第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その十七
ジャンが見せてくれた、実にわんぱくな動きに、ストラウス家の野蛮な血が触発されないはずもなくてね!
猟兵がここから飛ぶのならば、猟兵団長だって飛ぶのだよ!
「はあ!」
夜空へと飛び出して、重力に捕まり落下が始まる。竜騎士なんでね、このぐらいの高さから落ちても、地面に転がることで受け身を使えばダメージを分散することなど容易いものだが……今は、少しばかり技巧も使いたい。
左手を伸ばして、風車の外壁に触れた。
『竜爪の篭手』を試してもいいが、新品の竜爪を削ってしまうことは『奇剣打ち』のマスクの下をしかめ面にしてしまいそうだし、風車をムダに破壊することにもつながるからね!
風車の外壁にも紳士的な態度で応じてやるさ!
「『風』よ!」
手のひらで『風』の魔術を使う。大した力ではないが外壁と手のひらのあいだから空気を外へと吸い出してやるのだ。こうすれば、手のひらを外壁に吸着させられるのだよ。
すぐさま落下の速度にブレーキがかかり、痛みすらなく着地できる程度に落下速度は抑制された。
器用なものだろう。ほとんど魔力も使うことなく、こういった芸当もやれるのだよ。
『ちゃーくち!』
『ドージェ』が地面に到着するのを見ながら、ゼファーが言葉を合わせてくれた。愛らしい仔竜だよ、まったく。鼻先に飛びついて、全身をもって抱きしめてやりたくなるが、その役目はミアとなった。
「私も飛ぶ!いざ、じゃーんぷ!!」
我が妹ミア・マルー・ストラウス……ストラウス家の血は流れていなくとも、我が妹として育っているのだ。ストラウスの魂が与える衝動のままに星の瞬く夜空へと飛び込む。
「ゼファー、おーいーでー!」
『おっけー!』
ミアに呼ばれたゼファーが長い首を伸ばして、空中でミアと合体する!
「きゃはは!合体完了だー!」
『がったい、かんりょう!』
ゼファーの鼻先に抱き着いたミアは、そのままセミさんみたいにくっついたまま、ゼファーの鼻先をしばらくナデナデしてやっていたよ。
そして、身を動かす。紳士なゼファーも手伝うように首を動かしていた。ミアは鼻先からよじ登り、ゼファーの首をすべり台にして背中へと降り立つと、そのままジャンプして宙返りだ。
「とーう!!」
『ちゃーくち!』
その声と共に、ミアは地面へと降り立った。
「えへへ!いいカンジ!百点満点だった!」
「ククク!……ああ、良い動きだったぞ。レイチェルが見ていれば、褒めちぎるだろう」
「サーカスの芸人さんみたいな動きだったもんね!もう少しひねりを加えたジャンプもやれたけど……まあ、今夜はこれで満足!風車さんからも、飛び降りられたし!!」
キラキラとした瞳は黒真珠のように美しいものだった。星明りを吸い込む双眸は、大きな風車を見上げていたよ。
妹の視線にお兄ちゃんも惹かれるように顔を動かした。巨大な風車は夜に君臨している。羽を一枚、失ってはいるが、まったくもってその威厳は失われていない。竜爪で引っ掻いたりしなくて、良かったと思えたぜ。
「……あ、あのう……っ」
もちろん、ジャンのことを、忘れてはいないさ。
「待っていろ。荷車をもう一つ、持ってきてやる」
「行こう、お兄ちゃん!あそこにあるよー!」
「おう!」
ストラウス兄妹の仕事も早いよ。猟兵だからね。農民の放置した荷車をオレが引っ張り、ミアが後ろから押してくれた。
すぐさまジャンが支え続けていた巨大な柱の下に、支えとなる新たな荷台が差し込まれる。
「いいぞ。下ろしてくれ、ジャン」
「は、はい……っと」
「わーい!いいカンジに、ドッキングした!!」
「おう。『オルテガ』の農民たちは、合理的だな。荷車の高さにも、規格を設けていたようだ。しっかりと柱を支えてくれている」
『できあがったの?』
「あとは、固定もしておくべきだな。破城槌として使うんだ。これを加速させて城塞に突っ込む。その衝撃に負けたりせずに、城塞を貫いてもらわなくてはならん」
「じゃあ、ロープ取ってくるね!」
「おう。それと……ジャン!」
「は、はい!?」
「戦場で、何度か破城槌を見たことがあるはずだな」
「え、ええ。は、はい」
「現時点より、改良するとしたら、どんなアイデアがある?」
「え、ええ!?そ、そう、そうですね……っ」
ジャンのアタマを鍛えておきたい。筋力は大陸最強だろう。技巧も経験も、ゆっくりとだが確実に向上している。しかし、『それ以上』を目指して欲しいところだ。
素直に言えばね。
ジャン・レッドウッドは、オレよりも強い戦士になれる才能を持っている男だ。頭脳も鍛えておきたいのさ。
「どんなアイデアでもいい。破城槌の形は、多くある。記憶を辿ってもいいし、これを、動かしやすくするにはどんな方法が良いかを考えればいいんだ。ああ、お前の力で使うのではなくて、普通の戦士たちに使わせるとしたらだ」
ジャンはやさしい男だからな。自分のこととして考えるよりも、他人のこととして考えるように想像力を使った方が、良い結果を出しそうだ。そう思っての発言だよ。
「……は、はい……そ、その……お、押すための何かが、あればいいかなと?ふ、普通の人は、そういうのがないと……これ、ちょ、ちょっとだけ重たいかもしれませんから。こう、お、押すための棒が、横についていると良いと思います!」
「ククク!……いいアイデアだ。それで行くとしよう」
最良の完成度というわけでもないが、十分なアイデアだった。即席の破城槌としてならば、夜に身を隠せて使えるのであれば……満足の行く兵器となるだろう。
「さっそく、作るとしよう!適当な丸太を、探しに行くぞ!」
「は、はいっ!!」




