第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その三十二
オレとゼファーの魔眼による偵察と、ジャンの嗅覚による探知……それらの力を組み合わせれば、かなり高度な偵察が行えるのは言うまでもない。
ミアには、地図に描いてもらっていたよ。襲撃前と襲撃後による、敵の防衛体制の変化をな。
「『オルテガ』の帝国兵の練度は、それなりに高い。訓練教官の腕は良いが、ワンパターンな悪癖を持っている。二度に渡る『ルファード』での戦で、指揮官を失い、ゼベダイ・ジスらが南に向かった……柔軟な発想をする指揮系統は、足りていない」
「つまり!……『ルファード』軍が到着すると、今回と同じ動きで対応するしかないっぽいね!」
「な、なるほど。じゅ、柔軟な指示を出せる兵士が、いなくなっているから。く、訓練通りの決まったパターンでしか、動けないんだね……っ」
「絶対じゃないけどねー。でも、私の勘だと、そうなると思う。バラバラに動いてくれたら、楽に倒せるけれどね……」
『うんうん。あつまらなかったら、よわよわだもんね!』
「そういうコト!」
どんどん賢くなってくれる我が妹のアタマを、思い切りナデナデしてやったよ。
「えへへ!」
『うらやまー』
「じゃあ、ゼファーは私がナデナデ!」
『きゃははは!』
首の付け根をナデナデされて、ゼファーは喜んでいた。偵察の時間を締めくくるには、少しばかり可愛かったが……問題はない。愛らしい妹と仔竜を見ることは、ガルーナの竜騎士の心を癒してくれるからね。
偵察を終えた我々は、『ルファード』軍の元へと向かう。
先頭を歩く集団は、かなり『オルテガ』に近づいていた。そこに着陸すると、スキンヘッドの副官殿が、ゆっくりとだが、大きな歩幅を使い接近してくれる。
「お疲れ様でした、団長、ミア、ゼファー、ジャン。収穫は、あったようですな」
「おう。当然だ。それなりの冒険になった」
「戦闘もしたようですな」
「ああ。まあ、それについて報告したい。『ルファード』軍も、動きを止めて休ませておくべき距離だろう」
「拠点を構築するには、悪くない距離です。ここで、皆を休ませたあと……『オルテガ』攻略を始めるしましょう。幹部たちを、集めますので、団長たちはしばらくお待ちください。体力を回復させるのも、仕事ですからな」
「働き過ぎている自覚はあるぜ。果物でも、かじりながら……皆が集まるのを待つとしよう」
「賛成!夜食タイムには早いけど、それなりに仕事したもんね!」
そう。我々は、相変わらずの働き者だったよ。
しばらくの休息のあとで、ガンダラはメダルドとルチア、そしてギムリを連れて戻った。
「……よう、ストラウス兄妹。無事だったか」
「もちろんだ」
「おっちゃんも、元気そうで良かったよ」
「……錬金薬ガンガン飲んでるからな。しばらくは、もちそうだ」
「タフなおっさんだよな。毒に薬に『寄生虫』にと……」
「……言うなよ、巨人族の青年傭兵。あまり考えちまうと、ストレスになっちまう」
「そうかい。そう、だろうな。良くないことを、見つめ過ぎないというのも、人生のコツなのかもしれない……」
「じゃあ。ミーティングを始めましょう。ストラウス卿たちの、お土産話も聞きたい」
「任せろ。収穫はあった」
多くのことを語ったよ。完成した破城槌には、ギムリの部下たちが回収することになった。巨人族の傭兵部隊には、ハリートビー廃鉱から救出したドワーフたちも同行する。彼らが城塞突破部隊というわけだ。
「任せておいてくれ、ストラウス卿。城塞をぶち破るよ。そこから先の連携は、ガンダラ先輩から教え込まれて、空でも言える」
「頼むぜ。今夜の戦の肝になるからな」
尼僧たちの襲撃も伝える。ガンダラは真っ先に帝国兵どもへの『寄生虫』感染を指摘してくれた。現場で見たオレたちの主観と、ガンダラの客観的な見解が一致することは、確信を深めてくれる。
「『ブランガ』の追加も到着しています。『オルテガ』突入する部隊には、持たせておきましょう」
「『風』の呪毒も有効。背後、背骨周りを攻めろとも、伝えておいてくれ。『寄生虫』対策の基礎だ」
「何度か、おぞましい『寄生虫』が『変異』させた敵を見ています。いくらか、驚かずに戦えるでしょうな」
「慣れって、恐ろしい。でも、有効だ。私、またあの巨蠅が出ても、驚きはしないわ」
「それは良いことですな。しかし、『それ以上のバケモノ』が現れることも、考えていてください。親玉のリヒトホーフェンが、いるのですから」
「……巨蠅以上かい。たまらんなあ……だが、想像していれば、備えやすいか」
情報共有は深まった。南東の地下に、大型の避難所があることも伝えたあとで、つい先ほどの偵察で得た、敵の防衛体制の傾向も伝える。
賢いガンダラが、オレたちの要望をあっという間にまとめて、うなずく他にない『攻撃』の連携を組み立ててくれた。
「この戦術の通りに動けば、より敵を分散することが可能となります。あとは、城塞を突破して、内部へと侵入する速度が決め手……敵を分断することがやれたならば、せん滅まで遠からず。課題は……敵の『増援』でしょうな」
「……そいつは、オレから良い報告があるぜ。『黒羊の旅団』の一部を、雇えた」
「え?敵の……雇っていた傭兵団を!?」
「……直接ではないがね。ダミー会社を作り、異常に割りの良い仕事を用意した。商品の護衛だ。まあ、その木箱のなかはガラクタなんだが……連中は、気づいているのか、気づいていないのかは分からんが、喜んで受けてくれたそうだぞ」
「あちらには守銭奴の幹部がいるらしいからな。おかげで、敵の『おかわり』は減るというわけだ!よくやってくれたな、メダルド!」
「……まあ、『ルファード』商人の腕を舐めるなよってことで。あとは、ストラウス卿のヨメも手腕を発揮していたようだ」
「ロロカか」
「……傭兵を雇い、価格を瞬間的に跳ね上げさせていたらしいよ。戦場用ではなく、商品運搬の護衛として雇った。帝国軍と縁がある傭兵たちでさえ、その政治的しがらみのない仕事なら『金に食いつき受けられる』。結果として、傭兵不足が起き、傭兵を雇うための費用が上がれば、リヒトホーフェンが裕福であったとしても、成立する契約の数は減る……シャーネル副社長殿と協調した動きがやれて、良かったぜ」
「さすがは、オレのロロカだよ」
「はあ。猟兵って、やっぱりスゴイんだ。戦いには、賢さもいる……か」
「大丈夫だよ、ルチア。自分の賢さが足りないときは、賢い仲間を頼ればいいんだから!」
「そう、ね。自分のアタマだけで勝負しないようにする。世間知らずで、未熟者だってことは、色々と分かったから」




