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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その三十一


 二人の尼僧を修道院に休ませると、すぐにその場を出ることにしたよ。戦いが迫っているからでもあり、ここの人々を怯えさせたくもないからだ。誰もが、警戒している。当然ではあるが、戦の前後の戦士に遭遇することは、危険だった。


 監視役だと言わんばかりに、修道院の長と思しき老女がオレの背後をついて歩いていたよ。ゼファーのもとに戻っても、まだ彼女はオレを見つめていた。振り返り、あいさつだけをしておこう。


「ではな。彼女たちを、頼む」


「……ええ。我々の仲間なので……ですが……他の者は……?」


「帝国兵に殺された」


「な、なんと!?」


「……正確には、リヒトホーフェンに操られた帝国兵だろう。彼らも、本意ではなかっただろうが……」


「どういう状況なのです?帝国は、イース教を保護しているはずなのに……」


「リヒトホーフェンという邪悪な伯爵が、全ての元凶だ。オレは、ヤツを排除する。君たちは、危険がないように振る舞ってくれ。無事を、祈る。さらばだ!」


「……っ!!」


『さよーならー』


 羽ばたきの風を老女にぶつけないようにして、ゼファーは空へと戻る。


「……いいヒトたちだね。あの女以外は」


 まだお怒りモードのミアは、お兄ちゃんの脚の間でほっぺたをふくらませていたよ。コミュニケーションを取るために、猫耳の生えた妹の黒髪のあいだへと、あごをやさしく乗せてみる。


 十秒ほどのノーリアクションの時間が過ぎると、ぐりぐりとアタマを動かしてくれたな。癒されるし、きっと、ミアも気晴らしになるのではないだろうかね。兄妹愛を感じられる瞬間は、いきどおりを和らげる力ぐらいはあると信じている。


『『どーじぇ』、じゃんが、こっちにきてるよー!』


 コミュニケーションを楽しむストラウス兄妹の視線が、南へと同時に動いた。ジャンは仕事を終えたらしく、とんでもない勢いでオレたちのいる方角へと走っている。


「あの女の仲間、近くにいたのかな」


「そうかもしれん。しかし……彼女もまた、世慣れしてはいないな」


「そうだね。ジャンに、場所を覚えられちゃった。追跡して、あの女の仲間ごと、皆殺しにだって出来ちゃうけど……やらない」


「ああ。『蟲の教団』と『寄生虫』についての脅威を、排除して欲しいからな。取引だ」


「うん…………でも、フリジアから、お家を、奪っちゃったかも」


「彼女も言っていただろう。総合的な判断だ。ミアのせいじゃない。フリジアは、『カール・メアー』に合わなかったんだよ」


「……うん。だよね。フリジアは、合わないよ。だって、ビビのこと、本気で守ろうとしているもん。とっても、良い子なんだ」


「ああ。ミアの友だちだからな」


「……えへへ。うん。頭ぐりぐりー」


「はははは!」


 兄妹でいちゃつきながら、地上へと降りた。


『た、ただいま、戻りましたーっ!!』


 全力疾走を緩めながら、『巨狼』姿のジャンがゼファーの前にたどり着いた。すぐさま、例の音を立てて、ヒトの姿へと戻る。せわしく慌ただしい動きで、ゼファーの背に乗った。


「ほ、報告をっ!彼女を、そ、その……小さな漁港に、運びましたっ!」


「何人いた?」


「よ、四人ほど。鋼のにおいがしていました。そ、その、たぶん、帝国軍の装備です!『オルテガ』の軍とは、ち、違うにおいでしたが……っ。だ、第九師団の装備にも似ていました」


「『帝国軍のスパイ』は、第九師団に接近していたようだからな……少なくとも、『トルス』にもいた」


「あの女、『帝国軍のスパイ』と合流したのかな?」


「おそらく、そうだろう。嘘をつくのが得意そうじゃなかった。フリジアほど、素直ではないが、彼女もまた不器用なまでのマジメさはあったな」


「……今夜は、見逃してあげよう」


「そうしよう」


「さあ、ゼファー!戻ろう!夜の暗がりも、すっかりと濃くなったから、思い切り高く飛んでも見つからない!」


『らじゃー!!』


 夜空高くへと舞い上がる。帝国兵どもは、多少の捜索隊を出していたが、見当違いの方角をさ迷っていたよ。


 行き掛けの駄賃とばかりに、捜索隊の一つを矢と弾で全滅させると、『オルテガ』の上空を飛ぶ。こちらの襲撃のせいで、いまだに慌ただしく帝国兵どもが動き回っていたな。右往左往しているが……。


「比較的、静かだ」


「ねえ、ジャン……新しく血のにおいが漂っていたりはしない?」


「だ、大丈夫だよ。し、市民への虐殺は、起きてないみたい」


「良かった。『ルファード』軍の攻撃かと思って、武装蜂起したりしなくて……それをしてもらうには、早過ぎるもんね。同時に動かないと、威力が弱まっちゃうし、被害も大きくなっちゃう」


「だ、だよね。とりあえずは、だ、大丈夫みたい……そ、その。あ、あのね、ミア」


「ん。何か、気づいたの?」


「そ、そうじゃなくて……あ、あの女の人、ミアに、あ、謝っておいてって……」


「あいつが……」


「ふ、フリジアさんを、頼むとも……」


「…………っ」


「き、厳しいヒトだけど……そ、その、どこか……やさしくも、あるんだと思うよ。あの、ま、まるで、ちょっとだけ……『お母さん』みたいっていうか……」


 ……彼女は、怒るだろうが。『ゼルアガ』、『アリアンロッド』の慈悲と、『カール・メアー』の慈悲は、似ているところがあった。あの悪神は、不幸な運命の子供たちが、苦しみだらけの人生を送らないようにと……殺していた。殺したあとで、よみがえらせて、死者にして遊ばせていた。それを、守りもした。


 間違っているところもあるが、一種のやさしさもありはしたのだ。


「……うん。そだね。もう、あいつのことは、気にしない。大丈夫だよ。ちょっとは、良いトコロもあったヤツだと思えるようになれたから。今は……仕事の方に集中しよう!」


「そ、そうだねっ!団長、ミア、その……ど、どんどん、聞いてください。に、においで、『オルテガ』の状況を、把握してみますから……っ!」


 

 

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