
実に。
この混沌とした力は、有利なものじゃないか?
……無様なまでに乱れた進軍ではあったがね、これほど個性的な者たちが、互いにコミュニケーションを取れたという、素晴らしい美点もあったのだ。
という、長ったらしい演説を、ミーティング後の休息がてら、集結した『ルファード』軍にしてみたわけだよ。
ああ。それなりにウケは良かった。戦意の向上にはつながったはずだぜ。熱弁を振るっていたから、少しばかり汗をかいてしまった。
「……ふう。『カール・メアー』の彼女に、感謝しなくてはな。『混沌』という言葉は、我々に向いていた」
「ウフフ。相変わらずの演説上手でしたよ、リングマスター」
海から戻ったレイチェルに褒められる。調子に乗っておくことを選んだ。ニンマリとした笑みを、星空に向けて浮かべる。
「ご褒美に、フルーツたっぷりのジュースをあげましょう。先ほど、ミアにあげたら大喜びしていました」
「そいつは、喜ぶに決まっているよ。中海で取れるフルーツは、美味いからね」
「ええ。多くの果実を混ぜて作った、混沌の飲み物ですわ」
「そいつは、実にオレたちと合うよ」
「演説を聞きながら、作ってもらったのですよ。普段は酒場で働いている若者に、インスピレーションを与えられたようです。粗雑さもありますが、複雑に融け合う味を舌で探す楽しみもあります。アルコールが入っていないのは残念ですが、水分補給にどうぞ」
「勝利の美酒に、溺れたくもあるが……今夜は、こいつを楽しむさ」
甘ったるい、フルーツたちの集合が作ったジュースを飲み込んだ。果肉の粒々もドロリとあってね。それが、戦場で作ったものらしい雑味でもあり、ストラウスの剣鬼には居心地の良さとなる。
果肉の違いを、舌と歯で噛みついて調べる面白味もあった。酸味と甘味と、ザラザラとトロトロと、味と香りと食感を、追いかけて行くうちに新たな組み合わせに出会える楽しみがあったよ。
「雑多とした雰囲気が、実に我々らしくていいものだ」
「ですわね。それに、この……リラックスした雰囲気も、丁度良いものです」
「戦場に悲壮な顔して向かう方が、間違いだからね。戦士として、殺し合うことは、喜びだ。もちろん、誰もがそうではないが……今の我々は、解放者だよ。戦いにおいて、大きな歓喜を帯びているべき立場さ。悲惨な敵への、あてつけにもなる」
「楽しそうな人々の放つ陽気さに惹かれて、陰気で暗い場所から出て来た者を描いた童話を、息子に読んだことがあります。暗がりにいる者には、その明るい輝きは、とても魅力的なものです。『オルテガ』の市民たちに、この雑多な者たちが放つ力を、届けるべきですね。そうすれば……」
「そうすれば?」
「より多くの協力を、リングマスターは引き出せるでしょう」
「そうかな?」
「この私が言っているのですから、そうなのですよ」
レイチェル・ミルラがそうだと言うのならば、信じるべきだった。酒も入っていないのに、体の奥で何かしらの熱が生まれる。
牙を剥いて、笑った。
作戦会議も演説も休息も、水分補給も、全てを満たしている。あとは、成すべきことをすべきだ。周りに集まる戦士たちに見つめられながら、竜太刀を抜いた。
「行くぞッッッ!!!戦の時間だッッッ!!!全員、歌ええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」




